前回は「システム艦」の話をつかみの話題に使った関係もあり、艦載ウェポン・システムの話に終始してしまった。そこで今回は、航空機の話をしてみよう。こちらはまた独自の課題がある。

航空機に特有の課題

航空機も艦艇と同様に、レーダーをはじめとする各種のセンサー・システムと、機関砲、ミサイル、誘導爆弾などといった兵装を発射あるいは投下する(狭義の)ウェポン・システムの部分がある。そして、両者の間を、ミッション・コンピュータとかセントラル・コンピュータとかいう呼び方をする「頭脳」が取り持っている。

当然、これらの構成要素が互いにデータや指令をやりとりできるようになっていなければならない。そこのところは艦艇と同じである。

センサーとミッション・コンピュータの間はそれでいいとして、ミッション・コンピュータと(狭義の)ウェポン・システムの間はどうか。データや指令を搭載兵装、あるいはそれをコントロールする射撃管制システムに送ることができれば、それで一件落着か。

実は、そうは問屋が卸さない。航空機には別の課題がある。

機内兵器倉に搭載するにしろ、胴体や主翼の下面(ごくまれに上面)に兵装架を介して搭載するにしろ、「ちゃんと発射できるかどうか」という問題がある。なにしろ、飛行機は高速で飛んでいるから気流の影響を受けるし、旋回・上昇・下降していれば荷重の影響も受ける。

だから、「機体側のシステムと搭載兵装が会話をできること」だけでは不十分で、兵装を搭載した状態での飛行や、飛行中の兵装投下・発射を問題なく行えること、という課題が加わる。

兵装の搭載・発射に関わる試験いろいろ

具体的に、どんな試験をするか。

まず、兵装を搭載した状態で問題なく飛べなければならないので、拘束飛行試験をやる。ときどき「高速飛行試験」と勘違いする向きがあるが、「拘束」が正しい。この場合、「拘束」する対象は搭載兵装である。

つまり、兵装架にミサイルや爆弾を取り付けた状態で問題なく飛行や操縦操作ができるかどうか、空力特性の変化が原因で妙な振動を起こすようなことがないか、といったことを確認する。この時点では投下も発射もやらないから拘束という。

次が分離試験。いきなり飛んでいる状態で兵装を切り離したり発射したりして、まずいことになったら目も当てられないから、風洞試験を行って検証したり、地上で機体をピット(穴)の上に据えて、兵装を切り離してみたりする。

  • F-35から誘導爆弾JDAM (Joint Direct Attack Munition) を投下するために行われたピット試験。供試体を壊したら困るから、ピットにはクッションが敷かれていて、その上にF-35を持ってきて兵装を切り離している Photo : USAF

飛びながら切り離す試験は、その後の話である。F-35のように機内兵器倉を備えている機体においては、投下・発射する場合に扉を開くところからテストが始まる。しかも、水平直線飛行だけでなく、さまざまな飛行条件下で試さなければならない。

そしてもちろん、搭載した兵装と機体側のミッション・コンピュータや射撃管制システムが正しく「会話」できることを確認する試験もある。

こうした、さまざまな試験を積み重ねて「問題なし」となって初めて、実際に兵装を撃ってみる試験に駒を進めることができる。そして、目標の探知~交戦対象の選び出し~諸元の入力~発射という一連のシーケンスを最初から最後まで試す「エンド-エンド試験」が、クライマックスのイベントとなる。

コンピュータ・シミュレーションを援用する

こうした試験を行う際は、実機で試験する際のリスクを低減して事前の検証と熟成を図るため、風洞試験を併用することが多い。

例えばミサイル発射であれば、機体の模型とミサイルの模型をくっつけた状態で風洞を作動させる。そして、所定の速力になったところでミサイルの模型を機体から離してみて、その際の気流の様子を見る。

コンピュータ・モデルを作れれば、数値流体力学(CFD : Computational Fluid Dynamics)に基づくコンピュータ・シミュレーションで検証する手も使える。

いずれにしても最後は実機と実物で試さなければならないが、事前検証やリスク低減に風洞試験やCFD解析を併用しないと、かかる手間と費用が多くなりすぎる。

センサー・システム、ミッション・コンピュータ、そして射撃管制システム、あるいは兵装との間のやりとりでも、「どういう数値を入れたときにどういう反応が返ってくるか」を検証する作業なら、コンピュータ・シミュレーションを使える。

航空機ならではの条件

艦艇ならスペースに余裕があるというわけではないが、航空機のほうがさらに条件が厳しい。

新規設計の機体に合わせてウェポン・システムを構築するケースでも、既存の機体に後から新しいウェポン・システムを導入するケースでも、機体の形や利用可能な空間は先に決まってしまう。そこに機器が収まるかという問題がある。

米海兵隊ではF/A-18ホーネットのレーダーを新型化する計画を進めているが、候補になったレーダーについて、まず「物理的に機内に収まるか」を確認する、フィット・チェックという作業をやった。

電子機器が機首の電子機器室に収まらなければ話にならないし、アンテナがレドームからはみ出してしまっても困る。そして、候補機種はいずれもF/A-18用ではなくF-16用に開発された製品だったから、フィット・チェックが必要になった。

なお、新型レーダーは現行型と違ってAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダー、つまり固定式アンテナを使ってビームの向きだけ変えるタイプだから、アンテナの首振りが可能かどうかという問題は発生しない。

このほか、消費電力や発熱という問題もある。性能はいいけど電気食い&発熱過剰、ということでは困るのだ。かつて、そんなマイクロプロセッサがどこかにあったような気がするが。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。