今回のお題は、航空機と宇宙機の航法。「軍事とIT」ということで、軍用機やミサイルに関わる話を中心に取り上げる。

本誌の別の連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」でも航空機の航法を取り上げているので、普遍的な話はそちらも参照してみていただければと思う。

基本的な流れは艦船と似ている

航空業界は何かと船舶業界と似たところがあるが、航空機の航法も艦船の航法と似たところがある。当初は地文航法から始まり、計器を援用する推測航法も使用するようになった。実は天測も使用していて、第2次世界大戦中に使われた大型爆撃機の多くが、機体上面に天測用の透明ドームを設けていた。航法士がそこに頭を突っ込んで、六分儀で天体の位置を測るわけだ。

前回に取り上げた無線航法も、ルーツは軍用機にある。なんでそんなものが必要になったかといえば、爆撃機が敵戦闘機による迎撃を避けるために、夜間爆撃を行うようになったからだ。

敵側は夜間に飛来する爆撃機に測位のヒントを与えないために、灯火管制を行う。そもそも夜間なのだし、さらに灯火管制までされたのでは地文航法は成り立たない。そこで、無線を使って位置を割り出す工夫をした。

爆撃機を誘導するだけなら、極端な話、目的地まで一直線に飛んで行くことができれば用が足りる。だから、ドイツの「クニッケバイン」みたいに、2カ所の地上局から目標地点上空で交差するように電波を出して、爆撃機はその電波の交点に来たことを把握して爆弾を落とす、という話で済んだ。

しかし、もっと汎用性がある航法手段が求められると、それでは具合が悪い。そこで考案されたのが、前回に取り上げた双曲線航法だった。その後、慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)を使うようになったり、GPS(Global Positioning System)が登場したり、ということになった。この辺も、航空機と艦船は似ている。

ドップラー・レーダー

航空機が艦船と違うのは、ドップラー・レーダーの存在だろうか。これは、地上に向けて電波を出す機器である。飛んでいる飛行機から地表に向けて電波をぶつけると、戻ってくる反射波はドップラー・シフトと呼ばれる周波数変動を生じる。そのドップラー・シフトの量を基にして速度を割り出すというもの。

ただし、ドップラー・レーダーで分かるのは対地速度である。ところが、飛行機に付いている速度計は対気速度計である。向かい風や追い風があれば、対地速度と対気速度は当然ながら食い違う。

つまり、飛行機のパイロットや航法士は、対気速度と対地速度を使い分けながら位置を出していることになる。これは飛行機に特有の問題である。車両や艦船の場合、対気速度なんてものは使わないから、こういう問題はない。

  • 米国オクラホマ州ノーマンにあるドップラー・レーダーを用いた測候所 写真:National Severe Storms Laboratory

    米国オクラホマ州ノーマンにあるドップラー・レーダーを用いた測候所 写真:National Severe Storms Laboratory

  • 米国オクラホマ州ノーマンにあるドップラー・レーダーを用いた測候所の内部 写真:National Severe Storms Laboratory

ハイテク地文航法

目視による地文航法は、地上の地形や目標物を目視できて、初めて成立する。だから夜間や悪天候下では使えないことになるのだが、1980年代になって、違う形の地文航法が登場した。

それが、BGM-109トマホーク巡航ミサイルのうち対地攻撃型が使用している地形等高線照合(TERCOM : Terrain Contour Matching)。これは、レーダーを使って下方の地形を走査して、それを事前に記憶させておいたデジタル・マップと照合することで現在位置を知るというもの。トマホークはINSも装備しているが、INSだけでは誤差が累積する傾向があるので、補正手段としてTERCOMを使用している。

かつて存在した核弾頭装備型(BGM-109A)はINSとTERCOMの組み合わせだが、通常弾頭装備型(BGM-109C)はさらに念を入れて、デジタル地形照合・地域相関(DSMAC : Digital Scene-Matching Area Correlation)を併用した。これは、ミサイルが最後に目標地点に突入する際に、事前に記憶させておいた目標の映像と、実際に目の前(ミサイルだから「目」はおかしいか?)にある映像を照合させるもの。

つまり、トマホークを使用するには、TERCOM用のデジタル・マップ情報(土地を細かいグリッドに分けて、個々のグリッドごとの標高を数値化したもの)とDSMAC用の映像データを用意しなければならないのである。「敵基地攻撃能力が必要だからトマホークを買ってこい」なんていう、簡単な問題ではないのだ。買ってきただけでは使えない。

もっとも、GPSがない時代に開発したミサイルだから、こういう面倒くさい話になった一面もある。その後に登場した新型のトマホークや、2017年の末になって急に名前が出てきたAGM-158 JASSM(Joint Air-to-Surface Standoff Missile)は、INSとGPSの組み合わせを使っている。ただしJASSMは、最後に目標を識別する場面で赤外線センサーも併用しているけれど。

宇宙機などの航法

宇宙機、中でも月まで飛んでいったアポロ宇宙船みたいに地球から遠く離れるものになると、地上の何かに頼るわけにはいかないので、別の測位・航法手段が必要になる。

宇宙空間を飛んでいて、天候の影響を受けないのだから天測はできそうなものだが、宇宙船というのは周囲の視界が限られるからやりづらいかもしれない。大きな窓を設ければ、そこで十分な強度を持たせるために構造が大がかりになって、重くなる。それは避けたい。

というわけで、またもやINSが登場する。外部に無線局や衛星といった支援インフラを必要とせず、自身に加わった加速度を精確に測定して計算すれば位置が出るので、宇宙船にはもってこいである。

宇宙機の話ではないが、宇宙空間に飛び出して天測を行う例としては、米海軍のSLBM(Submarine Launch Ballistic Missile)「UGM-133トライデントD5」がある。弾道ミサイルの誘導は基本的にINSだが、そこに天測を併用することで命中精度を上げている。

  • 潜水艦USSネブラスカが打ち上げたトライデントII D5 写真: U.S. Navy

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。