百貨店による"招待制"のイメージがある外商サービス。顧客の選定基準やサービス内容はベールに包まれているが、大丸松坂屋百貨店では(以下、「大丸松坂屋」と表記)、外商顧客に"立候補"できるらしい。
「申請手続きからサービスの利用まですべてオンラインで完結」という、新富裕層のニーズにも対応した同百貨店の外商サービスについて、大丸松坂屋百貨店営業企画部のマネジャーで外商を担当する瀬尾望氏に聞いた。
大丸松坂屋の外商サービスでできることとは?
大丸松坂屋が外商お得意様に提供している主なサービスは以下の通り。
- 外商お得意様限定クローズドサイトの利用
- 外商お得意様会員専用ラウンジの利用
- 買い物時の優待サービス
- 駐車場優待サービス
- 外商係員による買い物サポート
- 外商お得意様限定催事の開催 など
上記のサービスで特徴的なのが、外商会員限定のクローズドサイト「コネスリーニュ」。店頭には出回らず、このサイトのみでしか買えない希少な商品を豊富にそろえ、優先的に外商お得意様に販売する。入荷が難しいジャパニーズウイスキーから、大谷翔平選手の直筆サイン入りロサンゼルス・エンゼルスのユニフォームなど、希少な商品を取り扱っている。
以前は、外商係員が担当するお得意様の自宅にまで出向き、商品を提案する営業スタイルが主流だった。しかし、ライフスタイルの変化に伴って顧客の家を訪問しない来店接客やオンライン上で完結するスタイルを開始したという。
「メールやチャットで担当係員とお客様が繋がって、買い物のサポートをするサービスも提供しています。『こんな商品を探してほしい』という要望に当てはまる商品をこちらで探して、お客様に郵送したり、店頭へ取り置きして受け取りのご連絡をしたりする活動も多くなっています。」
さらに美術品に強みを持つ大丸松坂屋では、ブランド品や希少商品の販売のほかに、美術品の販売イベントといった外商お得意様だけが参加できる特別ご招待会も開催。また、外商お得意様のために特別な旅行プランを提供する松坂屋旅行センターの利用など、外商お得意様になることで一般では体験できない、様々なサービスを提案している。
申し込みから買い物までオンラインで完結、サービス導入の背景に何が?
現在大丸松坂屋は、上記の外商サービスを利用するのに「大丸松坂屋お得意様ゴールドカード」というクレジットカードの入会完了を条件としている。2013年に「お得意様ゴールドカード」は発行をスタート、その後誰でもオンラインなどから入会の申し込みができるようになった。入会希望はHP上で受け付けており、審査後の手続きはすべてオンラインで完結する。年会費は1万1,000円だ。
「既存のお客様にお友達を紹介していただく活動は継続していますが、2021年から広くオンライン入会で門戸を広げました。」
外商の敷居が低くなったようにも感じるが、その背景にもライフスタイルの変化がうかがえる。
「昔と違って在宅率が低くなったこともあり、以前のように訪問を望まないお客様も増えてきました。昨今のお客様はお仕事やプライベートで忙しいため、そういった生活の変化に対応するためにも、オンラインで手軽に完結するやり取りを導入しています。」
若者の外商利用も増加、デジタル化で客層も変化
大丸松坂屋の外商カードをクレジット化し、入会手続きや買い物のやり取りをデジタル化したことで、大丸松坂屋では20代から40代の若年層による1人あたりの年間購買額が増加傾向にある。
「手軽にオンラインで入会できるようになったことが、外商お得意様の客層若年化に影響しているのだと思います。大丸松坂屋でのお買い物はもちろん、一般のクレジットカードとしての利用もできますし、ショートメールやLINEで外商係員がお買い物のサポートをできるようにもなりました。そのような変化が、お金に余裕のある若年層に外商が受け入れられた要因ではないでしょうか。」
外商お得意様の特別ご招待会でも若年層のお客様が増えた、と語る瀬尾氏。購買商品も年齢層の拡大に伴って、百貨店で販売している商品だけでなく、サウナやクラシックカーなどバリエーション豊かに提案している。
時代が変わっても外商の"オーセンティック"な体験に魅力
大丸松坂屋の外商サービス、顧客からは"オーセンティック"な体験に価値を感じるという声がある。「外商係員が買い物に同行すると、ハイブランドの店舗などにも入店しやすく、好みを理解しているのでよりパーソナルな商品を提案してくれる」といった、実際の外商会員からの経験談を話してくれた。
また、お得意様特別ご招待会の前には特別に出品商品をチェックできることもある。
「外商係員がお客様の趣味や嗜好を理解したうえで、催事で出品される商品を事前にお客様宅でお見せするなど、最大の満足感を得られるように日々取り組んでいます。」
外商係員がつくからこそできる買い物の体験価値や、外商顧客の特別なサービスを受けることにステータスを感じる客も多いようだ。
最後に大丸松坂屋の外商サービスの今後の展望について、瀬尾氏が思いを語った。
「外商サービスのデジタル化を魅力の一つとして打ち出してはいますが、最終的には"人"なのかなと思っています。外商係員がどれだけお客様に寄り添えるかを大事にすることが、外商サービスが続いていくのに大事な要因だと思います。」