12月25日、岩手県の広聴広報課のTwitter公式アカウントが、JR山田線宮古~釜石間の移管にともなう三陸鉄道の新たな路線名を「リアス線」と明かした。同日に開催された三陸鉄道の取締役会で決定したという。現在の北リアス線・南リアス線とJR山田線の移管区間が「リアス線」として1本化される。久慈~盛間、全長約163kmの路線で、開業は2018年度内の予定だ。

  • 三陸海岸の路線が統合され「リアス線」に(国土地理院地図をもとに作成)

三陸鉄道は岩手県の沿岸部で北リアス線・南リアス線を運行する。北リアス線は旧国鉄宮古線(宮古~田老間)・久慈線(久慈~普代間)を移管し、両路線を結ぶ田老~普代間を新設して開業した。南リアス線も旧国鉄盛線(盛~吉浜間)を移管し、吉浜~釜石間を新設して開業した。

同じ鉄道会社ながら、北リアス線・南リアス線は離れている。その理由は、2つの路線の間にある宮古~釜石間がすでに旧国鉄山田線として開通していたから。本来はすべて国鉄の路線として開業する予定だった。明治時代から「陸の孤島の三陸地域を鉄道で結ぶ」という「三陸縦貫鉄道」の構想があり、仙台から三陸沿岸を経由して八戸を結ぶルートが想定されていた。

三陸縦貫鉄道は国鉄と鉄建公団によって順次建設され、開業した。しかし国鉄の赤字問題によって、建設中の路線は凍結され、開業済みの路線も廃止が取り沙汰された。三陸縦貫鉄道は三陸地域の悲願であり、未完成区間はすべて岩手県内だ。そこで岩手県や沿線市町村が出資し、1981年に三陸鉄道を設立。特定地方交通線と未完成の路線を整備して、1984(昭和59)年に北リアス線・南リアス線を開業した。

JR山田線は内陸部の盛岡駅から沿岸部の宮古駅へ、さらに南下して釜石駅に至る路線だ。明治時代に内陸部の盛岡と沿岸部の陸中山田を結ぶために計画された区間と、沿岸部の陸中山田と大船渡を結ぶために計画された区間の一部が山田線となった。1939年に国鉄の路線として開業し、こちらも赤字ローカル線であったけれども、代替交通機関がないという理由で廃止対象にはならず、国鉄分割民営化後はJR東日本が継承した。

三陸鉄道の開業で、明治時代からの悲願だった三陸縦貫鉄道構想は実現した。三陸鉄道は開業時から黒字であり「第三セクター鉄道の優等生」のように扱われた時期もある。その後は乗客数、売上ともに減少傾向でも、なんとか運行を続けてきた。

その歴史は2011年に分断された。東日本大震災で三陸鉄道北リアス線・南リアス線とJR山田線沿岸区間は壊滅的な被害を受けた。

さらに、復旧の過程で三陸縦貫鉄道は法的な問題に突き当たる。赤字の第三セクター鉄道だった三陸鉄道は、復旧にあたって国の支援を受けられた。北リアス線・南リアス線ともに復旧工事が行われ、2014年までに全線で列車の運転を再開している。北リアス線はNHKの朝ドラ『あまちゃん』のロケ地となり、観光客でにぎわった。

一方、山田線はJR東日本が黒字だったために国の支援を受けられなかった。JR東日本としては、復旧したとしても利用者数が見込めず赤字になるため、運行コストの低いBRTによる復旧を提案した。しかし沿線自治体は反発。気仙沼線・大船渡線の被災区間がBRTで復旧しても、山田線の海岸区間については復旧の方向性が定まらなかった。

新たな展開は2014年1月。JR東日本は山田線の沿岸区間を復旧させ、線路設備を沿線自治体に、列車の運行を三陸鉄道に移管する構想を提案した。最終的にJR東日本は線路設備の復旧費用として140億円を負担し、今後の赤字対策として30億円を拠出するなどで合意し、2015年に復旧工事が始まった。

「リアス線問題」解決も新たな問題が発生?

12月22日には、JR東日本盛岡支社から山田線宮古~釜石間の復旧状況が公表されている。工事は順調のようで、路線名の決定と合わせて明るい話題となった。そろそろ鉄道趣味的な話題で盛り上げても良さそうだ。

北リアス線・南リアス線が「リアス線」に統合されるため、路線名のモヤモヤがすっきりする。じつは、北リアス線の沿線は海岸段丘という地形で、リアス式海岸ではない。「三陸の海岸はリアス式」とは筆者の小学校時代の教科書にもあったような気がするし、イメージとしては納得だけど、実態は違う。

南リアス線や山田線宮古~釜石間の沿線はリアス式海岸だ。山田線沿岸区間を「リアス線」とし、北リアス線・南リアス線の路線名を残す案もあったというけれど、全区間が「リアス線」となれば「リアス式海岸を通らないリアス線」という矛盾は解決する。

路線名としてはもうひとつ。「山田線」はどうなるか。前述の通り、盛岡駅と陸中山田駅を結ぶ路線として建設された経緯から「山田線」だった。しかし、陸中山田駅を含む沿岸区間は三陸鉄道に移管され、「リアス線」になってしまう。山岳区間だけの山田線は陸中山田駅を通らない。「リアス線問題」が解決したと思ったら「山田線問題」という新たな矛盾が発生してしまった。

「山田線」の名前がそのまま残るか、改称されるか。あるいは「ドラゴンレール」のような路線愛称でお茶を濁すか。この機会に路線名を公募すれば、観光キャンペーンのひとつとしても盛り上がる気がするけれど、どうだろう。

  • 東日本大震災前に走った「リアス・シーライナー」の運行経路(国土地理院地図を元に作成)

次に気になるところは、「全区間直通の列車が運行されるか」だ。東日本大震災で被災する前には、仙台~八戸間を三陸海岸経由で結ぶ「リアス・シーライナー」という列車が運行されていた。もし「リアス線」が復旧しても、気仙沼線と大船渡線はBRTになったため、仙台駅発着は難しい。そもそも全長163kmもあれば、乗客に都合の良い時間に合わせた区間運転を設定するほうが親切というものだ。

しかし、全長163kmの「リアス線」で直通列車が走ったら、乗りたいと思う人は筆者だけではないだろう。八戸線も組み入れて、盛~八戸間。JR東日本からちょっといい車両を借りて走らせる。三陸鉄道が最近流行りの観光列車を作る。いろいろと妄想がはかどる。

2018年度開業だから、実際の運行開始は2019年春のダイヤ改正からと予想する。あと1年ちょっとである。運行開始に向けた新しい情報に期待しよう。