JR西日本は11月13日、おおさか東線で新規開業となる「北区間」新大阪~放出間を含む全線開業後の運行体系を発表した。速達タイプの列車として、大和路線(関西本線)に乗り入れ、新大阪~奈良間を結ぶ直通快速が平日・土休日に上下各4本設定された。しかし、最も恩恵を受ける地域は奈良ではなく、大阪東部の城北公園エリアや学研都市線(片町線)沿線地域だろう。

  • おおさか東線(赤、太線が新規開業区間)関連のJR路線略図。黒がJR東西線・学研都市線、水色が大和路線(国土地理院地図を加工)

おおさか東線は既存の城東貨物線の施設や用地を活用しながら旅客線として整備された。2008年3月に「南区間」の放出~久宝寺間が開業。沿線の鉄道空白地帯を解消した。JR東西線・学研都市線・おおさか東線・大和路線経由で尼崎~奈良間を結ぶ直通快速の運転も始まった。大和路線の久宝寺~奈良間から大阪中心部を横断し、JR宝塚線(福知山線)、JR神戸線(東海道・山陽本線)へ接続するネットワークを築いた。

すでに報じられているおおさか東線全線開業後の運行体系をまとめると、直通快速はすべて「北区間」経由となり、新大阪~奈良間を結ぶ。現行の尼崎~奈良間の直通快速は運転取りやめとなる。これを不便に感じる人もいるかもしれないけれど、路線図と運行系統を見ると、学研都市線とおおさか東線は交差しており、要となる放出駅はそれぞれの進行方向で同一ホーム乗換えが行われることになるようだ。

もちろん、東海道・山陽新幹線の主要駅である新大阪駅と、歴史的観光地である奈良を直結するルートができることで、観光面からの期待も大きいだろう。奈良はリニア中央新幹線の駅を設置する計画もあり、奈良県の交通アクセスはより便利になるはずだ。

しかし、おおさか東線全線開業後の新大阪~奈良間を地図上でなぞってみると、とくに放出~奈良間において、南側に大きく迂回している。これに対し、大阪難波~近鉄奈良間で列車を運行する近鉄奈良線は直線的に結ばれている。近鉄奈良線は料金不要の快速急行で大阪難波~近鉄奈良間の所要時間約40分、運賃560円。一方、おおさか東線の直通快速は新大阪~奈良間の所要時間約60分、運賃920円と発表されている。残念ながら大阪・奈良間では勝負にならない。いや、だからこそ直通快速は近鉄奈良線などと競合する大阪都心経由をやめて、新大阪駅発着に活路を見出したともいえそうだ。

  • おおさか東線「北区間」の略図(国土地理院地図を加工)

おおさか東線「北区間」の開業で最も便利になる地域はどこかというと、やはり「北区間」沿線の鉄道空白地帯ということになるだろう。とくに南吹田駅・城北公園通駅付近である。南吹田駅は吹田貨物ターミナルの南側にあり、吹田操車場時代から貨物取扱いの歴史はある。しかし旅客用設備がなかった。

南吹田駅の予定地からは、最も近い駅まで徒歩で20分以上もかかる。城北公園通駅の予定地も同様で、大阪駅へは直行の路線バスで30分前後。都心の渋滞を考えるとつらい状況かもしれない。おおさか東線「北区間」が開業すると、新大阪駅へ直結するだけでなく、大阪都心から放射状に延びる私鉄・地下鉄各線とも乗換え可能となり、梅田にも難波にも電車で行けるようになる。かなり便利だ。

おおさか東線「北区間」の東側にある大阪市旭区は自然の多い住宅地だという。徒歩圏内に公立学校が多く、子育て支援も充実しているそうだ。城北公園は菖蒲園でも有名な観光地といわれている。おおさか東線「北区間」の西側にある大阪市都島区は市の中心部に近く、カネボウ淀川工場跡地のベルパークシティに高層マンションなどが集まる。北部の淀川付近は自然が多く、緑道もあり、住宅環境としては魅力的。「北区間」の開業にともない、城北公園通駅周辺は人気が高まると予想される。

ちなみに、おおさか東線の直通快速は「北区間」の途中駅をすべて通過し、南吹田駅・JR淡路駅・城北公園通駅・JR野江駅・鴫野駅に停車する列車は普通列車のみ。JR西日本の発表によれば、おおさか東線の普通列車は国鉄時代から活躍する201系がおもに使用されるとのことだ。鉄道ファンとしては、まだまだ頑張ってくれるのか……と興味深い。

  • おおさか東線の普通列車はおもに201系6両編成で運転される

おおさか東線の沿線以外では、学研都市線の放出駅から東側の区間にも注目したい。学研都市線・JR東西線の直通運転に加え、おおさか東線全線開業によって放出駅での同一ホーム乗換えが実現すれば、新大阪駅へのアクセスは現在より格段に向上するはずだ。学研都市線からおおさか東線へ直通運転の期待もあっただろう。今後の対応は比較的容易と思われるだけに、旅客動向次第で新大阪直通が実現する可能性もある。

北梅田(仮称)駅や「なにわ筋線」との関係性も気になる。「なにわ筋線」は梅田貨物駅跡地の北梅田(仮称)駅から南進してJR難波駅・南海新難波(仮称)駅に至り、その先には関西国際空港を見据えている。阪急電鉄も十三駅から北梅田(仮称)駅へ連絡線を構想している。北梅田(仮称)駅と新大阪駅との間には貨物線が通っており、JR西日本は関空方面へのアクセス強化などを目的に、この区間を整備する計画を進めている。

北梅田(仮称)駅への乗入れなどに関して、JR西日本は詳細を明らかにしていないけれども、「JR京都線(東海道本線)のダイヤを支障しない」という意味で、おおさか東線を延伸して北梅田(仮称)駅に到達させるという案はわかりやすい。北梅田(仮称)駅への乗入れ、なにわ筋線との直通にも期待したい。