昔から、クルマの性能をアップさせる(と販売元が主張する)チューニングアイテムは星の数ほどある。もちろん、はっきり効果のある製品も多いのだが、反対に怪しげな製品も多い。科学的な根拠があるとは思えない製品、効果がはっきりと証明されていない製品は俗に「オカルトチューニングアイテム」などと呼ばれるが、逆に言えば、そんな名前ができてしまうくらい、たくさんの怪しげなチューニングパーツがあるということだ。

さて、仮に筆者が1カ月ほど前の世界にタイムワープし、「アルミのテープをボディに貼るだけで、空力性能が改善され、ハンドリングが良くなる」と吹聴したらどうなるだろうか。聞いた人は間違いなく「オカルトアイテムに決まっている!」と思うだろう。しかし、実際にこの報道がなされたとき、首をひねる人はいても、「オカルト」と即断できる人はいなかった。なぜなら言い出したのは筆者でなく、トヨタだからだ。

「アルミテープによる空力コントロール」の新技術は、マイナーチェンジしたトヨタ「86」にも採用されているという

トヨタの発表によれば、車体の適所にアルミのテープを貼ることで、車体に帯びた静電気が放出され、これにより車体各部の空力バランスが変化し、直進安定性や回頭性などハンドリングが向上するという。この技術はマイナーチェンジされた「86」や新型「ノア」および「ヴォクシー」、レクサス「RX」にすでに採用されているというから驚く。

説明だけ聞けば典型的なオカルトアイテムとしか思えない技術を「オカルト」と切って捨てることができない最大の理由は、もちろん、発表したのがトヨタだからだ。いまや世界有数の自動車メーカーであるトヨタが、そんなつまらない嘘を言うわけがない。それに、ちょっと意地悪な言い方だが、コストダウンの鬼であるトヨタが、たとえどんなに原価が安いパーツとしても、効果がないならコストをかけて市販車に取り付けるわけがない。

この技術はすでに特許を取得しているそうだ。「特許」イコール「効果が保証されている」わけではないが、やはり信憑性は高そうだといえる。さらにいうと、「86」などにも採用されているトヨタ純正のアルミテープが、トヨタから直接市販されている。これを購入すれば、誰でもその効果を検証することができるのだ。おそらく、これからSNSや動画サイトなどに多くのユーザーのレビューが投稿されることだろう。

ヤマハも出している"びっくりチューニング"アイテム

ところで、筆者はこのアルミテープのニュースを聞いて、すぐにヤマハのパフォーマンスダンパーを思い出した。これは一種のショックアブソーバーなのだが、モノコックシャシーに装着することで、ハンドリングや乗り心地の向上、オーディオの音質向上、駆動系ロス感の低減などの効果があるという。こちらも特許を取得しており、レクサスの一部車種などに採用されている。

パフォーマンスダンパーは、欧州車などのチューニングで有名なCOXから「ボディダンパー」の名称で販売されており、誰でも購入してその効果を確かめることができる。筆者は以前にボディダンパーを購入したポルシェオーナーの話を聞いたことがあるが、その効果ははっきりとわかると言っておられた。そのとき筆者が驚いたのはその取付け場所で、なんとバンパーのレインフォースメントとシャシーの接合部分、つまりモノコックシャシーの前端に取り付けられていた。バンパーの裏に収納されているような感じだ。

たとえばサスペンションアームの付近なら、なんとなく効果がありそうにも思える。しかし、バンパーの裏では、いくらなんでも効果があるようには思えなかった。しかし、いま思えば、このパーツはボディの歪みを吸収するのではなく、もっと細かいボディの振動を吸収するのかもしれない。いずれにしても、特許に加えてさまざまな技術賞も受賞しており、販売実績も豊富とあれば、効果は実証済みと考えて良さそうだ。

価格はまったく異なるが、誰でも購入して確かめられるのはトヨタのアルミテープと同じだ。トヨタとヤマハは関係の深い企業だし、社名を聞かなければ「オカルト?」と思ってしまうところ、それなのに市販車に採用されていることも共通している。

他にも自動車メーカーあるいはパーツサプライヤーなどが開発・市販しているチューニングパーツがないか探したが、さすがに見つからなかった。そこで範囲を広げて、信用性はひとまず置き、過去に一世を風靡したチューニングアイテムを振り返ってみよう。

まず思いつくのはアーシングだ。ボディやエンジンブロックなどを太い配線でつなぐこのチューニングは、一時のブームというより、定着したチューニング手法といっていいだろう。さまざまな効果のうち、いくつかは簡単に確認できる。たとえばヘッドライトのバルブの端子の電圧を測ると、バッテリー電圧よりも1ボルトも低いといったことはよくあるのだが、アーシングをすることでその電圧が上がる。サーキットテスターがあればすぐに確認できるアーシングの効果だ。

電気系でもうひとつ忘れることができないのは、バッテリー部分に取り付けるコンデンサータイプのアイテム。エンジンパワーアップや燃費改善をうたっていたが、こちらは最近ではすっかり見かけなくなった。

ボディの各所に貼り付けるだけでさまざまな効果が得られるとする、シート状のアイテムもかつて大流行した。批判もあったが、それ以上に効果ありと支持するユーザーも多かったようだ。その他、定番のチューニングアイテムとしてエンジンオイルに投入する添加剤があるが、これはもう数が多すぎて一概に良い、悪いとはいいにくい。

「効果があるかどうか」と「売れるかどうか」は別問題?

アーシングチューンが大流行したとき、関連アイテムを販売するカー用品店のスタッフに話を聞いたことがある。その話によると、売れるチューニングアイテムには、いくつか共通の特徴があるそうだ。まず、どう間違ってもクルマに悪影響が絶対にないと思えること。次に、その気になればいつでも取り外して、クルマを以前の状態に戻すことができること。そして、価格が効果を期待させる程度に高く、しかしその場で思いきって買える程度に安いこと。

いずれも「なるほど」と思えるが、この売れるチューニングアイテムの条件には、「効果があること」は含まれていない。実際、そこにこだわる人はほとんどいないのだという。ついでにいうと、チューニングアイテムを購入して、「効果がなかった」とクレームを言いに来る人も、ほぼ皆無だそうだ。

つまり、こういったチューニングアイテムを購入する人は、実利的な効果に期待しているのではなく、愛車をより楽しむ、あるいは愛情を注ぐ「イベント」にお金を出しているのだ。アイテムを購入して自分で愛車に取り付ける行為そのもの、あるいは効果があった、なかったと一喜一憂する過程にこそ意義がある、というわけだ。

ちなみに、トヨタのアルミテープも売れるチューニングパーツの条件にぴったり当てはまる。もちろん、だから効果がないということではない。それはまったくの別問題だ。ただ、愛車に愛情を注ぐイベントを提供したい、愛車に手をかけてかわいがるその体験のきっかけになればいいと、案外、トヨタの真意はそこにあるのではないだろうか。