はじめに

前回は新人を"育成した側"である遠藤さんのお話を伺いました。遠藤さんの育成プログラムは、"育成された側"にはどういうように受け入れられたのでしょうか。今回は、"育成された側"である惣島さんにインタビューを行いました。

大学の学部は情報メディア系。携帯電話でアクセスする電子商取引サイトの構築などを勉強していました。会社でも、できれば携帯電話関係の仕事をしたいと思っていましたが、配属は別の製品開発担当部署。それでも最初は、鉄道会社の司令室で使う運行表示盤の画面設計という、制御動作を視覚的に理解しやすい仕事だったので助かりました。後で聞くと「情報系から来たあなたには、こういう仕事のほうが取り掛かりやすいだろう」という上司の配慮だったようです。

入社1年目 - まずはスケジュール表を自分で作る

最初に苦労したのは、『設計』『実装』『テスト』という一連の計画を自分で立てなければならないこと。それぞれの工程にどれくらいの時間が掛かるのか、見当もつきませんでした。自分なりに考えたスケジュール表を先輩に見せたところ「このあたりはもっと時間が掛かるはず」と先輩に指摘されました。実際にやってみると、私の見積が甘かったことはすぐに分かりました。『たとえスケジュールに遅れが出たとしても、それを上司にきちんと報告してその都度、指示を受ける』『遅れをリカバリーするための方法を考える』という2つのことを最初の1年間で叩き込まれました。

いきなりカーナビの走行テスト - はんだごてを握ってハーネスを自作

入社2年目にはチーム全体がカーナビゲーションシステム(以下、カーナビ)の開発にシフトすることになり、私が先遣隊のような形で客先に常駐することになりました。上司から「客先でもまれて来い!」と言われたのですが、最初はとても不安でしたね。飛び込んだ現場は、いきなり、ある先行開発モデルのテストフェーズ。右も左も分からないままに、実機を自動車に積んでの走行テストです。

実機を組み付ける段階になって「ハーネス(電源ケーブルなどを束ねるユニット)がないぞ!」と言われて、私がつくるハメに。ハーネスなんて学生時代、触れたこともない。はんだごてを持つことさえ、中学時代の技術家庭の授業以来でした。

そんなこんなで悪戦苦闘のテスト。通信アナライザをチェックしていたら、どうもBluetoothの通信制御がおかしい――これはプログラムのバグでした。計測機器で制御ソフトウェアの動作をチェックするというのは初めての経験。パソコンで作成したソフトウェアをパソコン上で動かすことしか経験のなかった私にとっては、「ああ、これが、組み込みの世界なんだ」と妙に納得した瞬間でした。こうして、テスター(テスト係)としての役目はかろうじて果たせました。

プログラムが思い通りには動かない。一定環境ではうまくいっても、別の環境ではうまくいかない――そこが組み込み開発のおもしろみであり、難しいところ。それを肌身で感じさせるというのが先輩の教育方針のようでした。ものの見事にその"策略"にハマったというわけです。

涙のETロボコン - 組み込み開発のおもしろさと難しさを知る

入社1年目は新人チームのメンバーの一員として、そして2年目には新人チームの指導員として関わった「ETロボコン」(組込みシステム技術協会主催のソフトウェアデザインロボットコンテスト)も忘れられない経験です。1年目は、私の配属先の新人は全員参加しましたが、人数が多くて混乱しました。初めての経験ということもあり、それぞれの役割分担のしかたが分からず、コースごとに分担を決めてプログラムを書き始めたのですが、これが大変。バラバラのプログラムをひとつに統合する難しさを味わいました。案の定、意図しないところでロボットはコースアウト。無念の予選敗退に終わりました。

そして2年目は私が指導員役に抜擢されました。前年の失敗を踏まえ、新人の中からリーダー役を選び、プログラム作成、ハードウェア設計、車体(ロボット)メンテナンス、ドキュメント作成と機能ごとに適材適所で担当を振り分けました。私自身も1年の業務経験により、チームで開発するためには手順とルールが必要だということを学んだからです。指導員として自分に何ができるかも考えました。今回の新人は能力の高い人ばかり。「プログラムを書く」だけではない大切なこと、前年の失敗から学んだことなど、伝えることがたくさんありました。たとえば、大会当日の持ち物チェックリストは必ず用意するようにと伝えました。「まるで幼稚園の遠足みたいだ」と言われましたが、前年はそれで失敗していたので、念には念を入れたのです。

そのころ、ちょうど私は客先常駐が始まったところで、仕事を終えてから本社に駆けつける日々。夜遅くまでがんばりました。それでも結局は、もうちょっとのところで完走できず、再び無念の涙…となってしまいました。ただ、新人にとってはこの体験は、貴重な財産となるでしょう。「失敗から得るもの」の大きさを私は痛感しています。新人にも「なぜ失敗したのか」を考え、失敗を糧に大きく成長してもらいたいですね。

ETロボコンは大変でしたが、ここで学んだことは大きい。とりわけ、2回目に学んだチームマネジメントの重要性は、私のこれからの課題です。私はまだ経験が浅いので、マネジメント手法を先輩方から学び、後輩に伝えていきたいと思います。

"育成された側"の惣島さん(左)と、前回登場した"育成した側"の遠藤さん(右)

執筆:広重隆樹(編集工房タクラマン) / 編集協力:宮澤省三(エム・クルーズ)
写真:簗田郁子 / 取材協力:日立アドバンストデジタル

※ 次回は2月18日に掲載いたします。お楽しみに。