今回のお題は陸戦用の暗視装置。陸戦用の場合、搭載するプラットフォームの幅が広いことと、ターゲティング(目標指示)よりも純然たる暗視用が多いところに特徴がある。

車両の暗視装置

戦車をはじめとする装甲戦闘車両では、暗視装置は必須のものとなっている。大きく分けると、「交戦相手を探して狙いをつけるための暗視装置」と「操縦手が視界を確保するための暗視装置」がある。後者は特にDVE(Driver's Vision Enhancer)、つまり「操縦手のための視界増強装置」と呼ぶことがある。

われわれがクルマを運転する時は、暗くなったら前照灯を点灯する。しかし、戦闘場面でそんなことをやったら闇夜に提灯、自分の存在を敵味方の双方に広告するようなもので、敵弾が集中的に飛来するのは目に見えている。

だから、前照灯に頼らずに夜間走行する必要があり、そこでDVEの必要性が生じる。交戦の際に敵を探す場面でも事情は同じで、探照灯で照らす方法は問題外。かといって、照明弾を撃つ方法では使える時間に限りがあり、連続的に照らし続けるには次々に照明弾を撃ち込む必要がある。

照明弾は、燃焼剤を燃やして明かりを生み出せるようにした弾を上空から降らせるものだが、パラシュートで減速するといっても、そう長いこと使えるわけではないからだ。

自ら赤外線を放射するアクティブ式暗視装置では、これまた「闇夜に提灯」になってしまうから、パッシブ式でなければならない。

よって、暗視装置の主流は画像赤外線センサーということになる。赤外線映像は赤外線の強弱だけで映像を生成するので、必然的にモノクロになってしまう。また、波長の関係で可視光線より映像が粗くなるのは致し方ない。それでも近年、画質は良くなってきているようだ。

昼間でも、霧や靄、あるいは交戦によって発生する煙など、視界を妨げる要因はいろいろあるから、そういう場面でも赤外線暗視装置は役に立つ。

なお、車両が装備する交戦用の暗視装置では、レーザー測遠機もワンセットになる。砲や機関銃を撃つために、目標までの距離を知る必要があるからだ。実際の操作手順は、「暗視装置の映像を見て目標を捜索」→「交戦の対象を選択・指定」→「レーザー測遠機で距離を測る」→「目標の距離と方位に関する情報を射撃統制装置に入力」→「発射」といった按配になる。

部外者はついつい忘れてしまう話だが、銃砲の弾にはそれ自身の質量があるので、飛翔しているうちに引力によって少しずつ落下する。つまり遠距離になるほど照準点より下に着弾するので、それを考慮に入れて狙いをつけるために距離のデータが不可欠になる理屈。

交戦対象を指定する際、タッチスクリーン式ディスプレイを使用する車両があるそうだが、揺れる車内で間違いなく指示できるんだろうか、と素人目には心配になってしまう。実際のところはどうなんだろう。

個人が装備する暗視装置

海や空と違い、陸上における最小の戦闘単位は個人(歩兵)である。だから、個人で装着できるような暗視装置も必要になる。

普通、掌に載るぐらいのサイズにまとめた単眼式、あるいは双眼式の暗視装置を目の前に来る位置に据えるのだが、何か固定する手段が必要になるので、ヘルメットに取り付ける。これを通常は、暗視ゴーグル(NVG : Night Vision Goggle)と呼んでいる。この分野では、パッシブ赤外線暗視装置ではなく、光増式暗視装置を使うことが多い。

つまり、微弱な光を取り入れて、それを電気回路で増幅して、接眼部の側にあるディスプレイに表示する。まがりなりにも可視光線ではあるが、普通に明るいところで肉眼を使ってみるのと同じ使い勝手、というわけにはいかないようだ。距離感を掴むのに慣れがいるという話も耳にする。

NVGをヘルメットに固定すれば両手が空くので、武器を持ったり操作したりするのに支障はなくなる。いちいち片手あるいは両手で暗視装置を持たなければならないのでは、仕事にならない。

NVGは歩兵の専売特許というわけではなく、航空機の搭乗員も使用することがある。例えば、米空軍の救難ヘリコプターは夜間任務の際、搭乗員全員がNVGを装着する。機体に取り付けた赤外線センサーでは1度に1つの方向しか見られないが、複数の搭乗員がNVGを装着して、周囲を分担して監視すれば、1度に全周を監視できる利点がある。

小銃や機関銃に取り付ける暗視装置

メカとしてはNVGと似ているが、ヘルメットに取り付ける代わりに、小銃や機関銃に暗視装置を取り付ける事例もある。この場合、照準の機能も兼ねることになる。

最近の新たなトレンドとして、NVGみたいな光増式暗視装置だけに頼らず、赤外線センサーと光増式暗視装置を組み合わせる製品が出てきた。ただし、センサーが2種類あるからといって、接眼部を別々に用意するのでは煩雑すぎて使い物にならない。

よって、光増式暗視装置の映像と赤外線センサーの映像を両方とも、いったんデジタル化した上で、コンピュータ処理によって合成する方法がとられる。実際に接眼部をのぞいた時に表示されるのは、その合成映像のほうだ。こうなると、映像データのデジタル化とコンピュータ処理は不可欠の要素になるので、「軍事とIT」らしい話になる。

米陸軍が開発を進めている、ENVG III(Enhanced Night Vision Goggle III)とFWS-I(Family of Weapon Sight - Individual)の組み合わせ。ヘルメットに取り付けた暗視装置の映像を基に目標を捕捉して、そのデータを、ライフルに取り付けた照準器に無線で送る仕組み Photo:US Army

携帯式レーザー目標指示器

個人携帯する機器といえば、戦闘機などが搭載する目標指示ポッド(ターゲティング・ポッド)と同じ機能を、携帯式の機材にしたものがある。

つまり、目標を捜索・照準するための電子光学センサーや赤外線センサー、目標までの距離を測るためのレーザー測遠機、ミサイルや爆弾を誘導するためのレーザー照射を行うレーザー目標指示器、これらを1つの箱の中に押し込めたものだ。

地上にいる歩兵、あるいは前線航空統制官(FAC : Forward Air Controller)や統合端末攻撃統制官(JTAC : Joint Terminal Attack Controller)が、これを使って目標を確認した上で、レーザー照射する。そして上空にいる戦闘機や爆撃機に無線で連絡して、レーザー誘導のミサイルや爆弾を投下してもらう。

さらにGPS(Global Positioning System)の受信機を内蔵すると、目標の緯度・経度を計算できる。目標指示器の位置はGPS受信機から直接得られるが、そこから目標を捕捉・測距すれば、目標の方位と距離も割り出せる。すると間接的に、目標の緯度・経度も計算できる理屈になる。もっとも、実際には上下方向の角度も計算に入れる必要があるから、その分だけ計算は複雑になる。

緯度・経度の算出が必要になるのは、緯度・経度のデータを入力して投下するGPS誘導の爆弾やミサイルや地対地ロケットや誘導砲弾が増えてきたため。この場合、上空の戦闘機や爆撃機、あるいは砲兵隊には、緯度・経度の情報を送ればいい。口頭で伝達すると間違いの元だから、データ通信機能を持たせることができれば、なおよい。