• カメラを止めるな!

最初の動員目標は5,000人

――普段映画を観ないような人も劇場に足を運ぶほど、大きなうねりを生み出しています。その予感はいつ頃感じ始めましたか?

作品として面白いものができたという手応えを感じたのは、関係者試写の時です。関係者は台本を読み、展開も分かってるので粗探しをしがちなんですよね。キャストもスタッフも、フラットに見ることができない。だから、そこまで盛り上がることがないんですが、今回はすごく盛り上がって笑い声もあって、拍手も力強くて長かった。その後の打ち上げは12時間、4次会まで続きました(笑)。「自分たちはいいものを作ったんだ」という日の飲み会って、なかなか帰りたくないじゃないですか? 当時はまだ著名人の方々からも全くコメントをいただいてなくてヒットする見込みなんて全くない状態ですけど、その時点で「俺たちは面白いものを作ったんだ!」という達成感がありました。

去年の11月の6日間先行上映が連日の満員で、そこから口コミが広がっていきました。ただ、ワークショップで作った映画のお披露目の場でもあるので、知り合いや身内も多い。関係者ではない人たちが褒めてくれて自信はついたのですが、果たして一般の方々に届くのかという不安が残ったままでした。その後は海外映画祭で日本人以外にもウケるということが分かって、業界向けの試写でもお褒めの言葉をいただいて。それでも一般の方が反応してくれるのか不安をいだいたまま、公開日を迎えました。

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――それだけ絶賛の声があっても不安を感じるものなんですね。

もちろん。インディーズ映画は、1館でレイトショー1回、2週間ぐらいの上映がほとんどです。それが『カメラを止めるな!』の場合は、2館で1館は3回上映。この規模のインディーズ映画としては異例な形でスタートしたわけですが、最初の動員目標は5,000人。インディーズ映画ではかなり高い目標です。それが今では十数万人の方が観てくださって、自分たちの想像をはるかに超えた事態が巻き起こっています。「作品として面白い」という自信と、ヒットに対する自信はまた違う。面白い作品でもヒットしてないものはたくさんあると思います。

何よりも、キャストとスタッフがこれだけ胸を張って周囲に勧めてくれたのが最初の奇跡。先行上映までの半年間、毎日のようにビラを配ってくれたり、SNSで発信してくれたり。本当にありがたかったです。

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「ノストラダムスの大予言」父の決断

――Twitterに書いてありましたが、ご両親も宣伝してくれたそうですね。

そうですね(笑)。母は今まで短編映画を作った時も、宣伝してくれてました。今回は地元でも凱旋上映が決まったので、そのスタッフとしても働いてくれています(笑)。両親は、僕が「映画監督になりたい」「東京に行きたい」と言った時も、全く反対することもなく。幼い頃からわりと「やりたいようにやれ」という親でしたね。

――その中でも、ご両親からの教えで覚えていることはありますか?

お父さんが、変わった人というか。永ちゃんに憧れていて、オールバックで。すごく車高の低いフェアレディZで幼稚園に迎えに来るような人です(笑)。「こういうふうに生きろ」みたいに説教されたわけではないんですが、「自分のやりたいことはすべて叶う」と常々口にしていました。

親父は、1999年に地球が滅亡するというノストラダムスの大予言を信じていて、1,000万円ぐらいかな? すべて金塊に変えたんですよ。「金塊だったら燃えないから」みたいな思考だったのかな(笑)。ただ、それを換金した時にかなり値が下がっていたみたいで、母に土下座したそうです(笑)。とにかく自由で破天荒なのが父。母はそれを支える常識人です。

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――ホームレス時代があったことも別の取材で話されていますが、その当時のご両親はさすがに心配されたのでは……?

そうでもありません(笑)。それよりも前の出来事になりますが……高校2年生の夏、男なら何かでっかいことをやり遂げなければいけない。そう思って、友達と3人で琵琶湖を手作り筏(いかだ)で横断しようとして、遭難してしまったことがありました。NHKでも行方不明と報じられた大事件。ほかの親は集まって泣いてたらしいんですが、親父だけは「大丈夫。帰ってくる」と安心していたそうです。対岸までついた時、琵琶湖全域にパトカーが出動するほど大騒ぎになっていることを知るわけですが、すぐに警察に連行されてマスコミにも囲まれました。友達2人の親はカンカンに怒って泣いていましたが、親父だけは喜々としてマスコミの取材を受けて「うちの息子がやってしまいましたね!」みたいに明るく話していました(笑)。

日本映画界へ「前を向こうよ」

――ワイルドすぎる(笑)。劇場では小さい子から中高年まで多くの人が同じところで笑っているのが印象的でした。幼い頃に影響を受けたお笑い芸人はいますか?

思春期の時に影響を受けたのはダウンタウンさんです。『ごっつええ感じ』『ガキの使い』『ビジュアルバム』など、松本人志さんのお笑いから最も影響を受けたと思います。あとは吉田戦車先生、うすた京介先生といった漫画家さんからも。高校卒業する時、映画監督になるかお笑い芸人になるか迷ったぐらいお笑いが好きでした。

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――斎藤工さんがブログで絶賛されていて、その他の著名人の方も「映画界に一石を投じる作品になる」と評価している方が多いです。ご自身としてはどのように思っていらっしゃいますか?

僕は「映画界を変えたい」という思いでこの映画を作った訳ではありませんでした。本当に面白いものをただただ作りたかっただけです。でも、『カメラを止めるな!』がきっかけで普段劇場に行かない人が行くようになって、劇場で映画を観ることのすばらしさに気づいた人からの声をいだくので、それは本当に嬉しいですね。

「低予算でキツイ」「人手が足りない」「時間が足りない」「原作ものばかり」そういう声を聞きますよね? 僕はあまりそういうことを思ったことがないんですよ。別に否定するわけではないんですが、そういうことをボヤいてるだけじゃ何も変わらない。とにかくやるしかないわけで、まずは「じゃあ、どうするか?」って前を向こうよって思います。

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