NAM(ナム)
グラフィックデザイナー・中沢貴之(左)とフォトグラファー・間仲宇(右)によって結成されたグラフィック/アートコレクティブ。「A fantasy in life」を主題にヴィジュアル表現の可能性を探す制作をしている

写真編集ソフトの定番「Photoshop」が、今年で25周年を迎えます。そこで、フォトグラファーやデザイナー、イラストレーターなど、このソフトを愛用している各界のクリエイターに、アニバーサリーイヤーを記念して、ご自身とPhotoshopに関するエピソード、そしてPhotoshopへのお祝いの言葉を寄せていただきました。

今回ご登場いただくのは、6月16日にリリースされたばかりの「Adobe Creative Cloud 2015年リリース」を象徴するグローバルIDビジュアルを手がけた、グラフィック/アートコレクティブ「NAM」のグラフィックデザイナー・中沢貴之さんと、フォトグラファー・間仲宇さんです。

――はじめて触れたPhotoshopのバージョンと「第一印象」は?

中沢さん: 私はアナログ時代とデジタル時代の両方を知っている最後の世代で、Photoshopはその過渡期に初めて触れました。かなり初期のバージョンのはずです。その頃は、PCは事務所に置物のようにあるだけで、映画『2001年宇宙の旅』のモノリス状態(笑)という、そんな時代でした。たまにアプリケーションをちょっといじったりして、でも結局何に使ったら良いかよく分からなくて、また手作業に戻るみたいな。まさに、あの映画の猿人の様な状態でした。

間仲さん: まだ学生の頃に、授業で体験したのが初めてでした、バージョンは覚えていないのですが、まだフィルム撮影全盛のころなので、撮影したフィルムをスキャンして出力して…と、アナログより手間と時間がかかる、そんな印象でした。ですが、クオリティーの高いデジタルカメラの登場で、一気にPhotoshopユーザーになりました。

――普段の業務・活動におけるPhotoshopの使い方を教えてください。

中沢さん: NAMにおいては、主にカンプの制作で使用します。「最終イメージの確認」、「細部を含めた美術の発注」、「セットアップ時の設営スタッフとの意思疎通」などの進行がスムーズになるため、最近では緻密なカンプ制作が必要不可欠になりつつあります。

また、各工程においてシュミレートすることで、私自身がビジュアルを把握することにもつながっています。現場で詳細なカンプに全てを引っぱられたくはないけれど、事前の極限までいったん詰める作業が、ビジュアルを作る上で思考に深みを与えてくれるんです。矛盾した言い方になってしまうのですが(笑)

間仲さん: 主に撮影後の写真をフィニッシュに向けて、ブローアップするために使用させていただいています、"Photoshopにどれだけ頼らずに良い写真を撮影できるか?"がポイントだったりするのですが、現場の状況に応じて後処理で対応した方が良い場合も多く、いつも助けてもらっています。

――最もよく使う/気に入っているPhotoshopの機能は?

間仲さん: 以前からある機能ですが、レイヤーに分けて作業を進められるというのは画期的だと思っています、作業ごとにあとで戻ったり、調整したり、自由自在ですからね。

――最後に、25周年の節目を迎えたPhotoshopへの激励の言葉をお願いします。

間仲さん: 25周年おめでとうございます。アナログからデジタルへ移行して、Photoshopに触れていくことで、逆に写真というメディアを理解できた部分があります、デジタルでは物理的には何でもできてしまう訳ですが、写真というメディアの中で考えると、手を入れすぎると「写真」でなく「絵」になってしまう瞬間があって…そのはざまを行き来することで写真であるためにはどうすれば?などと考えるようになり、いまではそれが自分の考えの重要な部分になっています、Photoshopが無かったらまた違う考えをしてたかもしれませんね。これからもさらなる進化を期待しております。

中沢さん: 25周年おめでとうございます! Photoshopがビジュアル世界に与えた影響は非常に大きく、それ以前・以降でビジュアルのありかたを変えた画期的な発明と言って良いと思います。クリエイター側の意識にまで進化を促したといえると思います。

もともと、私たちのテグスを使った作品も、「テクノロジーで何でもできる時代に、人力でそれらを再現したらどうなるんだろう?」というシンプルで逆説的な発想から生まれました。そもそも、Photoshopが存在していなければそんなこと自体考えなかったはずです。

個人的な話で脱線しますが、私は映画を見るのが好きで、テクノロジーを考える時のひとつの参考として、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』をNAMの制作中によく思い浮かべるんです。この作品はリアルセットにこだわり、CGは最小限にして、双方を絶妙にミックスさせた表現を用いています。それはポストテクノロジーにふさわしい観たことのない世界観で、強い現代性を感じました。これは、テクノロジーが促し可能にさせた、クリエイティブにおける進化の最良の例のひとつだと思います。私はあんな関係性が理想だなと、いつも思っているんです。

「Photoshopの進化と共に、クリエイターの意識も一緒に進化していく」。このふたつの領域の駆け引きの中に、誰も見たこともない、新しいビジュアルクリエイトのヒントがまだまだ隠されている気がしてなりません。これからも、さらなる進化を続けてください。

最新の「Creative Cloud」グローバルビジュアルを制作

「Adobe Creative Cloud 2015年リリース」グローバルIDビジュアル

今までにない革新的な進化をとげてリリースされた、「Adobe Creative Cloud 2015年リリース」のグローバルIDビジュアルを手がけました。新しいCreative Cloudの描く世界観をストーリーに仕立て、実際にリアルセットを組みビジュアライズしました。制作の模様はアドビのWebサイトに詳しく掲載されています。世界中の皆さんに気に入ってもらえたら嬉しいですね。