無料の時刻表検索サイト「えきから時刻表」が2月1日にサービス終了を告知した。このことが「乗り鉄」系鉄道ファンを中心に波紋を広げている。完全無料、広告表示がないなど「商売っ気のなさ」が心配だったけれど、やはりビジネス面は難しかったか……。

  • 「えきから時刻表」トップページ

    「えきから時刻表」トップページ。赤い文字で「2019年3月29日(金)をもちまして、サービスを終了」とある

運営会社のぐるなびに問い合わせたところ、「えきから時刻表」に関して「コメントは差し控える」とのことだった。各方面からの反響が大きく、コメントを出すことでユーザーを混乱させたくないとの思いが感じられた。

「えきから時刻表」は、飲食店情報サイトなどで知られるぐるなびが運営する時刻表検索・列車乗換案内検索サイトだ。乗換検索サイトはいくつかあるけれど、「えきから時刻表」が他のサイトと決定的に違うところといえば、「駅時刻表」「路線時刻表」「列車詳細」の表示があることだった。乗換検索だけではわからない情報を教えてくれる機能だ。

「駅時刻表」では、駅のホームに掲示される時刻表のように、列車の発車時刻を1時間ごとに分け、帯状に表示している。これを見れば、どの時間帯に列車が多いか、おおむね何分おきに列車が来るか、さらには各列車の行先や特急列車・普通列車の比率などもわかるようになっていた。

通常の乗換検索では、希望時刻を中心に数種類の候補しか表示されない。これは直接的に便利な列車を教えてくれるという利点がある。一方、「駅時刻表」は列車の運行状況を量的に把握できることが利点といえる。両者はデジタル時計とアナログ時計の関係に似ている。「駅時刻表」によって、数値単体ではわからないことが見えてくる。

「駅時刻表」で列車の発車時刻をクリックすると、「列車詳細」が表示される。これが「乗り鉄」にとって楽しい機能だった。市販の時刻表では発車時刻しか表示されない駅も、「えきから時刻表」の「列車詳細」では着時刻・発時刻の両方が表示され、列車の追い越しやすれ違いのための長時間停車を把握できた。筆者も特急列車や長距離普通列車に乗る際、つねにスマホで「列車詳細」を見ていた。

「路線時刻表」は市販の時刻表に近い表示方式になっている。しかも市販の時刻表より「発着表示」する駅が多く、詳しかった。列車番号が表示されることも、鉄道ファンにとってはありがたい。相互直通運転を行う私鉄の路線などにおいて、列車に使用される車両の所属先などを知る手がかりになるからだ。JR各社の列車番号は市販の時刻表にも掲載されているけれども、私鉄の列車番号を得られるサイトは「えきから時刻表」だけだった。私鉄の公式サイトも列車番号までは載せていないところが多い。

「路線時刻表」では、複数の路線にまたがる列車は「接続」というリンクをクリックすることで追跡できた。各駅の「発」をクリックすると「駅時刻表」に切り替わり、「列車詳細」「路線時刻表」の駅名をクリックすれば、駅ごとの「駅時刻表」「列車詳細」「路線時刻表」のリンクページが現れる。

「路線時刻表」のような表示機能は、交通新聞社がスマホで提供する「デジタルJR時刻表 Pro」「デジタルJR時刻表 Lite」でも採用されている。「JR時刻表」のデジタル版だけに、巻頭地図で駅や路線の表示に切り替えるなど、便利で表示も速い。ただし有料だ。「えきから時刻表」は動作がもっさりとした印象があるものの、無料である。本当にありがたいサイトだった。

■乗換案内サイトの競争もサービス終了の要因に?

とはいえ、無料ゆえに「えきから時刻表」に対する不安もあった。率直に言えば「商売っ気のなさ」が不安材料となっていた。ネット上の無料サービスは急に消えてしまう事例も多い。「えきから時刻表」は広告掲載枠が少なく、しかも広告はぐるなび関連ばかり。有料会員制度もない。

ウェブのコンテンツ制作にはお金がかかる。JR各社の時刻データは交通新聞社の「JR時刻表」が元になっている。私鉄のデータに関して、筆者の調べでは別の会社が情報を提供していたようだ。こうしたデータの購入費用が毎月発生しているし、市販の時刻表をコツコツ打ち込むような仕事ではないと思うけれども、インターフェースに合わせたデータの加工は必要だろう。つまり人件費だってかかる。

そうした費用はどこで回収しているのか。利用者からは見えない。ここからは想像の域だけど、リンク先を見る限り、ぐるなび本体の「飲食店ガイド」に連動するサービスという位置づけだったようである。「駅時刻表」「列車詳細」「路線時刻表」の各ページの下に「周辺のグルメ情報」のリンクがあり、乗換検索結果の各駅にもレストラン情報のリンクがある。つまり、鉄道ファンにとってのメインコンテンツは「ぐるなび」にとって「付録」だった。

そして、ぐるなび本体の業績は厳しい。ぐるなびは情報掲載する飲食店会員の会費が収入源となっている。日本経済新聞の2月4日付「ぐるなび減収減益、有料加盟店の解約止まらず」によると、「2018年4~12月期の連結営業利益は前年同期比71%減」とのこと。株価は2018年5月8日に1,600円まで上がったものの、5月11日に961円まで下がっていた。2019年2月6日の終値は686円だった。「えきから時刻表」の終了は、「直接的な収益にならない部門」のリストラという見方がわかりやすい。

乗換案内サイトの競争も「えきから時刻表」終了の要因といえる。乗換検索サイトは「駅すぱあと」(ヴァル研究所)、「乗換案内」(ジョルダン)、「駅探」(駅探)、「ハイパーダイヤ」(日立システムズ)などがシステムを構築して直接運営するほか、ポータルサイトに販売している。システムの更新、サービスの増強がつねに行われている。

たとえば、「駅すぱあと」を採用している「Yahoo! 乗換案内」では、鉄道だけでなく路線バスにも対応し、「Yahoo! 地図」とリンクして駅付近の地図も表示する。その他、バス路線まではスムーズに検索できなくても、路線バスや航空路線の検索機能を持つサイトは多い。

一方、JTBが運営していた「るるぶ交通・経路検索」は2018年5月23日にサービスを終了した。こちらも鉄道ファンに人気で、経由駅を複数入力することで、初めから複雑な経路を調べられた。「青春18きっぷ」のプラン作りで役立つページだった。

乗換案内サイトとして成功するなら、システムのアップデートも必要になる。しかし、「えきから時刻表」の検索窓はバス停留所に対応していない。鉄道のみの検索でも経由駅を指定できない。ぐるなび本体の業績から考えて、無料サービスを改良する予算は捻出できなかったのではないかと考えられる。

広告をしっかり取るか、あるいはデジタル時刻表のように有料化して存続させる方法はなかったのか。鉄道ファン向けの凝った機能を備えても、収益には結びつかないということか。収益性を疑問視しつつも、「えきから時刻表」はいつもあるもの、ずっとあるものだと安心しきっていた。ああ、まるで廃止が決まったローカル線と同じパターンだ。有料課金制でもいいから、「えきから時刻表」を継承するサービスが欲しい。