サイボウズでは2012年5月から「サイボウズ式」を運営している。会員制ではなく、誰でも読めるサイトとして運営され、そのタイトルの下には『「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイト』と書き添えられている。この「サイボウズ式」の2代目編集長が、サイボウズ ビジネスマーケティング本部 コーポレートブランディング部 の藤村能光氏だ。

サイボウズ ビジネスマーケティング本部 コーポレートブランディング部 サイボウズ式編集長の藤村能光氏

「サイボウズ式を始めた頃は、サイボウズが情報システム部門の人以外にはあまり知られていませんでした。そのため、広告を見てもらうだけでなく、まず会社自体を知ってもらおうという新しいコミュニケーションに対する期待があり、それがオウンドメディアを立ち上げるきっかけになりました」と、スタート時から副編集長として「サイボウズ式」に関わってきた藤村氏は語る。

サイボウズ式のトップ画面

ユーザーとの新たなコミュニケーションツールを考えた時、TwitterやFacebookといったSNSを利用する方法もある。当然、サイボウズでもSNSを利用したアクティブサポートが検討された。

「アクティブサポートを担当した社員にスキルがつくのか、その場の対応に追われる方法では社内に蓄積されるものがないのではないか、という課題が考えられました。そこで社員のマーケティングコミュニケーションスキルが向上でき、作ったものが資産として残るものを考えました。またSNSが流行っていたので、おもしろいコンテンツを作ればお金をかけずに共有されるだろうということで、自社コンテンツという形に落ち着きました」(藤村氏)

こうして作られた「サイボウズ式」のコンセプトは、『サイボウズという会社を知らない人に知ってもらう』ことだ。ターゲットは今後リーダーになる20~30代の若手。テーマは「チーム」だ。

「サイボウズ式」でやる意義を強く意識した企画づくり

「サイボウズのビジョンやミッション、存在理由がそこにありますから、『チーム』というテーマは外せませんでした。世界中のチームワークに貢献するというのが、サイボウズの存在意義なので、そこに向かっていくメディアというのは絶対でした」と藤村氏は強調する。

この「チーム」というテーマは、記事作成時にも強く意識されている。「サイボウズ式」の企画書には5つの項目があるのだが、そこには「なぜうちでやるのか」という項目が設けられている。

「以前は、『この企画を一言であらわすとどうなるか』というコンセプトと、『誰に届けるべきか』というターゲット、それと『どんな価値が届けば成功なのか』というバリューの3項目でした。社内の基本企画書と同じ書式です。しかしコンテンツづくりにはこれだと不足しているということに気づき、後から『なぜやりたいのか』という想いと、『なぜサイボウズ式でやるのか、どういう意義があるのか、大義名分があるのか』ということを考えるコンテクストという項目を加えました。おもしろいというだけでチームというコンセプトに合わないなど、うちでやる意味がない企画だと私が出したものでも弾かれることがあります」と藤村氏。

現在、「サイボウズ式」の運営は専任の藤村氏のほか、兼務のコーポレートブランディングの4人、それとインターンシップの学生6人が行っている。全員が同社のグループウェアであるガルーンに企画案を日々書き込み、週に1度の編集会議でそれをブラッシュアップしていくスタイルだ。

「編集会議は雑談に近く、『しっかりした企画を持って来い』というようなものではありません。思い思いにネタを話し、たたき上げる感じです。そこから良いものが出てきたら、企画書を作ります。ノルマや記事本数の目標は作っていません。本数のため、PVを稼ぐためというようなことをやり始めると自由な発想ができず、途端におもしろくなくなるからです」と藤村氏は説明する。

Garoonを使った、編集部の情報共有スペースの画面

企画書に最終的な決定を下すのは藤村氏だが、基本的には企画書まできちんと作られたものは実行されることが大半だという。情報共有と編集会議の中で「サイボウズ式」にそぐわないものは自然と消えて行くからだ。

「企画が出る『場づくり』をするのが私のミッションです。アイデアレベルのものを共有してもらうのが重要です。そのためには、おもしろいと思ったことを臆することなく話してもらえる雰囲気をつくることがポイントだと思います。学生とも毎日雑談の時間を設けて、人となりを知りながらアイデアを出してもらえるようにしたり、オンラインでも情報が出やすくなる仕組みを作ったりしています」と藤村氏は編集長としての工夫を語った。

kintoneを使った、記事管理アプリの画面

売上向上を目指さないメディアが結果として売上にも貢献

現在「サイボウズ式」の平均月間PVは20万程度。開設から現在に至るまでの最高の月間PVは約40万PVほどで、UUは約15万。ユーザー分析はGoogle Analyticsで行う程度だというが、25~35歳くらいの読者が多いようだ。

「20万PVというのは少ないと思いますが、UUが約15万人ということは雑誌の定期購読者が15万人いることと同じになりますので、かなりすごいことです。月に1~2回見てくれる人が10~15万人いるというのは、BtoBのソフトウェア会社がやるメディアとしては十分で、自分たちの中ではかなり手応えを感じています。PVが少ない割に多くの方に知ってもらえているのは、コンテンツを作り込んでいることで特定の方に深く響くからだと考えています」と藤村氏は「サイボウズ式」を評価する。

現在はさまざまなカテゴリのある「サイボウズ式」だが、最初に作られたのは「あのチームのコラボ術」というカテゴリだ。そこから「ワークスタイル」など会社の成長に合せた形でコンテンツカテゴリを増やし、さらにPVの良かったものを独立させる形で発展させてきた。その中に、サイボウズ製品のPRや、ハウツー的なものはない。それは「サイボウズ式」が単純な売上向上を目指したメディアではないからだという。

「メディアをやるにあたって売上向上を目指すのか、その一歩手前である知名度向上を目的とするのか、どちらを目指すのかを決めた方が良いと思います。サイボウズ式の場合は後者ですが、単純に会社を知ってもらうのではなく、サイボウズという会社の姿勢や考え方といった文脈までを伝える必要があると考えています。だからこそ、企画は全部自分たちで作りますし、コンテクストも重視します」(藤村氏)

ただ実際には、「サイボウズ式」が売上に貢献している面もあるという。

クラウドグループウェアの「cybozu.com」のユーザー約1,200人にアンケートを行ったところ、複数回答の答えの中で認知経路が「サイボウズ式」であったものが4~5%に上ったという。さらに、そのうち80%程度が過去にサイボウズ製品を使っていたのに離脱していた人だったという。そうした人を呼び戻す経路として「サイボウズ式」が活用できていることがわかったことを、藤村氏は「やってみて初めてわかりました。嬉しい誤算です」と語る。

テーマは守りつつ継続することが重要

自社製品広告を行わないと共に、立ち上げ時に誓ったことは「競合他社の情報でも読者におもしろければOK」という自由さと、「もしサイボウズが悪いことをした時にはメディアとしてきちんと取り上げ、伝える」という姿勢だという。こうした意識を持った「サイボウズ式」は、今後どう成長して行くのか?

藤村氏が今後取り上げたいテーマとして挙げたのは「イクメン」、「時短勤務」、「ホラクラシー」といったキーワードだ。すべてチームワークや働き方といった「サイボウズ式」の基本テーマの中に収まるものでありながら、今の読者が興味を持っているテーマだという。

もちろん、このテーマからは外れるが読者にとっておもしろい話題であり、サイボウズという企業を伝えるのによい話題もある。そうしたものは、別のメディアと提携するなどして「サイボウズ式」とは違った形でアウトプットする形を採用しており、こちらも今後より強化される予定だ。

「法人格ではありますが、サイボウズという人格と読者の人格がつながり、信頼関係を築く中で、サイボウズの文脈が広がっていくものだと考えています。ですから、テーマを広げつつもやめないこと、続けること、継続することが一番大事だと思っています」と藤村氏は語った。