シャープは、32V型8Kカラーマネジメントディスプレイ「8M-B32C1」を、2021年6月下旬から発売する。

  • シャープの32V型8Kカラーマネジメントディスプレイ「8M-B32C1」

今回の製品は、ディスプレイではありながらも、視聴向けではなく、制作向け製品として提案したものであり、また、シャープにとっても、カラーマネジメントディスプレイの製品化は初めてとなる。

同社が推進する事業ビジョン「8K+5Gエコシステム」の実現に向け、新たなピースが加わった格好だ。

今回発売する「8M-B32C1」は、8K映像の制作、編集作業を支援するもので、卓上などの限られたスペースにも設置しやすい32V型とするとともに、国内工場で生産した8K液晶パネルを搭載。約280dpiの高密度表示により、被写体の質感や陰影までをリアルに映し出すことができるのが特徴だ。写真や画像の細部までを確認しながら、効率的にレタッチ、編集作業が行える。

  • シャープ初のカラーマネジメントディスプレイは8K+5Gエコシステムを補強する

    卓上などの限られたスペースにも設置しやすい32V型。国内工場で生産した8K液晶パネルを搭載している

  • 映像制作などに向け提案する、同社初のカラーマネジメントディスプレイだ

HLG方式とPQ方式、2つのHDR映像に対応しており、テレビ番組や映画、ネット配信動画など、幅広いジャンルの動画コンテンツの制作でも活用できるほか、ピーク時で1000cd/m2、全白時に800cd/m2の高輝度の実現と、100万:1の高コントラスト比、Rec.2020規格の85%をカバーする広色域表示により、広範囲の輝度と色情報を持つHDRコンテンツを、豊かな階調表現と鮮やかな色彩で再現する。また、用途や制作コンテンツに応じたカラーモードをサポートしており、カラーモードを選択するだけで、最適な表示設定に切り替えられる。

シャープ スマートディスプレイシステム事業本部デジタルイメージングソリューション事業部商品企画部の村松佳浩部長は、「コンテンツ制作用途に使われるカラーマネジメントディスプレイは、映像信号に忠実な表示を行い、製作コンテンツを正確な色で確認できることが求められている。細やかな階調を表示できること、正しい色域を表示できること、画面に色ムラや輝度ムラがないこと、一定の表示品質を保てることが重要な条件となる」とし、「グローバルで10数万台のカラーマネジメントディスプレイ市場があると見込まれているが、8Kのカラーマネジメントディスプレイは、市場にはなかった製品。制作現場の声を聞きながら、仕様を決め、新たな機能を搭載した」という。

  • 「8M-B32C1」を発表する、シャープ スマートディスプレイシステム事業本部デジタルイメージングソリューション事業部商品企画部の村松佳浩部長

液晶のノウハウを集めた最高峰の8Kモデル

今回のカラーマネジメントディスプレイでは直下型LEDバックライト方式を採用。シャープが液晶ディスプレイの開発で培ってきたノウハウを生かし、偏光板をはじめ、最適なレンズシート、プリズムシート、拡散シートをバランス良く組み合わせて高い性能を実現。視聴用ディスプレイとは仕様が異なるため、別の生産ラインで作られるという。

クリエイター向けディスプレイ市場は、27~34型モデルが需要の中心であり、さらなる高解像度化、高画質化、高付加価値化がトレンドになっている。今回の製品を32V型のサイズとしたのは、限られたスペースに設置できるほか、全体確認時にも座った状態のまま、約50~60cmの距離で利用でき、細部を確認する場合にも、座ったまま画面に顔を近づけるだけで、約25~30cmの距離で作業ができるため、編集、確認用途に総じて最適なものと判断したからだ。実際、「27V型では全体や細かい部分を確認しにくいという制作現場の声もあり、32V型が最適だと考えた」とのことだ。32V型としたことで、撮影現場にも持ち込んで、その場で映像を確認するといった利用も可能になる。

  • 32型というサイズはユーザーニーズも踏まえ決められた。個人の作業スペースに最適というだけでなく、制作現場に持ち込む際にも使い勝手が良い

約280dpiの高密度表示のため、300dpi前後の写真プリントサービス、300~350dpiのフルカラー印刷物でも、印刷物に近い表示密度で、写真や印刷物を原寸大が確認できる。

シャープ独自の「SHARP Advanced UCCT(SHARP Advanced Uniform Color Calibration Technology)」技術を搭載しているのも特徴だ。

これは、サイネージ用途などで、複数の画面を組み合わせて表示するマルチディスプレイ構成の際に、表示を最適化することを目的に同社が開発した独自技術で、組み合わせたパネルごとの色ムラや輝度ムラを抑えることができる。今回の製品では、ディスプレイのRGB入力信号に対する表示特性を細かいエリアで測定。各領域のRGB信号ごとに色度、輝度を補正できるようにした。

  • SHARP Advanced UCCTは、街頭サイネージなど、マルチディスプレイ構成の画面表示を最適化するために培った独自技術だ

さらに、測色センサーを使ったハードウェアキャリブレーションにも対応。専用ソフト「SHARP Display Calibration Utility」と市販の測色センサーを使用して、明るさや色味の経年変化を補正して、均一性の高い、高品位な表示を維持できる。

今回のカラーマネジメントディスプレイの製品化にあわせて、編集および撮影をサポートする数々の機能を搭載している。

HDR映像を表示する際に、指定した輝度値を超える領域を警告表示し、白飛びした状態になる部分を確認できる「輝度クリッピング」、Rec.2020やDCI-P3の色域を持つ映像を表示する際に、Rec.709の色域を超える領域をグレーで警告表示できるほか、Rec.709の領域内に収まるように調整することができる「色域外警告」、輪郭がはっきりしている部分に色を付けて映像を表示し、撮影時の利用ではフォーカスを確認できる「ピーキング」、輝度レベルごとに異なる色で映像を表示するとともに、撮影の際には輝度レベルの整合性や露出を確認できる「フォルスカラー」、映像に四角い枠や十字のマーカーを表示し、有効領域やセンターをガイドする「マーカー」、カラー映像をモノクロで表示したり、赤色と緑色の信号をカットし、映像を青色の信号のみで表示することで、映像信号のノイズ成分を確認したり、ピント確認、表示調整にもできる「モノクロ/ブルーオンリー」などを搭載している。

また、8K対応ワークステーションやカメラなどとの接続は2系統を用意。HDMI2.1で規定された8K映像入力はケーブル1本で、HDMI2.0で規定された8K映像入力は4本のケーブルで接続できる。

市場想定価格は、198万円(税別)。主な利用者として、映像制作や写真、デザインなどのプロフェッショナル市場のほか、研究開発用途などにも活用。さらに、カメラの高精細化により、8Kでの撮影が広がりつつある流れを捉えて、カメラのハイアマチュアユーザーやYouTuber、Vloggerなどの個人利用も想定しているという。販売は、映像プロフェッショナル向け販路のほか、BtoC向けには専門知識を持った店員がいる映像機器や高性能カメラなどを取り扱っている販売店ルートも想定。シャープマーケティングジャパンを通じた販売店支援も行う。また、Dynabookが発売する8K映像編集PCシステムのGPU Boxと組み合わせた提案も加速することになりそうだ。

  • GPU Boxで実現するDynabookの8K映像編集PCシステム

シャープ「8K+5Gエコシステム」構築の一翼へ

シャープは、事業ビジョンに「8K+5Gエコシステム」を掲げ、5Gとの組み合わせによって、8Kの映像作成、加工から、配信、表示までの一連のバリューチェーンを、様々なパートナーと連携して実現する世界を目指している。

  • シャープの事業ビジョンである「8K+5Gエコシステム」のイメージ

シャープでは、8Kの領域において、コンテンツ制作向けに8Kカムコーダー、Dynabookによる8K映像編集PCシステムを用意。コンテンツ視聴向けに、AQUOS 8Kテレビ、8Kインフォメーションディスブレイをラインアップしている。

シャープ スマートディスプレイシステム事業本部デジタルイメージングソリューション事業部商品企画部の村松佳浩部長は、「2020年夏以降、8K動画撮影に対応したプロフェッショナルやハイアマチュア向けミラーレスカメラが登場したり、HDR動画の仕組みを利用したHDR画像対応カメラが登場したりしている。また、シャープでも8K動画の撮影が可能なスマホを強化するなど、8K動画を撮影する場が広がりつつある。こうした市場の動きにあわせて、8Kで撮影した写真や動画を、編集、確認するのに適したディスプレイとして発売したのが、今回の8Kカラーマネジメントディスプレイ。最適なタイミングで投入できた」と位置づける。

  • 今回のカラーマネジメントディスプレイは8Kコンテンツ制作の促進に役割

シャープでは、2021年4月1日付で、デジタルサイネージなどの法人向けディスプレイ事業を、複写機などを行っていたビジネスソリューション事業本部(スマートビジネスソリューション事業本部に改称)から、テレビなどを担当するスマートディスプレイシステム事業本部(旧テレビシステム事業本部)に移管している。

「デジタルサイネージの開発においては、これまでにもテレビ事業部との連携を行ってきたが、新たな体制となったことで、法人向けディスプレイの開発において、今後、より効率化が図れる」とする。

カラーマネジメントディスプレイを担当するデジタルイメージングソリューション事業部は、法人向けビジネスを担当し、「街を変える」ことを目指すデジタルサイネージ事業や、「オフィスを変える」ためのBIG PAD事業を展開している。

デジタルサイネージでは、120V型8Kディスプレイや8Kインタラティブミュージアムのほか、60V型4Kディスプレイを4台組み合わせて8K表示を行うといった提案も行ってきた。ここでは、企業や教育分野、美術館などへの導入が進んでいる。

「シャープでは、企画、プロデュース、コンサルティングから、システム構築、設置工事までワンストップで提供できる機能を持っている。カラーマネジメントディスプレイでは、これまでの放送業界とのつながりに加えて、セキュリティや検査システム、保守を含めたバリューチェーン全体を強化し、高精細映像技術を核にした8Kエコシステムの構築を加速できる」とする。

コンテンツ制作の領域に、新たにカラーマネジメントディスプレイを用意したことで、8Kエコシステムがさらに一歩広がったことになる。