発表以来、大きな注目を集めている日産自動車の新型「ノート」。自慢の「e-POWER」を含め、あらゆる部分が進化した新しいノートには、「日産の救世主か」と期待する声も上がっているようだ。その実力は本物なのか。日産のテストコースで早速、試乗してきた。

  • 日産の新型「ノート」

    外観、内装、走行感覚の全てがレベルアップした日産の新型「ノート」。試乗会場で話を聞いた開発責任者は「1クラス上の開発原価をかけた」と語っていたが、価格は202.95万円~218.68万円と手ごろだ

「e-POWER」進化で走りは変わった?

12月23日の発売を予定する新型ノート。外観はスッキリとして簡素な造形ながら、しっかりとした存在感がある。見ていると、走りも高度になったのではないかとの想像がふくらんでくる。タイヤがしっかり地に着いて、路面をとらえる様子がその姿から感じられる。

  • 日産の新型「ノート」

    スッキリとした造形の新型「ノート」

運転席に座ると、ダッシュボードには大きな液晶画面が運転者の見やすい位置に置かれていた。まさに、時代に適した造形だ。目の前のメーターにはデジタル式の速度計が表示され、その横の液晶画面からもさまざまな情報が得られる。こちらも明快でわかりやすい。

  • 日産の新型「ノート」

    必要な情報を確認しやすい運転席

前席の間にあるシフトレバーは電気自動車(EV)「リーフ」と同じくバイ・ワイヤーによる電気式だが、操作方法はリーフと異なる。ノブを前後に動かすだけの簡単な操作になっているのだが、それでいて、誤操作をしないようにとの配慮も感じられる。パーキング(P)へのシフトも、同じシフトノブのボタン操作で行える。別ボタンとしている他のハイブリッド車(HV)やEVなどより、ずっと使いやすい。

  • 日産の新型「ノート」

    クルマの技術だけでなく、運転者にとって最適な操作方法を考えるという点でも日産は秀でている。同社の運転支援技術「プロパイロット」も作動させやすい操作方法となっているので、積極的に使いたくなる

さて、いよいよ進化した第2世代の「e-POWER」を試す。日産独創のシリーズ式ハイブリッドであるe-POWERは、モーターのみで走る。したがって発進は力強く、かつ的確で、そこから先の加速は滑らかだ。少し強めにアクセルペダルを踏みこんでも、まだ発電用のエンジンが掛からない。そのまま市街地を走るような速度に達しても、室内の静粛性は保たれる。

都市高速への流入を想定して強めにアクセルペダルを踏みこむとエンジンが始動し、発電を始めた。その電気は、リチウムイオンバッテリーに充電される。その際にはさすがにエンジン音が耳に届くが、エンジン音にがさつきがなく、嫌な印象はない。目指した速度に達するとエンジン音も穏やかになり、巡行に入る。ここではまだエンジンが掛かっているが、エンジン音はほとんど気にならず、静かな室内だ。

  • 日産の新型「ノート」

    新型「ノート」が搭載するガソリンエンジンは発電専用。走行はモーター駆動だ。パワートレインの性能は最高出力116馬力(85kW、現行型から5kWアップ)、最大トルク280Nm(同26Nmアップ)、燃費(WLTCモード)は最も良好な「F」グレードで29.5km/Lとなっている

e-POWERの特徴の1つが「e-POWER Drive」だ。ワンペダル感覚でクルマを操作できる機能だが、ここにも改良がみられた。シフトをDレンジに入れ、普通に運転を始める段階で、すでにワンペダルが機能している。そのことをあまり意識させない制御となっているので、いわれなければ気づかない人もあるかもしれない。現行型ノートとは大違いだ。

開発責任者によれば「e-POWER Driveを使うのと使わないのとでは、燃費が10~20%は違ってしまう」とのこと。その点を踏まえ、誰もがワンペダルを有効に使えるように改良を施したのだ。

「ワンペダル操作」はどうなったか

一方で、従来からのワンペダル操作を使い慣れた人は、減速での回生の効き具合を物足りないと感じるかもしれない。減速度に変わりはないのだが、減速のさせ方を制御で調整しているため、あまり実感がわかないのだという。

そういう人はDレンジに入れた後にシフトレバーを手前にスライドさせて、Bレンジを選ぶとよい。Bレンジでは減速度が高まり、より強めの回生を利用できるようになる。

ただし、新型ノートのe-POWER Driveでは、回生だけでクルマを停止させることはできない。ここは、「キックス」などのe-POWERとは異なるところだ。加速、減速、停止の全てをアクセルペダルだけで操作できる完全なワンペダルに慣れた人には、これも物足りないだろう。

一方で、完全なワンペダルだと、駐車などでわずかにクルマを動かしたいというとき、動きの微調整をしにくいとの声もあるとのこと。それもあって、新型ノートではブレーキペダルを踏んで停止させる制御としたそうだ。

  • 日産の新型「ノート」

    停止させるにはブレーキペダルを踏む必要があるものの、「オートブレーキホールド」機能を使えば停止中はブレーキペダルから足を離していられる(写真は新型「ノート」のAUTECH)

ワンペダルの活用法として、1つ提案がある。

新型ノートの場合、シフトにDとBの使い分けがあり、Bでは回生の効きを強めに感じられて、運転者がアクセル操作で加減速を調整できる幅が広がる。そこで、Bレンジをあえて選ぶ運転者には、停止まで回生が機能するようにしてはどうかと思う。

ワンペダル操作には、回生をできるだけ活用することで燃費を向上させられるというメリットだけでなく、ペダルの踏み替えを減らし、運転を楽にするという効用もある。日産によれば、ワンペダル操作により、ペダル踏み替えの機会を7割ほど減らすことができるとのことだ。これによって、昨今注目を集めている高齢者のペダル踏み間違い事故の機会も減らすことができるのではないか。

また、緊急事態でアクセルペダルからパッと足を離したときも、回生がグッと強く働けば、衝突に至るまでに速度をより大幅に下げておくことが可能だ。ペダルの踏み替えには、約1秒の時間が掛かるとされている。たとえ時速20キロで徐行していたとしても、1秒あればクルマは5.5m以上前進してしまう。その間に、回生によってグッと速度が落ち始めるのと、そのままの速度で前進してしまうのとでは、運転者の心理にも違いが生じるのではないか。回生が効いて速度が落ちれば、運転者は気持ちの落ち着きを取り戻し、ブレーキペダルをより確実に踏めると思えるのだ。もちろん、ブレーキを掛けるときの初速を回生で落としておけば、衝突を回避できる可能性も高まるだろう。

EVにしろe-POWERにしろ、モーター駆動によるワンペダル操作は、電力消費や燃費を抑えられるので環境に貢献できるし、安全や安心にも役立つ。交通事故削減に役立つ潜在能力を持っているのだ。より多くの人がワンペダル操作を経験し、身に着けることで、よりよい交通社会につながるものと考えられる。

  • 日産の新型「ノート」

    「B」レンジに入れれば、アクセルオフでクルマを停止まで持っていけるという仕組みにするのはどうだろう。完全なワンペダルも用意してあれば、ドライバーが好きな方を選べるのでより親切だと思う

新型ノートには、ワンペダル操作をより多くの人が活用できるよう改良が施されている。同時にまた、発電のためのエンジン始動を極力抑える制御も入っているので、静かで快適な走りを実感できる。発電用のエンジン自体も、改良により燃費が大きく向上した。

操縦安定性と乗り心地の調和は、キックスでも進化を感じたが、ノートではさらなる高みに達していて、運転を楽しませてくれる。新型ノートからは、モーター駆動を大きく育てようという日産の意思を感じた。

新車発表で注目を集めた新型ノートの魅力を、試乗で実感することができた。彩り豊かな車体色と手ごろな価格も相まって、納車される日を待ちかねる人が続出するのではないだろうか。