東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「トラック短距離/自転車競技」! 競技解説は、日本代表トラックチームの強化やアジアの若い自転車競技者やコーチの育成に力を注ぐ、野田尚宏さんです。

  • トラック短距離/自転車競技の魅力とは?

トラック短距離の特徴

東京2020の会場となる「伊豆ベロドローム」のコーナーの最大傾斜角は、45度にもなります。ちなみに、ベロはフランス語で「自転車」、ドロームはラテン語で「競技場」を表します。

トラック競技はロード競技とともに1896年から近代オリンピック(アテネ)が始まって以来一度も途絶えたことのない歴史ある基幹スポーツの一つです。その特徴は何といっても、時速70㎞/hを超える圧倒的なスピードとレースにおける駆け引きです。

1周250mの板張り走路で行われる自転車のトラック競技は、大きく分けて短距離と中距離に分けることができます。五輪大会では、男女とも短中距離3種目ずつで競われます。今回は、短距離に絞って説明したいと思います。種目は「スプリント」と日本発祥の「ケイリン」がありますが、ここでは2種目「スプリント」と「チームスプリント」についてお話をしましょう。

トラック短距離を観戦するときのポイント

<スプリント>
予選として、走路を全部で3周半するうちの最終200mをタイム計測しますが、残り200mの直前にフライングと呼ばれる傾斜角を利用してダッシュで勢いをつけます。世界記録は9秒100ですから、時速にすると80㎞/hに到達するくらいの速さで、観客の目の前を通過します。

そのタイムのランキング上位24名により、1対1で争われる本選のトーナメントが決定されます。本戦は、3周回のうち最終的にフィニッシュラインを先に通過した選手が勝者で、準々決勝からは2本先取で勝利が確定します。見どころは、そのスピードと勝負の駆け引きです。予選タイムの良いほうが圧倒的に有利ではあるものの、他方の選手は、一瞬の隙をついてのロングスプリント勝負を仕掛けるなどの奇襲戦法で勝利できることもあります。

また、タイム差がない場合、フィニッシュは、わずかタイヤの差だけ、時には同着という場合もあります。その70㎞/h以上のスピードにおける僅差は、映像によるジャッジをすることもしばしばあります。

<チームスプリント>
男子は3名、女子は2名一組で、ホームとバック(HB)両側から50秒のカウントダウンを経てスタートします。1周回るごとに一人ずつ離脱をしていき、最終走者が、HBにあるパーシュートラインを早く通過したチームが勝利です。

予選のタイム計測後、第1ラウンドにおいて上位8チームが対戦、さらには、同ラウンドのタイムにおいて、1-2位(決勝)、3-4位決定戦へと進みます。決勝は、タイムが僅差のことが多く、高速レースでHBどちらが先着するかを観戦することが非常にスリリングで魅力的です。

また、自転車の一番の敵は、「風圧」であるため、「スリップストリーム」と呼ばれる空気抵抗の減少を利用して、チーム3名が、どのような車間距離で走るのがベストなのか、作戦とチームワークがカギとなります。

東京2020でのチームジャパンの展望

トラック短距離種目で一番の期待は、やはり「ケイリン」でしょう。2020年UCIトラック世界選手権大会で銀メダルを獲得した脇本雄太選手、前年の同大会における銀メダリストの新田祐大選手が、期待の「ケイリン」と同時に「スプリント」にも出場予定です。

女子は、高校までバレーボール選手であった小林優香選手が「ケイリン」「スプリント」に出場予定です。3人とも、日本の「競輪」トップ選手でもあり、そのダッシュ力は、世界の脅威となっていることは言うまでもありません。それゆえにダッシュ力が勝利への一大要素となる「スプリント」においても、メダルは十分狙える位置にあると思います。特に新田選手は、フライング200mが9秒562という日本記録保持者です。「チームスプリント」は、残念ながら日本チームは出場権がありませんが、世界の強豪たちのスピードとチームワークに注目です。特に現在はオランダが強く、2020年世界選手権大会で41秒225の世界新記録で優勝しています。

自転車トラック競技種目の映像や世界記録はUCI(国際自転車競技連合)のウェブサイトで見ることができます。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

ほかの自転車競技でもお話しましたが、現代では自転車に乗ることが生活上、必要になることが多いため、なるべく早いうちから乗れるように練習することが一般的になっています。私の幼少期にはありませんでしたが、キックバイクがかなり浸透してきて私自身注目しています。3歳頃から競技者としてレースができるという魅力もあるのですが、地面を蹴り続けるあの動作が体力の基本をつくってくれるのではないかと期待しています。

競技解説:野田尚宏(のだなおひろ)

1973年静岡県生まれ。日本大学文理学部体育学科卒業。大学4年生まではバレーボールを専門種目として選択。地元の日本サイクルスポーツセンターに就職後、自転車、特にトラック競技に携わる。普段は、2020大会会場である「伊豆ベロドローム(トラック)」及び「伊豆MTBコース(マウンテンバイク)」を敷地に有する同センターに勤務。国際自転車競技連合(UCI)公認のアジアトレーニングセンターのコーチとして、アジアの若い自転車競技者やコーチの育成に従事。ここからは、2012年ロンドン五輪のメダリストも輩出されている。また、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点(自転車競技)の担当者として、日本代表トラックチームの強化に協力している。ASOIF(オリンピック夏季大会競技団体連合)Coach Educator Course 修了、日本スポーツ協会コーチ4(自転車競技)、日本トレーニング指導者協会公認トレーニング指導者、健康運動指導士、温泉利用指導者。「伊豆ベロドローム」ホームページはこちら