東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「馬術」! 競技解説は公益社団法人日本馬術連盟臨時職員の中原奈緒さんです。

  • 馬術

馬術の特徴

馬術は、数ある五輪種目の中でも唯一人間と動物が協力しあって競いあうという、とても特殊なスポーツです。人馬は、お互いの磨き上げてきた能力を最大限に発揮すべく協力しあい、人馬一体を目指して競いあいます。馬術競技においては、アスリートは馬と人なのです。五輪においての馬術競技は、障害飛越競技、馬場馬術競技、総合馬術競技の三つの種目から成り立っています。

障害飛越競技は、文字通り障害物を飛び越えることを競いあう競技です。障害物は、バーが衝撃によって落下するように作られており、飛越の際に馬が脚を当ててしまったりしてバーが落下すると減点となります。そのほか、馬が障害を飛越することを拒否した場合などに応じて減点の仕組みが設けられていますが、要は、決められたコースを速いタイムで、かつ少ない減点で回ってこられたものが勝者という、比較的シンプルな競技です。 五輪では150センチを超える華やかな障害物が10個以上立ち並ぶコースが組まれます。障害物の間の距離や回転などにテクニカルな要素があるため、スピード感や飛越の迫力とともに少しのミスもゆるされない緊迫感が味わえます。

馬場馬術競技は馬の調教度合を審査する種目ですが、人馬で行うフィギュアスケートのような競技、といえばイメージがわきやすいと思います。審査の基準に沿って美しさと正確さを競う得点競技で、あらかじめ決められている規程種目と音楽に合わせて行う自由演技がありますが、まるで芸術のように、緻密な技術の上になりたつ、見る者の目をくぎ付けにしてしまう優雅で美しい競技です。

総合馬術競技は、文字通り馬の総合的な能力を競いあう競技で、馬場馬術・障害飛越・そしてこの競技の最大の特徴であるクロスカントリーの三つの種目の総合で競われます。クロスカントリーは、自然の中に設置された障害物を飛越し走行していくので、野外の解放感もあいまって迫力満点です。

馬術を観戦するときのポイント

馬術は日本では比較的マイナーな競技ですが、欧米ではとても人気があるスポーツです。特にヨーロッパでは週末には各地で大きな競技会が開催され、華やかなアリーナに多くの観客が訪れ、馬術観戦を楽しんでいます。

とはいえ、ルールに詳しくなかったり馴染みがなかったりすると、いざ観戦という段になると、少しハードルを高く感じてしまう方もいるでしょう。そこで、初めての馬術観戦の背中を押してくれるアドバイスを、五輪を目指す現役選手にうかがってみました。30代から馬術を始めた彼は、それまでまったく馬術というものを知らなかったと言います。趣味として始めた馬術に魅了され五輪を目指すに至ったこの選手によれば、馬術観戦の一番の醍醐味は、なんといっても人馬のコンビネーションにあるといいます。

馬術は、人も馬も競技者の年齢性別を問わないスポーツで、老若男女、ハンデもなく同じステージで競いあいます。そのことからも、パワーや俊敏性だけに頼らず信頼関係とテクニックが必要な競技であることが想像できます。「馬は、一頭一頭能力も動きの持ち味も違いますから、選手たちはいかに自分の馬をスターにすることができるのか、馬にも注目しながら見ていただけると、より一層楽しめると思います」とのことです。

東京2020では、日本では見ることができないトップホースとトップライダーが集結しますので、多くの人を魅了する、美しさと興奮と迫力に満ちた馬術競技観戦を体験してみるにはまたとないチャンスです。

東京2020でのチームジャパンの展望

東京2020の日本馬術代表選手の選考は、もともと2020年6月に行われる予定でしたが、この5月に、馬術で五輪に出場するために人馬がクリアしなければならないMERと呼ばれる基準の取得の期限が2021年6月まで延長されることが、国際馬術連盟より発表されていますので、これにともなって代表選考のスケジュールがこれから示されていくのでしょう。日本は、障害馬術14名、馬場馬術6名、総合馬術6名の選手がすでにMERを取得していますが、今回の新型コロナウィルス感染症の影響で、MERを取得するための競技スケジュールに変更がでてしまい、これから再度取得に向けて活動を再開していく選手もいます。

東京2020を、そしてその先にあるメダルを目指した人馬一体の戦いは、改めてスタートを切っています。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

小学校に上がる前だったと思うのですが、富士山麓に親戚と一緒に行ったときに、乗馬(ホーストレッキング)をする機会がありました。子どもながら馬の大きさに圧倒されてとても怖かったのを覚えています。体幹を鍛える乗馬フィットネス機器が一時流行りましたが、乗ってみるとやはり似て非なるものですし、子どもの場合、生きている馬に乗ることに意味があるような気がします。このように動物スポーツと呼ばれているものは、乗馬のほかに犬ぞりや鷹狩りなどがありますが、動物との意思疎通を図りながらのスポーツはなかなか体験できることではありません。ただ、乗馬は比較的どのエリアでも体験できるところがありますので、スポーツという考え方よりも、まずは動物と触れあうという意味で始めるのもよいかもしれませんね。

競技解説:中原奈緒

公益社団法人日本馬術連盟臨時職員。全日本馬術大会実行委員会。