東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「トラック中距離/自転車競技」! 競技解説は、日本代表トラックチームの強化やアジアの若い自転車競技者やコーチの育成に力を注ぐ、野田尚宏さんです。

  • トラック中距離/自転車競技の魅力とは?

トラック中距離の特徴

1周250mの板張り走路で行われる自転車のトラック競技のうち、今回は中距離種目についてご紹介します。男女それぞれ「チームパーシュート」「マディソン」「オムニアム」の3種目においてメダルを争います。これらは、タフな「スタミナ」と同時に、その中で繰り返されるダッシュの「瞬発力」も求められ、総合的な体力が勝敗を分けるポイントの一つです。また、いずれもレース時間が長いため、長期的な観点に立った戦略、レース運びが勝敗を分けることになります。

トラック短距離を観戦するときのポイント

<チームパーシュート>
「パーシュート」とは「追いかける」の意味。4人一組でホームとバック(HB)から、50秒カウントダウンを経てスタートします。自転車最大の敵である「風圧」を避けるために、一列棒状となり4㎞(250mトラックを16周)を先頭交代しながら周回します。4人のうち3人目の前輪がHBにあるパーシュートラインを通過したらゴールです。順位決定戦は、予選で計測されたタイム順に3-4位と1-2位での対戦となり、再び4㎞で争われます。ただ、その決定戦においては、ゴールする前に、相手チームに追いついた場合、その時点で勝利が決まります。交代は自由なので、タフな選手は先頭を少しでも長く牽引し、また交代のタイミングやスキル、ゴールには無関係となる4人目の離脱するタイミングなど、チームワークや戦術が勝敗に影響を及ぼします。

<マディソン>
その名はニューヨークの「マディソンスクエアガーデン」に由来します。男子決勝は50㎞(200周)、女子30㎞(120周)で争われ、10周に1度あるポイント周回において1位でフィニッシュラインを通過すると5ポイント(P)、2位3P、3位2P、4位1Pが与えられます。最後のゴール通過では、ポイントが2倍となり、またレース中、人数の一番多い集団(メイン集団)に1周差をつけて追いつくと+20P、逆にその集団に1周遅れで追いつかれると-20Pが加えられ、最終的には総合獲得ポイントで争われます。

2人一組で1名がポイントを獲得に行き、残りの選手は、走路上部でゆっくり走りながら交代を待ちます。交代のタイミングは自由で、そのときには、タッチする、もしくは手をつなぎ、その反動を上手に使って交代選手に勢いをつけます。平均時速50㎞/h以上のスピードで目まぐるしく変わるレース展開に対して、いかに戦術を合わせられるか、またそれを実践できる体力があるか、いずれにしても2人のコンビネーションと総合力が勝敗を分けます。

<オムニアム>
①「スクラッチ・レース」②「テンポ・レース」③「エリミネーション」④「ポイント・レース」という4種目をたった1名で、しかも1日のスケジュールの中で走りきらなければならない過酷なレースです。陸上の十種競技によく例えられます。

①「スクラッチ・レース」はトラック版のロードレース。男子10㎞、女子7.5㎞を走り、最後のフィニッシュラインの通過で順位を決します。

②「テンポ・レース」は、スクラッチと同じ距離で、5周目以降1位でフィニッシュラインを通過した選手に毎周1Pが与えられ、合計得点で競われます。メイン集団に1周差つけることで+20Pを獲得することができます。

③「エリミネーション」は、2周ごとにフィニッシュライン上で最後尾の選手が、レースから除外(エリミネイト)され、最後に残った選手が1位となるサバイバルレースです。

④「ポイント・レース」のルールは、マディソンと同じですが、違いは、1人で競技をします。男子は25㎞、女子は20㎞で10周に1度ポイント周回があります。そして、4つの各レースの1位には40P、2位に38P、3位が36P…21位以下は1Pが与えられ、総トータル獲得ポイントでオムニアムの順位が決まります。

このように、1日で4レース、しかも長いレース距離の間、ダッシュを何回も繰り返すという、非常に過酷な種目です。それぞれのレースにおける総合的なポイント獲得戦略と鉄人的な体力が相まったとき、勝利をつかむことができるのです。

東京2020でのチームジャパンの展望

男子オムニアムに橋本英也選手、女子オムニアムに梶原悠未(ゆうみ)選手、女子マディソンに梶原選手と中村妃智(きさと)選手が出場します。日本トラック中距離陣も近年ワールドカップ等でメダルを多数獲得しており、本番でもその活躍が大いに期待されます。なかでも、2020UCIトラック世界選手権大会のオムニアムで、日本女子選手初となる世界制覇の偉業を成し遂げた梶原選手は、本番においても金メダル獲得最有力候補と言えます。各国が同選手をマークしてくる中、そのプレッシャーを跳ねのけて、世界女王として再び表彰台の一番高い場所で輝けることに期待が集まります。自転車トラック競技種目の映像や世界記録はUCI(国際自転車競技連合)のウェブサイトで見ることができます。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

お子さんが自転車に楽しく乗れるようになったら、オススメしたいのが交通公園です。そこでは練習コースがあって練習できるほか、変わりダネ自転車が置いてあるところも多く、ふだん道路で乗れないような変わった形状の自転車があります。荒川自然公園や板橋交通公園など都内近郊にいくつかあるので、私も子どもを連れていきましたが、半日は楽しく遊べます。また場所によっては自転車の乗り方レッスンもありますので、週末にぜひ遊びにいってみてください。

競技解説:野田尚宏(のだなおひろ)

1973年静岡県生まれ。日本大学文理学部体育学科卒業。大学4年生まではバレーボールを専門種目として選択。地元の日本サイクルスポーツセンターに就職後、自転車、特にトラック競技に携わる。普段は、2020大会会場である「伊豆ベロドローム(トラック)」及び「伊豆MTBコース(マウンテンバイク)」を敷地に有する同センターに勤務。国際自転車競技連合(UCI)公認のアジアトレーニングセンターのコーチとして、アジアの若い自転車競技者やコーチの育成に従事。ここからは、2012年ロンドン五輪のメダリストも輩出されている。また、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点(自転車競技)の担当者として、日本代表トラックチームの強化に協力している。ASOIF(オリンピック夏季大会競技団体連合)Coach Educator Course 修了、日本スポーツ協会コーチ4(自転車競技)、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者、健康運動指導士、温泉利用指導者。「伊豆ベロドローム」ホームページはこちら