最近、新たな弾道ミサイル防衛(BMD : Ballistic Missile Defense)のための資産として名前が急浮上したのが、イージス・アショア(Aegis Ashore)である。英語の頭文字略語では「 AAMDS(Aegis Ashore Missile Defense System)」というが、このうち「アショア」は「ashore」つまり「陸上配備型」という意味になる。

イージス・アショアについては、本連載の第11回でも取り上げているが、この時は「さわり」程度の内容で終わってしまったので、(多少、重複する部分もあるが)もう少し詳しく、特に「システム屋さんから見た利点」について、今回は説明したい。

イージス・アショアの成り立ち

すでに、海上自衛隊が配備しているイージス護衛艦はおなじみの存在である。元祖にして本家であるアメリカ海軍でも、日本に多数のイージス巡洋艦やイージス駆逐艦を前方展開させている。商船との衝突事故が相次いで、そのうち2隻が使えなくなってしまっているが……。

そのイージス艦が搭載するウェポン・システム(イージス戦闘システム, AEGIS Combat System)のうち、ミサイル防衛を含む対空戦闘を担当する部分を特に、イージス武器システム(AWS : Aegis Weapon System)という。そのイージス武器システムを構成する機材を抜き出して陸揚げして、専用の建屋に収容するのがイージス・アショアである。

つまり、イージス武器システムで使用しているレーダー、コンピュータ、そのコンピュータで動作するソフトウェア、ミサイルを保管・発射するMk.41垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)、目標データを受け取るための衛星通信機材、などといったものを陸揚げする。

イージス艦のイージス武器システムと違い、イージス・アショアは弾道ミサイルの迎撃に特化している。そのため、搭載するミサイルはRIM-161 SM-3だけだ。航空機や対艦ミサイルを迎え撃つためのRIM-67 SM-2は搭載しない。いわば、機能限定版だ。

洋上を自由に動き回るイージス艦の場合、どちらから脅威が飛来するかわからないから、全周をカバーするためにレーダーは4面構成で全周をカバーするようになっている。それに対して、陸上に固定設置する「不動産」であるイージス・アショアは、第11回でも書いたように2面だけで済ませている。

誰が発射元であれ、日本の脅威になりそうな弾道ミサイルは主として西方から飛来すると思われる。だから、もしも導入が決まって据え付けることになれば、イージス・アショアのレーダーも西方向きに設置することになると思われる。中心線が西北西あたりを向くように設置すれば、そこから左右90度ずつの範囲は監視できる。

すると、設置場所の西方に街があったり、人が住んでいたりするのでは具合がよろしくないので、西方が海に面した海岸沿いの山の上が適地であろうと考えられる。

イージス・アショアの建屋。まさに「陸に上がったイージス艦」という風体をしている Photo:US Navy

イージス・アショアのメリット

イージス艦と同じ機材を使用しており、弾道ミサイル迎撃の部分について言えば、機能も能力も同じである。ということは、使用するソフトウェアも同じである。

と書けば、もう1つの比較対象になったTHAAD(Terminal High-Altitude Area Defense)ミサイルと比較した場合の、イージス・アショアのメリットが見えてくる。

すでに海上自衛隊では弾道ミサイル防衛能力を備えたイージス艦を4隻運用しており、さらに2隻を改修するほか、2隻を新規建造する。そのうち後の4隻はイージス戦闘システムがベースライン9、イージスBMDが5.0で、これはイージス・アショアと基本的に同じである。

もし、将来的にイージス艦のイージス戦闘システム、あるいはイージスBMDのシステムを新しくすることになった場合、イージス・アショアも同じものを流用できる。ソフトウェアのバグ修正や機能追加についても同様だ。「槍」の役目を果たすSM-3も、イージス艦に搭載するのと同じものを追加調達すれば済む。

つまり、既存の運用・整備・保守の基盤やノウハウを活用できるし、要員の訓練も消耗品も共通化できる(多少の違いが生じても、共通する部分は多いはずだ)。つまり、経済的に配備・運用できる。しかも、イージスBMDはもともとミッドコース迎撃の手段だから、終末迎撃用のTHAADよりも広い範囲をカバーできる。

たとえていえば、同じマザーボードを使ってデスクトップPCと一体型PCを作り分けつつ、同じオペレーティング・システムやアプリケーション・ソフトを走らせるようなものだ。同じエンジンやプラットフォームを使ってセダンとステーションワゴンを作り分けるのと似ている、とも言えるかもしれない。

なお、固定設置するイージス・アショアは「不動産」だからTHAADのような機動性はないが、軍艦のように定期的にドック入りして整備する必要がないので、イージス艦と比べると可用性が高い利点もある。しかも戦闘システムのオペレーターと警備要員だけで済むから、人手の所要が少ない。

ところで、どんなハードなの?

ソフトウェアについて部外者が伺い知るのは無理な相談だが、ベースライン9のイージス戦闘システムとイージスBMD5.0について、ハードウェアの片鱗なら目にしたことがある。

特徴は、コンピュータ本体(CPS : Common Processing System)と、ディスプレイや入出力のためのコンソール(CDS : Common Display System)を分けたこと。

ベースライン7.1ではAN/UYQ-70という、一体型PCの親玉みたいなコンソールを使っていて(その実体はUNIXワークステーションである)、これがコンピュータ本体と入出力装置を兼ねる。それをネットワーク化して、複数のAN/UYQ-70で処理を分担していたわけだ。いわゆる分散処理環境である。

ベースライン9を構成するCPSとCDSの組み合わせも分散処理環境だが、コンピュータ本体と入出力装置が別々になったので、どちらか一方だけを更新するのは容易になったと思われる。

そして、イージス・アショアでも同じCPSとCDSの組み合わせを使う。たぶん、同じハードウェアをたくさん調達するほうが単価は安くなるし、スペアパーツや補修用パーツを共通にできるから、ライフサイクルコストの抑制にも効果がある。

イージス・アショアの管制室。並んでいるコンソールは、イージス艦のそれと同じもの Photo:DoD

まるっきり新規の装備になるTHAADでは、こういうメリットはない。その代わり、機動性があるので状況に応じた機動展開ができる利点はあるが。

ちなみに、イージス戦闘システムもTHAADもロッキード・マーティン社の製品である。