漫画や小説をもとに実写化される「原作モノ」が全盛の中、オリジナル映画に果敢に挑んだ人々を取材する連載「オリジナル映画の担い手たち」。第5回は、空前のヒットを記録している映画『カメラを止めるな!』(公開中/製作:ENBUゼミナール 配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール)を手がけた上田慎一郎監督の現在地とルーツを探る。

監督俳優養成スクール・ENBUゼミナールのシネマプロジェクト第7弾として製作された『カメラを止めるな!』は、オーディションで選ばれた新人の俳優たちが出演。脚本は数カ月にわたるリハーサルを経て当て書きされたもので、37分にわたる1カットのゾンビサバイバルが観客を引き込む。

都内2館上映から口コミが広がり、著名人も次々とSNSを通じて絶賛。公開館数は累計180館以上(8月14日時点)まで拡大し、47都道府県の劇場を“感染”制覇した。製作費300万円のインディーズ作が起こす数々の奇跡。そのきっかけは、上田監督の情熱とそれを育んだ環境にあった。

  • カメラを止めるな!

    上田慎一郎監督 1984年生まれ。滋賀県出身。高校卒業後に独学で映画を学び、2010年に映画製作団体PANPOKPPINAを結成。これまで8本の映画を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2015年、オムニバス映画『4/猫』の1編「猫まんま」の監督で商業デビュー。『カメラを止めるな!』で劇場用長編デビュー。

脚本の初稿で青ざめた理由

――映画史上、大変稀な現象が続いています。今の状況をどのように思われていますか?

最近、よく聞かれます(笑)。今はこういう取材をいただいたり、テレビやラジオに出演したり、公開が150館に増えたり、舞台あいさつが2分で完売したり。毎日驚くようなニュースが飛び込んで来るたびに驚き、そのことについてこうした場でしゃべっているうちに1日が終わるような日々です。喜びを噛み締めたり、実感を慈しんだりしている暇が今はありません(笑)。

――じっくりと余韻に浸るのは、もう少し先になりそうですね(笑)。

そうですね(笑)。「あの日々は何だったんだろう」と考えるのは、だいぶ先になると思います。

  • カメラを止めるな!

――小劇団の作品にインスパイアされて、今回の映画ができたそうですね。

2014年に解散してしまったんですが、2013年に劇団PEACEの『GHOST IN THE BOX !』という舞台を見て、インスパイアされました。最初はその脚本家、出演者と一緒に映画化しようとして動いていたんですが、お互い仕事の事情などもあって頓挫してしまって。2016年の暮れにとある企画コンペの話が来たので、その時にもう一度企画書を引っ張り出して、登場人物や展開をまるごと変えて、全く新しい企画として作り直しました。

――初稿ができた時、「本当に撮れるのか?」と青ざめたと聞きました。

ええ。結局、企画コンペには落ちてしまって、その直後にシネマプロジェクトのお話をいただきました。新人の俳優と新人の監督で、ワークショップを経て1本の映画を作るという企画です。俳優応募者の中から僕が選抜させていただいて、最初の数回は普通のワークショップをしたんですよ。既存の映画台本や演技トレーニングをして。みんなの個性を知った上で、このメンバーとなら『カメラを止めるな!』が作れるかもしれない、そう思いました。もともとあった骨組みの中に12人を投げ込んで、完全当て書きで作りました。

  • カメラを止めるな!
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「これ、やれるの?」に燃える

――出演者の方々に1カット37分のシーンがあると伝えた時の反応はいかがでしたか?

最初に伝えたのはカメラマンと特殊造形のスタッフだったんですが、「いや、無理だ」と(笑)。ホラー映画やゾンビ映画はカット割りありきの仕掛けだったりするので、37分の会話劇ならまだしも、37分廃墟を走り回って首や腕がとれたりするのを1カットで撮るのは無理だと。うまくつないで1カット風にするか、本当の1カットにするかは、撮影直前まで検討しました。僕はもちろん1カットで撮る派。映像上、1カットで繋がってるように見せられてもテンションとか空気感、緊張感みたいなものは1カットにならない。映画を観てくださった方なら分かると思うんですが、そもそも彼らを「1カット風」で撮っていいのか? そんな嘘はアカンやろと(笑)。結局は、みんな納得してくれました。

――説得するのも一苦労だったわけですね。

説得というよりは……やっぱり、「無理」「不可能」って言われることって、本当はみんなやりたいと思っているはずなんです。僕も、企画を出した時に「いいね」って言われるより、「これ、やれるの?」と言われる方が燃えるタイプ。徐々にみんなも「マジでやるの?」から「マジでやるのか!」に変わって、モチベーションが上がっていって、最終的にはノリノリになっていました(笑)。

――オリジナル作の映画化は非常に難しいという声をたびたび耳にしますが、そういう苦労はありましたか?

僕は商業映画をやったことがないので分からないんですが、今回でいえばプロデューサーから「上田くんの好きな企画を好きなようにやってくれ」と言われ、具体的な指図もないまま自分のやりたいことをやらせてもらいました。もちろん1カットを撮るために工夫したことはたくさんありますが、世間で流行っているものを入れてくれとか、有名キャストを起用してくれとかも言われなかったので、そういう大変さは全くなかったです。