トヨタが2月に新型「プリウス PHV」を発売した。どこか地味な印象だった先代モデルと違い、注目すべき点の多い話題性のあるニューモデルとなっている。実際、さまざまなメディアで取り上げられることも多く、販売面でも好調なようだ。

トヨタ新型「プリウス PHV」

先代モデルは、ひと言でいえば「プリウス」のバッテリー容量を増やし、外部からの充電を可能としただけのモデルだった。バッテリー容量以外の性能・機能、それに外見も「プリウス」とほぼ同じだったといえる。

新型「プリウス PHV」では全面的なテコ入れがなされた。まず、エクステリアデザインを「プリウス」から大幅に変更。もはや「プリウス」のバリエーションモデルではなく、独立したモデルとしてのアイデンティティを与えられたといえる。「やりすぎ」との意見もあった「プリウス」からやや方向転換し、誰が見ても正攻法でわかりやすいデザインとなった。「プリウス」の反省とも取れるが、このモデルをどうしてもヒットさせたいという即効性を狙ったデザインともいえそうだ。

レンジエクステンダーEVとしても使える「プリウス PHV」

機能面では、従来の走行用モーターに加え、発電に使うジェネレーターもモーターとして使うことで、フル加速時にはエンジン1基とモーター2基によるハイパワーを実現。「プリウス」は従来から下手なスポーツカーより速いといわれていたが、「プリウス PHV」ではその加速に磨きをかけた。また、ルーフに太陽電池を敷き詰めたソーラー充電システムをオプション設定したり、一部の機能をスマホから操作できるようにしたりと、話題性の高い機能も多数採用している。

このように数々のセールスポイントを持つ「プリウス PHV」なのだが、トヨタではちょっと意外なところを強調しているようだ。トヨタのサイトにある「プリウス PHV」の特徴を見ると、最初に「EVモードで日々の移動をほぼまかなえます」と書いてある。どうやら、電気モーターだけで走行するEVモードを強調したいらしい。

「プリウス PHV」EVモードでの走行距離は68.2km。先代モデルに比べれば大幅に性能アップしたものの、他社のPHVモデルと比べて大きく抜きんでているわけではない。自慢するなら、他社のPHVモデルの2倍近い圧倒的な数値をたたき出した、ハイブリッド走行時の燃費37.2km/リットルにすべきだと思うのだが、なぜEVモードを強調するのだろうか。

新型「プリウス PHV」の発表会でも、EV走行距離「68.2km」が強調された

いうまでもなく、日本でエコカーといえばトヨタの「プリウス」それに「アクア」が不動の人気を誇っている。しかし、その人気を脅かす強力なモデルが昨年末に発売された。そう、日産「ノート」だ。モーターで走行し、エンジンで発電する「e-POWER」は環境意識の高いユーザーのハートをがっちりととらえ、月間の販売台数で「プリウス」「アクア」を抜き、1位に輝いた。

そんな強敵を返り討ちにする"刺客"として放たれたのが「プリウス PHV」……というわけでは、もちろんない。しかし両モデルはいろいろな意味で注目すべきライバルといえる。少なくとも、トヨタは「ノート e-POWER」を大いに意識している。だからこそのキャッチコピー「EVモードで日々の移動をほぼまかなえます」なのだろう。

おさらいになるが、HV(ハイブリッド車)はエンジンとモーターがそれぞれのウィークポイントを補い合い、協力してクルマを走らせることで低燃費を実現する。PHV(プラグインハイブリッド車)でもそれは基本的に変わらない。プラスアルファとして外部からの充電を可能としたのがPHVであり、一般的にバッテリー容量も増やしている。

充電が可能でバッテリー容量が大きいという特徴はEV(電気自動車)と似ている。言い換えれば、PHVとはよりEVのほうに寄せていったHVなのだ。さらにいえば、新型「プリウス PHV」には「バッテリーチャージモード」なる走行モードが追加された。ガソリンエンジンをおもに発電用として使う走行モードで、これを使うと、バッテリー残量がなくなってもしばらくエンジンで走行すれば、また電気モーターのみでの走行が可能となる。

こうなると、「プリウス PHV」は実質的にレンジエクステンダーEVなのではないかといいたくなる。少なくとも、実質的にレンジエクステンダーEVとして使うことが可能だ。それにしても、「バッテリーチャージモード」は「プリウス PHV」開発のどのタイミングで搭載が決まった機能なのだろうか。いささか蛇足、かつ邪推だが、この機能はソフトウェアだけで実現できると思われるので、車両が完成した後でも簡単に追加できるはずだ。もしかすると「ノート e-POWER」の存在が明らかになった後……だったら面白い。

エコカー開発競争は三つ巴の争いになるかもしれない

「ノート e-POWER」は「プリウス PHV」とは真逆で、EVなのだが実質的にはHVといいたくなる。外部からの充電はできない。走行中、頻繁にエンジンが稼働している。搭載するバッテリーの容量が小さい。これらの特徴はすべて、HVのそれとまったく同一だ。

限りなくEVに近づいた「プリウス PHV」と、限りなくHVに寄せてきた「ノート e-POWER」。たとえていうなら、両モデルは別々の登山口から入山した登山者のようなものだろう。ルートはまったく違うが、めざす山頂は同じなのだ。要するに「バッテリー切れで動けなくなる心配のないEV」だ。両モデルは価格帯も車格も違うので直接的に競合することは少ないかもしれないが、それでもライバル関係にあるといえるだろう。

そしてこのライバル争いは、エコカーの覇権争いでもある。現在、エコカー技術で業界のトップに立っているのは間違いなくトヨタだ。それに真っ向から挑戦していたのは、いつもホンダだった。「プリウス」と競合する「インサイト」を発売し、「アクア」と競合する「フィット ハイブリッド」を発売し、そして世界初のFCVである「MIRAI」に対して、すぐさま「クラリティ フューエル セル」を発売した。

興味深いのは、こうしたホンダの挑戦に対して、トヨタはその都度、過剰とも思えるほどの対抗策を講じていることだ。「インサイト」のときは、当時の新型「プリウス」の価格を予定よりも大幅に引き下げて発売し、さらにホンダに対して挑発的な広告展開を実施して物議を醸した。「フィット ハイブリッド」が世界一の燃費を実現すると、トヨタは即座に「アクア」に改良を施し、燃費世界一を奪還した。

「クラリティ フューエル セル」については、米国でのリース販売ではこちらが先に開始しており、「MIRAI」を「量産車として世界初」と銘打って発売したこと自体が、ホンダへの強烈な対抗策といえる。

このように、トヨタはエコカー分野には貪欲といえるほどのこだわりを持っており、何があってもこの分野でトップを守り抜く構えだ。そこに突如現れた伏兵が「ノート e-POWER」といえる。トヨタとしては脅威を感じるだろう。ホンダのように同じ技術で挑んでくる相手であれば、並ばれることはあっても、抜き去られることは考えにくい。しかし「e-POWER」のような異質な技術が相手だと、先の展開が読みにくい。

マーケットはつねに気まぐれなものだから、目新しい「e-POWER」にユーザーがさっと流れてしまうこともないとはいえない。「e-POWER」はこれからどんどん採用車種を増やしていくだろう。もう少し車格が上のセダンに採用すれば、「プリウス」の直接的なライバルになりうる(そのベースとなるセダン / ハッチバックモデルがいまの日産に乏しいのが気がかりだが)。これまで、トヨタとホンダで繰り広げられてきたエコカーの開発競争。これから日産を加えた三つ巴の展開となっていくかもしれない。