北海道放送(HBC)が「北海道新幹線 貨物撤退で“16分短縮”見込む 高速化を検討 国交省」とニュース番組で報じ、インターネット上でも8月19日に記事が掲載された。青函トンネル内で140~160km/hで運行している北海道新幹線を260km/hに引き上げた場合、所要時間が16分短縮できる。ただし、新幹線の全列車を260km/hで走らせるためには、貨物列車の全面撤退が必要とのこと。

  • 青函トンネルを走る貨物列車の縮小・撤退が検討されていると報道。後に「全面撤退断念」が報じられた

「検討している」という報道だから決定ではない。アイデアのひとつに貨物列車の分離があるという話だった。ただし、記事の中で「国交省は、青函区間でレールを共用する貨物列車を縮小・撤退させ、新幹線を高速化する検討を進めている」と、貨物列車の減便を肯定する内容になっている。物流業界の反発の声もあるという。

この報道が道内の物流業界を刺激したようで、翌日の8月20日、北海道新聞は「青函貨物の全面撤退断念 国交省 新幹線高速化に課題残す」と題した記事を報じた。国交省の「青函トンネル貨物撤退」は、昨年秋から本格的に検討していたという。しかし、輸送費のコスト高を懸念する農業界と、運転手不足に直面する運送業界から反対されたため、貨物列車は残す。海上輸送などの切替えでは、現在の輸送量をすべて置き換えられないとしている。

ただし、「一定程度残す」という部分が減便を示唆している。新幹線高速化のために追い出される貨物列車、貨物があるわけだ。国土交通省は2030年度の北海道新幹線札幌延伸までに新幹線全列車を高速化したい考えで、準備期間を見据えて2020年度内に方向性を示すとのこと。

東奥日報の8月28日付の記事「青函共用区間 高速走行拡大へ/国交省概算要求」では、国土交通省が2020年度から新幹線車両を200km/h以上で走らせる予定と報じている。そのために貨物列車を減便し、北海道新幹線の走行時間帯を拡大する。その調査・開発費として4億円を20年度予算で要求するという。

■青函トンネル内で最高260km/hの試験も実施へ

北海道新幹線は現在、青函トンネルを挟んだ約82kmの区間を在来線と共用している。在来線のレールと新幹線のレールを敷き、片側のレールを共用する「三線軌条」という方式だ。電化方式と保安装置は新幹線規格に合わせたため、在来線の貨物列車は新幹線の区間に対応した電気機関車EH800形の牽引で運転される。

この区間で北海道新幹線は140km/hの制限を受けた。理由は在来線の貨物列車とのすれ違いに支障があると考えられたからだ。後述するけれども、これは「考えられた」だけで、支障があるという根拠はない。新幹線開業まで運行していた在来線の特急「白鳥」「スーパー白鳥」は140km/hで走り、貨物列車とのすれ違いに支障はなかった。

2017年6月、国土交通省の青函共用区間技術検討WGは、「新幹線とコンテナ貨車がすれ違う際の圧力変動等による影響」について、すれ違い時などの圧力変動の影響を解析するモデルを使ったシミュレーションしたところ、新幹線が160km/hで貨物列車とすれ違っても、コンテナに発生する応力はコンテナ強度の基準値を超えないとわかった。すれ違い時の軸重の変化や横圧について、走行安全性に問題がないこともわかった。

  • 北海道新幹線は2019年3月ダイヤ改正から一部列車で青函トンネル内の運転速度を160km/hに引き上げた

その結果、トンネル内での新幹線車両による160km/h運転は問題なしと結論づけられた。2019年3月のダイヤ改正から、北海道新幹線の一部列車で青函トンネル内の160km/h運転が開始された。つまり、140km/h制限は実績にもとづいた数値にすぎず、実際に試験を行ったところ、160km/h走行も可能とわかった。

河北新報の2019年1月12日付の記事「<北海道新幹線・青函トンネル>180キロ走行安全を確認 青森県議会対策特別委」では、2018年9月に新たな走行試験が行われ、新幹線車両が180km/hで貨物列車とすれ違っても問題ないという結果だったと報道されている。その後、2018年度内に210km/hで走行試験が行われる予定だったけれども、地震や台風の影響で延期された。次の試験は今年の9月4日から10月21日まで実施予定。試験範囲は200~260km/hとなっている。

実績重視で140km/h制限だった新幹線が、試験の結果、160km/h、180km/hで問題なし。210km/hでも走行できるかもしれないとなると、「新幹線と貨物列車のすれ違い速度の限界はどこか」という話になる。もしかしたら、いまのままの状態でも260km/h運転は可能かもしれない。そのままでは駄目でも、貨物列車の台車やコンテナ取付け装置の改良、風圧を軽減する最低限の壁の設置などにより、260km/h運転が可能になるかもしれない。そんな期待を抱かせる。

仮に現状のままで260km/h運転が可能になった場合、新たな問題がある。それは貨物列車と新幹線の速度差だ。すれ違いではなく、同一方向の貨物列車に新幹線車両が追いついてしまい、最高速度を発揮できない場合も考えられる。貨物列車の減便、分離については、北海道新幹線の乗客増が予測できた段階で始める必要がある。

新幹線を260km/hで運転するために貨物列車を減便する。減便した分はフェリー輸送に転換する、貨物用新幹線車両を製造する、あるいはいっそのこと、第二青函トンネルを作るなどの検討もされている。しかし、すれ違い速度の限界がわかるまでは、貨物列車の分離は考えなくてもいいのではないか。もし、結果として分離が決まったとき、対処が北海道新幹線の札幌延伸に間に合わないというなら、まずは260km/h運転の試験と対策を早めて、可否の結論を急いだほうがいい。