防衛省は12月21日、「能登半島沖の日本海で警戒監視飛行を実施していた海上自衛隊のP-1哨戒機に対し、韓国海軍の広開土大王級駆逐艦が射撃管制レーダーを照射した」と発表した(発生は前日の20日)。かかる事態が発生した理由や背景事情については論評を避けるが、技術的な背景なら解説することができる。

みんな持っている(?)逆探知装置

電波は目に見えないのに、どうして「電波が飛んできた」とわかるのか。それは、電波を受信・解析する装置が載っているからである。

P-1のような哨戒機にとって、レーダー電波の逆探知を担当するESM(Electronic Support Measures)は必須アイテム。相手が潜水艦であれ水上艦であれ、レーダーを作動させてくれればもっけの幸い、その電波を逆探知して相手の所在を知ることができる。ただし、聞き耳を立てるだけのパッシブ探知手段だから、発信源の方位はわかるものの、発信源までの距離はわからない。

その水上艦も、自艦がレーダーで探知されているかどうかを知るためにESM装置は必須である。射撃管制レーダー、あるいは対艦ミサイルの誘導レーダーが発信したレーダー電波が飛んできていれば、自艦が攻撃対象になっているとわかるので、艦内に警報を出して対応行動をとらなければならない。潜水艦も、捜索している誰かさんが洋上にいるかどうかを知りたい。

戦闘機や爆撃機にとっても事情は同じ。敵の対空ミサイルや対空砲で狙われているかどうかを知る必要があるからだ。ただし、捜索レーダーは無視して、危険度が高い射撃管制レーダーだけを対象としていることもある。

さて。冒頭で取り上げた海上自衛隊の事案では、どうして「射撃管制レーダー」だとわかったのか。

レーダーとは

レーダーの基本的な動作は「電波を出す」「その電波が何かに当たって反射する」「反射して戻ってきた電波を受信して、送信から受信までの所要時間から目標までの距離を、電波を出した方向から目標の向きを、それぞれ知る」というもの。

そこで、一般的にはパルス波、つまり送信を間欠的に行う形をとる。電波を出したらしばらく聞き耳を立てて、反射波が戻ってくるかどうかを待つ。その間に反射波が戻ってくれば、探知が成立する。用途によっては、連続波(CW : Continuous Wave)を使用するタイプもあるが、その話については割愛する。

単に「何かがいる」ことを知るだけなら細かい話はどうでもよいが、実際には用途によって「重視すべきポイント」がある。

例えば、上空を飛んでいる飛行機を広い範囲で探知したければ、探知距離が長いレーダーが必要になる。探知距離を長くするには、送信出力を上げたり、アンテナ利得を高めたりといった方法があるが、レーダーが使用する電波の周波数も問題になる。なぜなら、電波は周波数が高くなるほど減衰しやすくなるからだ。

だから、遠距離捜索用のレーダーは周波数が低い電波を使用するほうが有利になる。しかし、周波数が低いと分解能が低下する問題がある。分解能とは、平たく言えば「精度」のことで、「距離分解能」と「方位分解能」がある。

「飛行機が飛んでいることがわかればよい」という程度であれば、分解能が多少低くても用は足りる。しかし、ミサイルの誘導や砲の照準といった場面では話が違い、分解能が低いと精度不足で仕事にならない。また、ミサイルやドローンみたいに小さな目標を探知する際も、分解能は重要になる。

捜索レーダーと射撃管制レーダー

といったことを念頭に置くと、「1つのレーダーだけですべての用途に対応することはできない」となる。そこで当節の軍艦は、用途に合わせて複数のレーダーを搭載している。

まず、対空捜索レーダー。これは全周を監視している。探知可能距離の長さが求められることから、使用する周波数は比較的低い。昔は回転式のアンテナをグルグル回すタイプだったが、近年は固定式のアンテナを使って電波の放射方向を電子的に制御する、フェーズド・アレイ・レーダーが増えてきている。

もう1つが、ミサイルや艦載砲と組み合わせて使用する射撃管制レーダー。対空捜索レーダーが捕捉した目標の中から「これと交戦する」と決めた対象に指向する。だから、常に全周をグルグル回しているわけではない。精確に狙いをつけるには高い精度が求められるので、電波の周波数は高い。

  • カナダ海軍のフリゲート「オタワ」。①は対空捜索レーダーSMART-S Mk.2、②は射撃管制レーダーCEROS200

  • 海上自衛隊の護衛艦「うみぎり」。①は対水上レーダーOPS-28C、②は対空捜索レーダーOPS-24、③は射撃管制レーダーFCS-2-23

射撃管制レーダーは、指定された探知目標を連続的に捕捉・追尾して、移動する方向や速度を割り出す。射撃管制システムは、そのデータに基づいて射撃に必要な数値を出す。例えば、砲弾は撃ってから目標のところまで到達するのに少し時間がかかるから、その間にも目標は移動している。そこで、捕捉・追尾データから目標の未来位置を計算して、そこに砲を指向させる。

電波の周波数以外にも、パルス繰り返し数(時間当たりのパルスの頻度)、パルス幅(パルスごとの送信時間)、変調の有無などといったパラメータにも違いが生じる。同じレーダーでも、場面に応じてパラメータや捜索パターンを変えることがある。

すると、逆探知装置が受信したレーダー電波の周波数などを調べれば、対空捜索レーダーなのか、射撃管制レーダーなのかは区別できる。無論、判断するための基礎データは必要だが、おおまかな周波数帯ぐらいは「ジェーン年鑑」を見れば載っている。

詳細なデータが欲しければ、傍受機材を載せた電子情報収集機を飛ばして、平素からデータを集める必要がある。その辺の話は本連載の第43回「情報活動とIT(3)ELINT・COMINT・SIGINT」や、第102回「電子戦とIT(2)脅威ライブラリ」で取り上げたことがある。

実は、問題の韓国海軍の駆逐艦が搭載している射撃管制レーダーはタレス社製のSTIRシリーズに属する製品で、過去に海上自衛隊でも同じシリーズの製品(同一製品ではない)を使っていたことがある。だから、今回の場合には「なじみのある製品だった」といえる。

以前に、中国の軍艦が海自の護衛艦に射撃管制レーダーで照射してきたことがあったが、データ収集という観点からすると、そちらのほうが旨味があっただろう。照射された艦にしてみれば、いい気分はしないだろうけれど。

ちなみに、水上の目標を探知する対水上レーダーもある。これも捜索レーダーに分類されるが、そんなに長距離の探知能力は求められない。どのみち水平線より向こう側は見えないのだから、数十kmもあれば事足りる。一方、波に紛れた小さな探知目標を見つけられないと困るから、分解能を重視して、電波の周波数は射撃管制レーダー並みに高めにとる傾向がある。

ということは、同じ周波数帯の電波でも「対水上レーダー」と「射撃管制レーダー」の両方が存在する可能性があるわけで、区別のためのデータ収集は重要である。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。