国内だけでなく、世界各国で多くの人に愛されている「日本のアニメ」。そんなアニメを作り出す人々は一体どのような環境で働き、魅力的な作品を生み出しているのだろうか。

  • (C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

    (C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

本連載では大ヒットTVアニメ『おそ松さん』の制作チームにインタビュー取材を実施。「仕事のウラガワ」についてお話を聞いてきた。大ヒット作の裏側で働く人々の話から、明日の仕事につながる仕事術が見つかるだろうか。5回目となる今回は、アニメを放送するために企業への提案や交渉、アニメ制作の出資をしてくれる制作委員会の立ち上げなどを行う営業担当、福井洋平さんにお話を聞いてきた。

■営業担当の仕事とは

アニメーション制作会社で働く人々といえば、イラストレーターやプロデューサー、映像制作チームといった、さまざまな技術をもつクリエイター集団という印象がある。そんななかで働く"営業"とはいったいどのような仕事をしているのだろうか。

「アニメーション制作会社の営業は、自社でアニメを制作させてもらうために放送局や出版社、出資先へ企画提案・交渉を行うことがメインとなります。

  • 今回インタビューさせていただいたのは 株式会社ぴえろ 営業部 番組営業グループ 福井洋平さん

    今回インタビューさせていただいたのは 株式会社ぴえろ 営業部 番組営業グループ 福井洋平さん

具体的な仕事内容は、アニメ化する原作・企画を見つけてくることや、出版社などからアニメ化の許諾を得ること、アニメへの出資先を見つけてくることなど。そしてほかにも、社内のさまざまな部署の担当者と協力して作品の最大収益化を目指すサポートを行っています。」

提案や交渉といった、多くの人が"営業"と聞いてイメージする業務はもちろんだが、放送するアニメの原作を探して決めることや、作品全体に目を向け、企画を立案や業務のサポートも行っているのだという。

「アニメの元となる原作や企画は、制作プロデューサーや原作元からの持ち込みということもありますが、営業が提案することも多いですね。なのでユニークな企画を生むためには漫画やゲーム、小説など、企画になりそうなものへ広くアンテナを張ることが重要です。

また商品化配信など、窓口業務に関わる案件については、一度営業担当が窓口となって交渉し、その後各部署に話を行う流れになっています。そのため、多くの人とコミュニケーションを取る仕事になります。

企画を生んだり提案をこなしつつも、あくまで「縁の下の力持ち」という立場であるという営業の仕事。そんな福井さんの仕事ではどういったスキルが求められるのだろうか。

■コミュニケーションと好奇心

「僕たちの仕事で重要なことは、『コミュニケーションをとること』『好奇心旺盛であること』だと思っています。

アニメの原作やベースとなる企画を見つける作業では、漫画やゲーム、書籍や絵師さんのイラストなど、さまざまなジャンルに対する情報収集を行います。そこで、どんなことにも好奇心旺盛になれる感性が非常に大切になります。

しかし、ひとりが考えつくのアイデアには限界はある。そんなときに多くの人とコミュニケーションを取ることは、より多くのアイデア生むことにつながる、重要なことだと感じています」

過去にアニメ化した作品の中には、取引先である放送局の人と話し合った中から企画が生まれたものもあるのだとか。自分の考えだけでなく、多くの人の意見を取り入れて柔軟な発想を生むことが重要だと感じられる。

「また、営業という仕事では、明らかに機嫌が悪い人のところに飛び込んで質問をしなければならないことや、言いづらいことを伝えに行かなればならないことも多くあります。だからこそ、そんな時にでも円滑にコミュニケーションをとれるスキルが必要になるなと思っています」

■謙虚に、仕事を楽しむこと

営業担当の仕事では、企画作成や交渉、進行など全く異なるように感じる業務でも、一貫して好奇心や興味関心を持つこと、コミュニケーションが重要だというように感じる。そんななかで、そのスキルを高めるために、福井さんはどういった意識を持って働いているのだろうか。

「第一に『仕事を楽しむこと』。楽しい仕事をするのではなく、どうやって仕事を楽しむかということを、常に意識していますね。

アニメ制作という非日常的で華やかな仕事をしていると、すべての仕事が楽しそうだと思われがちですが、そうではありません(笑)。大変な仕事もあれば手が進まない仕事ももちろんあります。そんななかで、『この仕事をどう楽しむか』ということを考えると好奇心が湧いてくるんですよね。これはとても大切なことだと思っています」

後は『謙虚であること』。仕事や人など、何に対しても謙虚な姿勢でいることが大切だと思っています。人は経験が長くなるほどに傲慢になってしまいがちですが、それは違うなと。

自分で勉強したことから得られることはもちろんありますが、知識の多くが、「人から与えてもらったもの」であると考えています。年齢などは関係なく、自分とは異なる経験を持つ人々から教えてもらう知識は、非常に有意義なものです。進んでコミュニケーションを取り、そこから得た知識を自分事に置き換えて実行するということを心掛けています」

■ 6話・7話を振り返って

福井さんが営業担当として携わるTVアニメシリーズ『おそ松さん』。本作は赤塚不二夫が生んだ『おそ松くん』を原作とした作品。原作でおなじみのキャラクターたちが大人になった世界を描く、ギャグアニメとなっている。現在TVアニメの第1期、第2期、劇場版に続く、第3期が放送中だ。

▼第6話

「マッサージ」

「『マッサージがなんでそうなる……? 』というような、普通ではありえない、"日常のなかの非日常"が楽しめるエピソードが面白いですよね(笑)。ドラマCDにも入っていたエピソードがついに映像化という感じで、当時脚本の松原さんとavexの担当者と打ち合わせをしたのを思い出しました。個人的にはドラマCDの「イカ」が大好きです。」

※おそ松さん かくれエピソードドラマCD「松野家のなんでもない感じ」第1巻に収録

「最適化」

猫がなかなか見つからず、歩き回る一松。そんな姿を見ていたAIロボットのオムスビのシャケとウメ。何かしてあげたいと思うオムスビの思考と一松の考えが少しづつズレていくシーンは、いろいろ考えさせられましたね。良かれと思ってやったことが、むしろ違う、みたいな。営業としてすごく勉強になったエピソードでした(笑)」

▼第7話「こぼれ話集3」

「僕は昔から"コント"が大好きなので、特に今回は最高でした! 他作品ではあまり見られない短編集形式など、『おそ松さん』ならではの魅力が詰まった作品になっているのでおすすめの一作です。今回特にオススメなのは「十四松知事」。あれは笑いましたね(笑)十四松の予測不能な面があの短い時間に凝縮されていたと思います。ファンの皆様からも好評なこぼれ話だったんじゃないかな、と思います。」

「そして、次の話数となるのは第8話「南へ」。第1期から見てくださっている方はピンと来る方もいらっしゃるのではないでしょうか。「北」の次は「南」です。神回といわれる名作だと思いますので是非皆さんに見ていただきたいなと思います……!」

■ヒットの瞬間に立ち会える仕事

企画の作成から提案、制作中の全体のサポート役と、作品のすべてに関わる営業担当。そんな福井さんが仕事で最もやりがいを感じるのは、いったいどのような瞬間なのだろうか。

「"担当したアニメが放送される瞬間"でしょうか。自分自身が企画から担当させてもらったものが形になり、世の中へ放送されるということはとても嬉しく、やりがいを感じられます 。初めてエンドロールに自分の名前が載った時のことは、今でもしっかりと覚えています。

「それと"ヒットする瞬間に立ち会えること"も非常に嬉しい経験のひとつです。みるみるとグッズが売れていく様子を見られることや、アニメが話題になっていくのを感じられることは、ゼロから関わっていた自分たちだけの特権です。これも最高の体験だなと感じます」

「また、アニメの制作業界は転職が多いとされているのですが、そんななかでも一度も会社を嫌いにならず、新卒入社から13年間仕事続けられているんです。そうした職場の魅力も、仕事の原動力になっています。これからもこの職場で、ヒット作を生めるような仕事をしていければと思っています」


楽しい仕事だけに目を向けるのではなく、今、目の前にある仕事を楽しむ方法を模索すること、それはどんな仕事をしている人でも明日から始められる考え方ではないだろうか。考え方や人との関わり方を少し変えてみることが、明日からの仕事を前向きにさせてくれるかもしれない。

そうはいっても、苦手な作業や複雑な仕事を楽しむことは決して簡単なことではない。仕事のことを考えたくないときには、一度ニートがスローライフを楽しんでる『おそ松さん』を視聴し、リフレッシュしてみるのも良いかもしれない。

(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

●information

TVアニメ「おそ松さん」第3期
 
テレビ東京ほかにて毎週月曜深夜1時30分より放送中
第8話は5日(土)より配信開始! ※あにてれ、dTVでは先行配信中
 
・「おそ松さん」第3期Blu-ray&DVD第1松 12月25日発売
  発売元:エイベックス・ピクチャーズ
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