英国の名門、アストンマーティンから意外なモデルが発表された。F1レースで活躍するレッドブル・レーシングと共同で、コードネーム「AM-RB 001」なるハイパーカーを開発したというのだ。この謎に包まれたモデルの情報はほとんど明かされていないが、V型12気筒の自然吸気エンジンを搭載し、そのパワー・ウエイト・レシオは「1」であるという。たとえば、最高出力1,000PSに車重1,000kgといったところか。

アストンマーティン「AM-RB 001ハイパーカー」

まさに桁違いのハイパフォーマンス。こうした現実離れしたクルマを、従来は「スーパーカー」というカテゴリーで括っていた。しかしここ数年、「ハイパーカー」という新たな言葉が使われるようになり、ひとつのジャンルとして定着しつつある。ハイパーカーとは一体何なのか。

スーパーカーの枠に収まりきらなかったパガーニ「ゾンダ」

ごく簡単に説明すれば、スーパーカーさえ超えた、その上に位置するカテゴリーがハイパーカーといえる。ハイパーカーの最初のモデルはどのメーカーのどんなモデルか、はっきりと語ることはできないが、1999年に登場したパガーニ「ゾンダ」以降、「ハイパーカー」という言葉が次第に使われるようになってきたことは間違いないようだ。

かつてランボルギーニに在籍していたオラチオ・パガーニが設立したパガーニ・アウトモビリの最初のモデルが「ゾンダ」だ。日本では正規輸入されなかったこともあり、あまり注目を集めることはなかったが、そのスタイリングやパフォーマンスは欧州において大いに注目を集めた。

近年は日本でも、ニュルブルクリンク最速の市販車として知られるようになってきている。2008年、「ゾンダ Fクラブスポーツ」が7分27秒82という当時の市販車最速記録をたたき出し、2010年には、サーキット専用モデルではあるが「ゾンダ R」が6分47秒50というにわかに信じがたいベストラップを刻んだ。

この記録は6年経過した現在でも破られていない。「ゾンダ」は2011年、後継モデル「ウアイラ」の登場をもって終了となるが、その最後を飾って5台のみ生産された「ゾンダ Revolution」は約3億円というプライスが付けられた。

このように、「ゾンダ」は性能面でも価格面でも従来のスーパーカーを超えていることから、「ハイパーカー」と呼ばれた。そして「ゾンダ」以降、世界のスーパーカーメーカーは次々とハイパーカーを発売し、ハイパーカー開発戦争といった様相を呈する。

フェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニ…次々に登場したハイパーカー

開発戦争とは大げさだという人もいるかもしれないが、実際のところはどうなのか。「ゾンダ」発売以降に登場したハイパーカーを振り返ってみよう。

まず真っ先に思い浮かぶのは、2005年に登場したブガッティ「ヴェイロン」だ。8.0リットルのターボエンジンを搭載し、最高出力1,000PS、最高速度400km/hと、フェラーリやポルシェのスーパーカーがおとなしく見えてしまうほどのパフォーマンスを誇る。

「ヴェイロン」と対抗できる数少ないモデルのひとつがマクラーレン「P1」だ。エンジンは3.8リットルと小排気量(?)のV8ターボだが、電動モーターの力を借りて最高出力は916PSと非常に高出力。エンジンルームの遮熱のために金箔を用いるなど、贅の限りを尽くしていることでも話題を呼んだ。

「P1」や「ヴェイロン」すら凌駕するスペックを誇るのが、スウェーデンのケーニクセグが2010年に発売した「アゲーラ」だ。高性能版の「アゲーラ R」は最高出力1,140PSに達し、0-300km/h加速が14.53秒(!)など、数々の世界記録を保持している。

さらにその「アゲーラ」を上回るハイパワーを誇るのが、アメリカのシェルビー・スーパーカーズが2012に発売した「トゥアタラ」。7リットルV8ターボエンジンを搭載し、最高出力は1,369PSを発揮する。

スーパーカーでもハイパーカーでも、このメーカーなしに語れないフェラーリには、2002年登場の「エンツォ・フェラーリ」や、2013年登場の「ラ・フェラーリ」がある。「ラ・フェラーリ」は6.3リットルのV12エンジンを搭載し、電気モーターとの合計出力が963PS。このモデルはアラブ首長国連邦のドバイで昨年初めて開催された「アラブウィールズ・アワード」において「ハイパーカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。

フェラーリの名が出たらこちらも外すことはできないポルシェには、2003年の「カレラ GT」と2013年の「918 スパイダー」がある。「918 スパイダー」は3.4リットルのV8エンジンと電気モーターで最高出力880PS。ニュルブルクリンクのラップタイムは7分をきっており、ハイパーカーの中でもきわめて速い。

ランボルギーニにもすごいモデルがある。750PSのV12エンジンを搭載する「アヴェンタドール LP750-4 スーパーヴェローチェ」も十分すぎるほど高性能だが、今年3月には、その上を行く「センテナリオ」を発表した。最高出力は770PSだ。

ハイパーカーの定義は最高速度か?

こうして見てみると、少なくともおもなスーパーカーブランドがハイパーカーというカテゴリーに参入し、継続的にモデル開発を行っていることは間違いないようだ。もちろん、ここに挙げたモデルを見て「あのモデルが抜けている」とか、逆に「このモデルが入っているのはおかしい」という意見もたくさんあるだろう。自動車のカテゴリー分けはあいまいなのが常で、「スポーツカーとは何か」「スーパーカーの定義は」といった議論はつねにある。ハイパーカーについても同様だろう。

スーパーカーとハイパーカーの線引きとしては、意外と簡単な基準「最高速度が400km/hを超えるモデルがハイパーカー」という定義が、一応あるようだ。最高速度のみですっぱり分けるのは子供っぽい発想にも思えるが、しかし最高速度も400km/hといった超絶的な世界になると、それはクルマのさまざまなファクターを集約したスペックといえる。たとえばスタイリング。300km/hを超える速度域では、エンジンパワーより空力性能が重要となり、スーパーカーと比較してもさらにもう1段階「一線を越えた」カタチにしないと、400km/hには到達できない。

つまり、最高速度400km/hを達成したモデルはスーパーカーよりさらに非日常的なスタイリング、さらに割りきった実用性や扱いやすさとならざるを得ない。だから最高速度でハイパーカーを定義するのは、意外と実情に沿っているのだ。

ただし、その線引きを400km/hとすると、ここで挙げたモデルのほとんど、ポルシェもフェラーリもマクラーレンもそこに達しておらず、ハイパーカーではないということになる。しかし「ラ・フェラーリ」や「P1」が、「ベイロン」や「アゲーラ」より下のモデルと思う人はいないだろう。このあたりはやはり方向性の違いだといえる。

いずれにしても、自動車業界では環境性能や安全性が重視されているはずなのに、ハイパーカーのような特殊なモデルが台頭してきたことは面白い。一時的なブームで終わるのか、ひとつのカテゴリーとして定着するのか、興味は尽きないところだ。

アストンマーティン「AM-RB 001ハイパーカー」