有人機では、1つの機体の中にひとまとまりになっている「操縦」「センサー機器の操作」などの機能が、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)では機上と地上に分かれていて、両者を通信回線で結ぶ形になっている。だから、機体と地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)の間で指令やデータのやりとりを適切に行えなければ、仕事にならない。

問題は相互接続性と相互運用性

すると、IT業界と同様に、相互接続性や相互運用性という問題がついて回ることになる。ペイロードと機体の間のインタフェースは以前に取り上げたが、機体とGCSの間のインタフェースという問題もあるわけだ。

では、具体的にどういう機能が求められるのか。まず、UAVを飛ばすには飛行諸元に関するデータを機体から受け取ってGCSの計器に表示したり、GCSからの操縦指令を機体に送ったりする必要がある。

特定の機体と特定のGCSの組み合わせだけで済ませればよい、ということであれば、メーカー各社がそれぞれ独自に、いわゆるプロプライエタリな規格・システムを構築していても、なんとかなる。

しかし、ことに軍隊ではUAVの利用が急速に拡大しており、さまざまな機種を用途ごとに、あるいは組織階梯ごとに使い分けるようになってきている。最前線の小規模部隊は小型で安価な機体を、後方の上級部隊は大型で高級な機体を、という使い分けがポピュラーだ。

それだけでなく、新型機への更新という問題もある。ことに最前線の小規模部隊が使用する機体は「撃ち落とされても仕方ない、人命の損耗よりは良い」という考えが根底にあるから、消耗も多い。

そこで機体を補充するのに、元と同じ機体しか使えないのでは具合が悪い。より高性能の、あるいは安価な新型機に置き換えられることができれば、そのほうがいい。その際にGCSも含めて総取り替えになるのでは厄介だ。

そんなこんなの事情から、UAVとGCSの間のインタフェース仕様を標準化して、相互運用性を持たせることはできないか、という話が出てきた。もちろん、機種ごとに固有の部分はどうしても残るだろうが、標準化できるところだけでもするほうが良いのは自明の理。

UAVを操縦するためのGCSとのやりとりでは、デジタル・データの形で飛行諸元、操縦指令、センサー・データなどに関する情報が行き来する形になるから(まさか当節、アナログでやるわけにもいくまい)、データ・フォーマットや伝送規約に関する規定が含まれているのだろう、とは容易に想像できるところである。

そこでNATOでは、UAVとGCSの相互運用性に関する複数の標準化仕様を規定している。これらは「STANAGほげほげ」という一連番号がついていて、番号で内容を区別する。IT業界でいうところの「RFCほげほげ」とか「IEEEほげほげ」と似たようなものだ。ちなみにSTANAGとはStandardization Agreementの略だ。

  • メリーランド州のパタクセントリバー基地に設置された、新型艦載空中給油用UAV。MQ-25用の任務管制ステーション。こうした地上の管制機材と飛行中のUAVの間で指令やデータを円滑にやりとりするには、標準仕様が欠かせない Photo:US Navy

具体的な標準化仕様のいろいろ

同じ問題は、UAVが搭載するペイロードからGCSにデータを送る場面でも発生する。そこで、分野別にSTANAGの規定ができていて、例を挙げると以下のようになる。

  • STANAG 4545 : 電子光学/赤外線(EO/IR : Electro-Optical/Infrared)センサーや、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)から取得する静止画のデータ形式(NSIF : NATO Secondary Imagery Format)に関する規定
  • STANAG 4586 : EO/IRセンサーの制御・操作に関する規定
  • STANAG 4609 : EO/IRセンサーから取得する動画のやりとりに関する規定
  • STANAG 4607 : GMTI(Ground Moving Target Indicator、地上移動目標識別)機能を備えたレーダーから取得する、移動目標データのやりとりに関する規定
  • STANAG 5516 : 追跡情報メッセージのやりとりに関する規定

UAVの分野で、特に多い利用形態はEO/IRセンサーによる動画の実況中継だから、STANAG 4586やSTANAG 4609は重要である。無論、その他の標準化仕様が「どうでもいい」というわけではないが。

ともあれ、インターネットにおけるあれやこれやと同様に、UAVと、UAVが搭載するペイロード、そしてそれを管制するGCSにも、同様に標準化仕様というものがついて回るのだということを知っていただきたいのである。

耐空要件にも標準化仕様がある

飛行機には「耐空性」(airworthiness)という言葉がある。噛み砕くと、「安全に飛行できるために兼ね備えていなければならない要件を満たしているかどうか」という話である。

その要件は耐空性認証機関が定めており、要件に適合しているかどうかを地上試験・飛行試験によって確認する。そして適合していると確認すると、型式証明(TC : Type Certificate)という名の「お墨付き」が出る。たとえば、三菱MRJの飛行試験で行われているのは、この型式証明取得のためのプロセスである。

同じ「飛びもの」だから、UAVといえども同様に耐空性に関する要件はある。NATOの場合、UAVの耐空性要件についてはSTANAG 4671で規定している。同じ「安全に飛行できるための条件」が加盟国によって違っていたら面倒だから、標準化仕様を定めたわけだ。

ただし軍用機が民間機と違うのは、民間機の立ち入りが禁じられた専用空域で飛ばす場合が多いこと。

民間機はさまざまなメーカーのさまざまな機体が同じ空域に共存するから、皆が同じ基準に則っていないと具合が悪い。しかし、特定の空域を占有して、民間機と共存しない場所で飛ぶ軍用UAVだと、必ずしもそうとはいえなくなる。

もちろん、安全な飛行ができない機体では困るから、安全に飛行するための要件は定めて、それに適合していることは確認する。ただし、その要件がNATOの標準化仕様であるべきかどうかは場合による、ということになる。

そのため、NATO諸国で使用しているUAVがすべてSTANAG 4671に適合しているかというと、そういうわけでもないようだ。

だからこそ、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社がイギリスから受注しているプレデターBの派生モデルには、わざわざCPB(Certified Predator B)、つまり「耐空性要件を満たして認証を得たプレデターB」という名前が付いている。

ちなみに、このCPB、イギリス軍における公式名称は「プロテクターRG.1」となるそうだ。Rは偵察機、Gは攻撃機、1はMk.1(最初のモデル)を意味する。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。