東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「混成競技/陸上競技」! 競技解説は、7種競技がトレーナーの小山和美さん、10種競技が元10種競技全日本チャンピオンで現在、東京2020に向けて10種競技の日本代表の指導を行う平田卓朗さんです。

  • 混成競技/陸上競技の魅力とは?

混成競技の特徴

混成競技には女子の7種競技(ヘプスタロン)と男子の10種競技(デカスロン)があります。ご存知の方も多いかも知れませんが、タレントでマルチアスリートの武井壮さんは10種競技の元日本チャンピオンです。

混成競技は2日に分けて競技を行います。7種競技では、1日目に100mハードル、砲丸投げ、走高跳び、200m、2日目に走幅跳び、やり投げ、800mが行われます。一方、10種競技では、1日目に100m、走り幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400m、2日目に110mハードル、円盤投げ、棒高跳び、やり投げ、1500mが行われます。※1986年にやり投の規格変更がありましたが、それ以前の記録も公認

すべての種目に参加し、すべての競技の記録を足した総合点を争います。得点はそれぞれ計算式が定められており、その計算式に沿って計算されます。

混成競技は「走る」「跳ぶ」「投げる」の種目で構成され、陸上競技におけるすべての能力が必要とされます。競技特性の異なる複数の種目を常に全力で好結果を出すためには、高い運動能力と強靭なメンタルが必要になることから、7種競技の勝者は"クィーン・オブ・アスリート"、10種競技の勝者は"キング・オブ・アスリート"と称えられます。陸上競技の盛んなヨーロッパでは大変人気の高い競技です。

7種競技の前身となる女子の5種競技は、100mハードル、砲丸投げ、走高跳び、走幅跳び、200mを2日間に分けて行っていました。1964年の東京五輪から、1980年のモスクワ五輪まで正式競技として実施され、1984年ロサンゼルス五輪より、やり投げ、800mを追加した7種競技への切り替えが行われました。

室内競技の世界選手権では、男子が7種競技、女子が5種競技。日本の全国高校選手権では男子が8種競技、女子は7種競技。全日本中学選手権では男女とも4種競技となっており、それぞれの発達段階に応じた配慮となっています。

混成競技を観戦するときのポイント

混成競技では、選手は全部の種目で自己記録更新を狙って競技をしています。1種目競技が終わるごとに得点表を見て点数化し、次の種目の作戦を立てます。2日間にわたる長丁場となるため、自分の実力以上のパフォーマンスが飛び出すこともあれば、思いもよらない記録で点数が伸び悩むこともあります。

それぞれの選手には得意種目と不得意種目があるので、選手個々人の特徴を把握し競技を見ていくと、数々の壮絶なドラマが繰り広げられていることを実感できるでしょう。

なかでも特に注目したいのが、最終種目となる中・長距離。7種競技の800m、10種競技の1,500mで、体力面でもメンタル面でもきわめてハードなレースです。たとえトップでゴールしても、総合得点で1位とならなければ、「クィーン・オブ・アスリート」、「キング・オブ・アスリート」の座はほかの選手に奪われてしまうからです。

ライバル選手との駆け引きや、ゴール後トラックに倒れ込んでしまうほど力を振り絞るラストスパートはレースの見所です。

2日間にわたって過酷な試合をともに過ごす中で、選手たちはライバルではありますが、仲間のように一体感が生まれてくることもあります。達成感とお互いの健闘を称え合い、笑顔で肩を組んでウイニングランを行ったり、全員で手をつなぎ観客に笑顔で一礼なんてこともあります。その美しい姿はスタジアム全体を巻き込み拍手喝采。これも見所の1つです。

東京2020でのチームジャパンの展望

日本の7種競技においては、中田有紀選手が2004年に樹立した5,962点の日本記録が15年以上たった今もまだ更新されていません。そんな中、東京2020に向け、脚光を浴びているのがヘンプヒル恵選手です。2017年に日本歴代2位の5,907点の学生新記録を樹立しました。

それ以外にも、2018年4月にその時点で日本歴代3位となる5,821点を出した宇都宮絵莉選手、同・8月に、それを超える日本歴代3位となる5,873点を出した山﨑有紀選手など、若手選手の活躍が著しく、期待できます。

五輪参加標準記録の6,420点は日本人選手にとって非常に高い壁でありますが、この若手選手たちが熾烈なトップ争いを繰り広げて水準を一気に引き上げ、日本新記録樹立、そして日本初の6,000点突破を目指してほしいです。

混成競技は予選や決勝がなく、参加できる人数が他種目と比べると少ないため、日本には世界選手権や五輪に出場した選手が少ないのが現状です。

10種競技でいえば、現在活躍する右代啓祐選手、中村明彦選手が数少ない選手の2人となります。東京2020に向けても、日本記録保持者の右代啓祐選手と400mハードルと10種競技の2種目で五輪出場経験のある中村明彦選手が頑張っています。そこに、大学生で2019年の日本選手権で3位に入った若手の注目株、丸山優真選手が追いかけるかたち。3選手ともそれぞれ特徴があり、走る・跳ぶ・投げるなど、得意な種目が違うので得点の取り方は各選手で違いますが、最後の1,500mを終わるまでは勝負結果はわかりません。

10種競技もまた五輪参加標準記録が8,350点と、日本記録より高い記録になっています。3人の選手は標準記録突破はもちろんですが、ワールドランクが選考基準に入るようになったため、ワールドランキングでの参加も視野に入れて東京2020出場を目指しています。

現在、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、第104回日本陸上競技選手権大会・混成競技、第36回U20日本陸上競技選手権大会・混成競技6月13~14日は延期となり、9月26~27日に開催が決まりました。

東京2020に向けて、選手たちは個々で最大限の力を発揮し、混成競技を盛大に盛り上げてくれると思いますので、ぜひ注目したいと思います。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

「近代五種」でも説明しましたが、1種目ではなく、7種目、10種目と、体力要素が異なるものを連続で行うことは「特殊」と思われるかもしれません。けれど、幼少期には様々な運動体験が必要ということを考えると、子どもの目線には興味深い競技にうつるかもしれません。競技種目を減らして混成競技の小学生版をつくってみてもおもしろいと思います。いつか企画したいと思いますので、一緒に考えてくれる人、ぜひご連絡ください。

競技解説:小山和美

NSCA-CPT、BodyElement Pilates マットピラティストレーナー、公益社団法人日本フィットネス協会GFI、一般社団法人School of Movement 認定ムーブメントファンダメンタルズ修了。東京都内のフィットネスクラブではアスリートから一般向けまで幅広くトレーニング指導を行う。

競技解説:平田卓朗

学校法人小倉学園新宿医療専門学校で広報、及びスポーツトレーナーの育成を担当。また、東京2020に向けて10種競技の日本代表・混成競技の合宿などで走・跳・投の指導や実業団野球チームやサッカーチームの基礎運動指導を行っている。元10種競技全日本チャンピオン。