この春から社会人としてのスタートを切る皆さん。新しい環境の中で、しばらくは緊張の毎日が続くことでしょう。仕事を覚えるので精一杯という人も多いと思いますが、社会に出るにあたっては「お金のこと」も知っておきたいですよね。

そこで本連載では、5回にわたり新社会人が知っておくべき「お金との付き合い方」や陥りがちな「お金の落とし穴」についてご紹介します。第1回目となる今回は、「自社株を買うのはどうなの?」というテーマについて解説していきましょう。

  • 自社株を購入するメリット・デメリットって? (写真:マイナビニュース)

    自社株を購入するメリット・デメリットって?

「自社株を買う」とは

まず、「自社株を買う」とはどのような行為なのか確認してみましょう。

一般的に「自社株買い」とは、「企業が発行した株式を、その企業が自らの資金を使って市場から時価で買い戻す」ことを言います。今回のテーマにおける「自社株を買う」とは意味合いが異なるのですが、関連する部分もあるので少し解説しておきます。

株式とはそもそも、企業が資金調達を目的に発行するものです。では、なぜこのような買い戻しをするのでしょうか。理由は主に2つあります。

1つ目としては、株主へ利益の還元を行うためです。自社株買いをしたのち、自社が発行している株式の一部を消し去ることを「消却」と言いますが、消却によって株式数が減ると、1株当たりの利益や資産価値が高まり株価が上がりやすくなります。そのため、自社株買いは株主に喜ばれる材料のひとつであり、配当金の支払いと同様に利益還元と捉えられています。

2つ目の理由として、「ストックオプション」が挙げられます。企業が自社株買いをしたのち、消却をせずに「金庫株」として保管するケースがありますが、その使い道のひとつがストックオプションです。これは、「その企業の取締役や従業員が、自社株をあらかじめ決められた価格で将来購入できる権利」のことを指します。株価が上昇した局面でもストックオプションによって優遇された価格で購入し株式を売却できることで、その差額が利益となるのです。つまり、自社の株価が上がれば上がるほど社員の利益になるので、仕事のモチベーションにつながるというわけです。

そして、このストックオプションに似たものとして、「従業員持ち株会」という制度があります。新社会人の皆さんが抱く「自社株を買うべき? 」といった疑問は、前述したような企業の自社株買いではなく、「従業員持ち株会を利用して、勤め先企業の株式を購入すべきかどうか」を指していることになります。

従業員持ち株会とは、企業が従業員に自社株の購入を募集するもので、持ち株会に参加すると、給与やボーナスの一部から天引きによって自社株を一定額ずつ購入できます。持ち株会は、そこで集まった資金で自社の株式を購入します。

積立は一口1,000円など少額から行うことができ、積み立てた株式が単元株(株式取引で用いられる売買単位)に達すると、自分名義で株式の引き出しが可能となります。購入した株式は、そのまま保有することも、売却して現金に換えることもできます。

従業員持ち株会は、株価が上昇する見込みのある安定した企業や勢いのあるベンチャー企業などで福利厚生の一環として導入されている制度です。株式の購入にあたっては補助金が支給される企業も多く、お得に株式を購入できます。

自社株は買ったほうがいい?

この春から勤める会社に「従業員持ち株会」があるという人も多いかもしれません。その場合、持ち株会に参加して自社株を買ったほうがいいのでしょうか。自社株を購入するメリットとデメリットを比較してみましょう。

<メリット>
・自社の株式をお得に購入できる
従業員持ち株会を利用すれば、補助金を受け取りながらお得に株式を買うことができます。また、通常株式を購入するには、証券口座の開設や手数料の支払いが必要となりますが、そうした手間をかけることなく天引きで積立ができるのも魅力でしょう。

・ドルコスト平均法で積み立てられる
従業員持ち株会では、株式を毎月一定額ずつ購入するため、「ドルコスト平均法」の効果が得られます。ドルコスト平均法とは、値動きのある商品を毎月一定の金額購入することで、平均取得単価を低く抑える買い方です。この方法なら、株価が安い時には多く、株価が高い時には少なく株式を購入できます。

・株式投資を経験できる
社会人になったら投資をしてみたいと思いつつ、一般の取引はハードルが高いもの。少額から株式投資ができる制度を会社が用意してくれていれば、気軽に投資を始めることができるのではないでしょうか。

<デメリット>
・資金を分散投資できずリスクが大きい
「卵は1つのカゴに盛るな」という有名な投資の格言があります。これは、1つの個別銘柄や特定の地域、特定の資産などに集中投資するのはリスクが高いということを意味していて、分散投資の重要性を表しています。従業員持ち株会で自社株にのみ投資をすることは、卵を一点に集中させることとなり、リスクが高くなってしまいます。

・流動性が低い
流動性とは、現金への換金のしやすさを表しています。従業員持ち株会では、積み立てた株式が単元株に達すれば引き出しや売却が可能になりますが、それまではいざ現金が必要となっても現金化できない点に注意が必要です。

これらのメリットやデメリットを総合して考えると、従業員持ち株会は、会社が提供してくれる福利厚生として利用してみてもいいと言えるのではないでしょうか。補助金が支給される点も有利ですし、何より、実際に株式投資を経験できるいい機会です。

毎月一定額を購入する方法なら、「株価が下がった局面でも株式を多く購入できる」と思えば精神的にも楽でしょう。ただし、投資のリスクを理解したうえで、余剰金で積立を行い、また、自社株以外にも他の銘柄や他の金融商品も購入して分散投資を心がけることが重要です。

会社の制度はお得に活用しよう

今回は、「自社株買い」や「従業員持ち株会」などについて解説しました。他にも、「財形貯蓄制度」など、会社が用意してくれている制度が勤め先にあるかもしれません。活用できる制度にはアンテナを張り、春からの社会人生活を少しでも充実したものにしたいですね。

武藤貴子

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント

会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中。