• 役所広司

――Gameloft社を退職後に株の売却だけでは製作費を賄えず、自宅を抵当に入れるなど資金繰りにもかなり苦労されたそうですね。その上、オリジナル作品の映画化はかなりハードルが高いはずです。さすがに心が折れそうですが……。

もちろん、折れましたよ(笑)。

このプロジェクトは5年を要しました。おっしゃるとおり、オリジナル作品を撮るのはすごく大変です。なおかつ、新人監督の1作目がオリジナル作品というのも非常にハードルが高い。すべての製作過程の中で「何が一番大変でしたか?」と聞かれれば、やっぱり資金繰りです。映画の製作費を集めることがこんなに大変だとは……。この5年、中国国内では映画の資金に関して大きな動きがありました。映画市場は拡大して調子が良いように見えると思いますが、資金調達は年々難しくなっています。プロデューサーや業界内の人と会うと、「今年が一番厳しい年」という声を毎年聞きます。つまり、悪化が続いている。だからこそ、待つよりも一刻も早く動かなければならなかったのです。

――待っていても状況は好転しないと判断されたわけですね。

自宅を抵当に入れるなんて夢にも思わなくて、本当に成り行きで(笑)。

  • ユーフェイ

中国出資者の判断基準とは何か。まず1つ目は、類似作品が過去にあること。エベレストをテーマにした作品は中国ではなかったので、難色を示されることがほとんどでした。もう1つは、類似作品が過去にヒットしたのかどうか。当然これも対象外になるわけで、本当に苦労しました。

外部から資金を集められないとなると、自分で用意するしかありません。まずは持っていた株を売りました。会社を辞めたので当然収入は途絶えていましたが、映画作りに没頭すればするほど、やらなければいけないことは増えていく。そこで、自宅を抵当に借金をすることに。両親の療養のために海南島に別荘を2つ持っていたのですが、そのうちの1つを売りました。それでもお金が足りなくなって、北京の郊外にも別荘があったのですが、それも抵当に。それでも足りなかったので、北京の古い家も抵当に……。それでもお金が足りないので、すべての友人にお金を借りに行きました。快く貸してくれる人もいましたし、そうじゃない人も(笑)。

  • ユーフェイ

それでもお金が足りなかったので、海南島のもう1つの別荘も抵当に入れました。自家用車から何から何まで、持っているものすべてを金策に。それは本当につらいことでした。でも、見方を変えれば、自分へのプレッシャーになったとも言えると思います。製作費を調達するために、あらゆる方法をやり尽くしました。

一番つらかったのは……撮影の合間にご飯を買いに行くことがあって、サラダでも買おうと。そのサラダが人民元で30元(約450円)だったんですね。その時、すべての口座を合わせても15元(約250円)ぐらいしかなかったので、「自分はサラダ1つも満足に買えないのか……」という悲しい現実を突きつけられて、その時はさすがに落ち込みました(笑)。

これだけ大変なことがあったわけですが、「もう一度同じことをするか」と聞かれれば、「もちろん」と答えます。愛するものを実現させるためには、やれることはやるし、映画が完成するのであれば喜んで全てを捧げます(笑)。

  • ユーフェイ

    撮影現場の様子 (C)Mirage Ltd.

■まず公開後にやることは「お金を返す」

――映画が完成して、周囲の反応は変わりましたか?

お金を借りたり、工面している過程で知ることができたのは、「本当に支えてくれる友人が誰なのか」ということ。以前から周囲に「映画を作りたい」ということは話していたのですが、ゲーム会社に在籍中は投資に興味を示してくれる友人もいました。でも、それはそれなりの地位に就いていたから。会社を辞めて頼むと、お金がある友人はだいたい貸してくれず(笑)。そこまで裕福ではない友人の方が、必死で助けようとしてくれました。それは本当に感動しました。もちろんすべてではありませんが、「お金持ちはお金をくれない」ということも身をもって知りました(笑)。

支援してくれたのは、同じく映画を作っている友人だったり、僕の夢に共感してくれる人だったり。一番苦しかった時に、ある友人から「借りてたお金が返って来たけど、必要?」と連絡が来て、なんとかして助けてくれようとしてくれたことも……。一生大切にしなければならない友人です。映画が完成してとても喜んでくれましたし、ヒットして多くの人に受け入れられることも期待してくれています。

映画が公開されて僕がまずやることは、助けてくれた友人に感謝の気持ちを伝えること。それから、お金を返すことです(笑)。

――苦労の末に見事完成したわけですが、2作目の構想は?

日中合作はすごく楽しかったです。引き続き、日本と一緒に映画を作っていきたい。今後やりたいこととして2つあります。1つは、今シナリオを書いているSF映画。そしてもう1つは、日本のマンガがとても好きなので、版権が取れたら実写映画化にも挑戦したいです。

■プロフィール
ユー・フェイ
ゲーム会社Gameloft社の元中国グローバル副総裁、中国支社の創立者。ゲームプロデュースの代表作は『Order & Chaos Online』、『The Amazing Spider-Man』、『Thor The Dark world』など人気作品多数。小説『Mirage』をインターネット上で発表。2016年映画製作会社「Mirage Film」を設立した。 エクストリームスポーツにも精通しており、過去に北極と南極を制覇。ヨーロッパアルプスの最高峰のモンブランに登頂、エベレストも完登している。