国内だけでなく、世界各国で多くの人に愛されている「日本のアニメ」。そんなアニメを作り出す人々は一体どのような環境で働き、魅力的な作品を生み出しているのだろうか。

  • (C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

    (C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

本連載では大ヒットアニメ『おそ松さん』の制作チームにインタビュー取材を実施。「仕事のウラガワ」についてお話を聞いてきた。大ヒット作の裏側で働く人々の話から、明日の仕事につながる仕事術が見つかるだろうか。4回目となる今回は、アニメ作品の配信する動画配信サービスとの調整、決定を行う配信担当者として働く上原由理絵さんにお話を聞いてきた。

■配信担当の仕事とは

昨今のネット社会において、動画の"配信"が担う役割はどんどん大きくなっている。SNSやインターネットでの動画配信サービスの普及などから、テレビよりもネットでアニメを見る回数が増えた、という人もいるかもしれない。そんな今、非常に重要な役割を担うアニメ業界の配信担当とは、いったいどのような仕事をしているのだろうか。

「私の仕事は、放送が決定した作品の配信先をどうするか、どういった戦略で作品をネット配信していくかという方針決めや、過去の放送作品を配信するための許諾調整などがメインになります」

  • 今回インタビューさせていただいたのは 株式会社ぴえろ 営業部 ライセンスグループ 配信担当 上原由理絵さん

    今回インタビューさせていただいたのは 株式会社ぴえろ 営業部 ライセンスグループ 配信担当 上原由理絵さん

配信に紐づく数字管理はもちろん、アニメの制作チームや、出資をしている制作委員会、配信プラットフォームの方々の意向をくみ取りつつ、ファンの方に視聴して頂きやすい環境を考えたり、多くの人が納得する配信方法を決めていくことが仕事になります。過去作品になると、当時の担当者たちを探すところかはじまるということもあります。ざっくり言うと、アニメ作品を配信するまでの橋渡し役のような立場ですね」

上原さんの仕事は、テレビ放送された作品をネット配信するまでの調整・管理・戦略建てなど、すべてを担う仕事だということがわかる。

「アニメの配信プラン先は、作品ごとに全く異なります。そこにも実はさまざまな戦略が隠れています。

例えば原作がすでに超人気作品であるアニメの場合は、事前に多くの人から視聴されることを想定します。そして放送後により多くの人が視聴できるよう、複数のプラットフォームでの配信準備を進めます。反対に、原作がない完全オリジナルの作品の場合は、宣伝などをきっかけに興味を持ってくれる視聴者が多いんです。

なので、まずは誰もが簡単に視聴できるよう、無料で見られるような環境を作るなどの工夫をして視聴のハードルを下げます。制作委員会によっても、配信に対しての考え方が変わりしますね」**

さまざまな状況に応じて配信を組み立てていくのだという。自分が普段、疑問を感じることなく配信されているプラットフォームで視聴している裏側に、このような戦略があるということに驚く。

「作品によって配信の方向性は全く異なりますので、経験が多ければ多いほど良い職業だなと思っています。そんな配信という仕事では臨機応変さが必要不可欠だと日ごろから実感しています! 」

■臨機応変であること

臨機応変さが重要であるという配信担当者の仕事。それをより実感する理由と、仕事に対してどのように向き合い、働いているのかを聞いてみた。

「例えば現在私が担当している『おそ松さん』は、ギャグアニメであり、ネットでバズが生まれやすい作品です。この場合には、SNSと相性のいい配信プランを考えます。生配信なども活用しています。このようにいろいろな作品の背景が重要になるんですよね。

さらにぴえろで配信を担当しているのは2名、私が担当している作品は20~30作品になります。正直多いですね(笑)。そのなかで配信方法や進行は作品によって全く異なるため、過去の経験をうまく生かして働かなければならないんです。もし過去作品での経験を生かせなければ、毎回"初めての壁"にぶつかることになってしまいます。チーム人数が少なく、担当数は多いからこそ、多くの経験を積むことができるのが"配信"という仕事の魅力ですね!」

  • 上原さんが仕事をするデスクがこちら!

    上原さんが仕事をするデスクがこちら!

「そこで、社内や配信先の方々、視聴者の反応や制作委員会に入っている企業についてなど、作品に関わる各所の意向や進行状況を、なるべく多く把握できるよう努めています。たくさんのことを把握できていれば、次の動きを想定できます。コミュニケーションもとても大切ですね。それを続けることで、他作品の場合にも『あの作品の時はこうなったから、今回はここが違うからこう変わってくるな』といったように、他の案件にも生かすことができると思っています」

情報収集やコミュニケーションが、上原さんの業務をより円滑に進めるキーになってくるのだという。確かに一緒に働く人の考えが理解できていなければ、ことあるごとに話し合いの時間を設けなければならない。

■視聴者の"生の声"が活力に

「取引先の方々や社内での直接のコミュニケーションはもちろんですが、ほかにもTwitter上で視聴者さんの反応を血眼になってチェックしていたりします(笑)。立場が異なれば作品に対する考えや思いも変わってきますよね、その違いをしっかりと理解していくことがとても大切です。多くの人が満足できる落としどころまでもっていくのが私の仕事なので! 」

Twitterでは「〇〇で配信してほしい! 」といったような視聴者のコメントなどを逐一チェックしているのだという。これまで連載としてぴえろで働く方々にインタビューをしてきたが、業務は違えど全員がTwitterの反応をチェックしているというのだ。ファンのことも考えてくれているという想いが伝わってきた。そして、それだけ視聴者からの反応が、アニメ制作の励みになるのだという。

以前上原さんが映画『おそ松さん』の配信を進行している際に、視聴者の方々の反応が励みになったエピソードを教えてくれた。

「映画が完成した後、関係者や一般の方が一緒に作品を見る"完成披露試写会"が行われるのですが、その際には、生でファンの方の感想を聞くことができます。リアルな熱量を感じられるのは最高です……! シンプルですが、作品が好きな方たちのために、これからも頑張ろうと思えますね! SNS上でのコメントなども意外と届いているので、皆さんには感想をコメントしていただけると嬉しいです」

**「ほかにも、現在担当しているTVアニメ『おそ松さん』第3期では、毎週土曜日にアニメ放送に合わせてネットでコメントしながら作品を視聴できる"ネット上映会"を実施しています。そこでは視聴者の方々のコメントがリアルタイムで見られます。いろいろなコメントを見られることも、非常に励みになります! 」

■5話を振り返って

上原さんが配信担当として携わるアニメシリーズ『おそ松さん』。本作は赤塚不二夫が生んだ『おそ松くん』を原作とした作品。原作でおなじみのキャラクターたちが大人になった世界を描く、ギャグアニメとなっている。現在TVアニメの第1期、第2期、劇場版に続く、第3期が放送中だ。

▼まあな

「こちらは恋愛がテーマのストーリーになっていましたが、自分が初めて恋愛をした時のような、幼い頃の恋愛を思い出しましたね。くだらないことにも真剣に悩む彼らが愛おしくなりました……!

そして最後には、なんだかうるっときてしまうようなあったかいお話しでした。ただ、そんななかでも『トッティ!』みたいな6つ子らしさを感じられるシーンもあって素敵でした! 」

▼帰り道

「このストーリーは、特にリアルで胸に刺さる内容でした……! 自分にも思い当たることがあるな、というようなポイントが多く、他人と共有しづらい感情を感じられるようなお話だったと感じています」

「今回の『おそ松さん』第5話は、とても人間臭い、リアルなストーリーになっているのでぜひその生々しさを体験してみてほしいです!」

■決して華やかではない、やりがいのある仕事

メディアにも取り上げられる声優とも関わり、アニメ制作というクリエイティブ業務をこなす環境にいる上原さん。一見華やかそうな仕事をしているようにに見えるが、「意外と地味な作業が多い」のだという。

「ここまでいろいろなお話をしてきましたが、仕事では数値管理や社内調整などに結構な時間がかかるため、地味な業務ばかりですね(笑)。メディア関係で働いているなんていうと、友人には"華やかな世界で働いているんだね"と言われることも多いですが、全くそんなことはありません(笑)。ですが、自分自身の働きによって多くの人が喜んでくれる、やりがいのある面白い仕事だと感じています。

配信担当の仕事は、動画配信サービスの企業の方々はもちろん、委員会にはテレビ局や音楽レーベルなど、さまざまな企業で働く方と関わる機会があります。こんなにたくさんの企業の方と関わることができて、そんな方々の考えを聞けるのはとても貴重だなと思っています!」

アニメ作品が視聴者の目に届くまでには、想像以上に多くの企業が関わっていることを知り、"配信"という仕事はその多くの企業のことを深く理解したうえで、仕事と向き合っているということが分かった。

「私1人では成り立たない仕事だと常日頃から感じています。関わる人々がどういった思いで仕事をしているのか、ということを意識して働いているつもりです。視聴者の方々はもちろんですが、社内や取引先の方々など、みんながいるからこそ成り立っている仕事だと実感しています」


社会人として働いている人々は、業種や仕事内容によって異なる考えを持っているはずだ。そんななかで相手のことを深く理解し、納得できるような方法を考えるために時間を割くことが重要なのは、きっとどんな仕事でも変わらない大切なことだろう。

次回はアニメ作品の営業担当者の仕事についてお話をうかがっていく。

(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会

●information

TVアニメ「おそ松さん」第3期
 
テレビ東京ほかにて毎週月曜深夜1時30分より放送中
おそ松さん第6話は11月28日(土)より各プラットフォームにて配信開始!
 
・「おそ松さん」第3期Blu-ray&DVD第1松 12月25日発売
  発売元:エイベックス・ピクチャーズ
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