JR東日本仙台支社は7月26日、「仙台港クルーズ船アクセス列車」の運行を発表した。運行日は9月14日と9月26日。貨物線の仙台臨海鉄道仙台埠頭駅を出発し、陸前山王駅から東北本線に乗り入れて松島駅に至る。

  • 仙台港クルーズ船アクセス列車の経路(国土地理院地図を加工)

使用車両はキハ48形改造車「リゾートみのり」3両編成、定員は計104名。両端の車両は運転席後ろに展望スペースがある。座席の窓は大きく、眺望を楽しめる。2号車にイベントスペースもあり、「リゾートみのり」として運行する場合は陸羽東線でミニライブ演奏などが行われるという。

仙台埠頭駅から陸前山王駅までは貨物専用線。仙台臨海鉄道の仙台埠頭線・臨海本線で、走行距離は5.8km。もちろん普段は旅客列車が走らないルートだ。地図サイトで確認したところ、仙台港中野1号ふ頭に駅があり、ここを出発した列車はアルファベットの「U」の字のようなカーブで向きを反転させて倉庫街を走る。仙石線のガードをくぐるあたりから住宅街になり、砂押川に沿って陸前山王駅へ向かう。とびきりの良い景色とはいえないようだけど、変化に富んだ車窓になると想像できる。

もちろん東北本線に入れば松島を望む区間もある。しかし「乗り鉄」としては貨物線が興味深い。普段、旅客列車が走らない線路に旅客列車が走るとなれば、乗ってみたくなる。関東では旅行会社主催の団体貸切扱いで貨物線ツアーが開催されるけれど、仙台臨海鉄道に乗るチャンスはほとんどなかった。「乗り鉄」にとって魅力的だけど、仙台港クルーズ船アクセス列車は、文字通りクルーズ船にアクセスするための列車。クルーズ船の乗客専用。つまり、この列車に乗りたければクルーズ船ツアーに参加する必要がある。

本土と離島を結ぶ定期船などとは違い、クルーズ船は観光客だけを対象とする。豪華な設備の大型客船を使い、客室はホテル並みの設備。レストランやバーなどの娯楽施設もしつらえる。観光地の港に立ち寄るツアーもあれば、洋上のみで過ごすツアーもある。つまり、交通手段ではなく、乗ること自体が目的の旅客船といえる。

仙台港クルーズ船アクセス列車の運行日に仙台港を発着する船は、郵船クルーズが運行するクルーズ船「飛鳥II」。9月14日は「仙台発着 函館秋紀行クルーズ」と題した3泊4日のツアー最終日にあたる。9月26日は横浜発着「秋の日本三景クルーズ」と題した11泊12日の10日目で仙台に寄港する。このどちらかのクルーズ船ツアーに参加して、さらに仙台港クルーズ船アクセス列車を含むオプショナルツアーに参加する必要がある。

ちなみに、「仙台発着 函館秋紀行クルーズ」の最低料金は客室タイプ「K:ステート」で、2名1室利用時の大人1人あたりの料金は11万7,000円。これにオプショナルツアー代金が加わるから、12万円以上となるだろう。「秋の日本三景クルーズ」の最低料金は、全行程のうちEコースで、金沢発横浜着の5泊6日。客室は「K:ステート」で、2名1室利用時の大人1人あたりの料金が26万円。ここにオプショナルツアー代金が加わる。つまり、仙台港クルーズ船アクセス列車に乗るには、最低でも12万円以上かかることになる。

もっとも、クルーズ船ツアーは「乗り鉄」の視点だと“おまけ”になってしまうけれども、内容は充実している。最も安価な客室「K:ステート」はビジネスホテルのツインベッドルーム並みの広さで、大きなクローゼットとバスタブ付きのユニットバスがある。窓も大きい。とくに「仙台発着 函館秋紀行クルーズ」の函館からの帰路は、コーラスグループ「サーカス」のコンサートが開催される。サーカスといえば、ブルートレインブーム全盛期の1979年に放送されたドラマ『鉄道公安官』のエンディングテーマ「ホームタウン急行」を歌ったグループ。ブルトレ世代の鉄道ファンには懐かしいはず。

仙台港クルーズ船アクセス列車に乗りたければ、「仙台発着 函館秋紀行クルーズ」の最低料金ツアーに参加する。そのツアーはブルトレ世代にとっても良い内容だ。しかし「5.8kmの貨物線乗車ツアー + 仙台函館間クルーズ船付」で12万円以上という旅費は悩ましい。このツアーが成功したら、ぜひ他のクルース船でも実施してもらいたいし、可能ならこの列車に乗るだけのツアーも実施してほしい。

  • 秋田港駅に停車中の「あきたクルーズ号」

貨物線を使ったクルーズ船接続列車は、JR東日本としては秋田駅と秋田港駅を結ぶ「あきたクルーズ号」に続いて2例目になる。「あきたクルーズ号」は先週末に一般客も乗車できる列車が走った。7月28・29日に開催された「秋田港 海の祭典2018」への交通手段として、往復乗車とショッピングモール商品券を組み合わせたパッケージツアーとして販売された。筆者も7月29日に乗車し、貨物線の旅客列車を体験した。

仙台港のクルーズ船専用列車も、今後、クルーズ船と連携して増便し、成功したあかつきには、ぜひ秋田港のような一般客向けツアーも実施してほしい。仙台港から西に向かう仙台西港線の沿線に、アウトレットパークとコンベンションセンターがある。1987年と1997年に臨時駅を設置して博覧会の観客輸送をした実績もある。SL列車も走らせたという。

仙台港クルーズ船アクセス列車の成功を祈りつつ、次の展開を期待したい。