本連載は「軍事とIT」というタイトルだが、実質的にはIT(情報技術)というよりもICT(情報通信技術)にフォーカスしていると言える。実のところ、情報技術がこの業界に入り込んでくるよりも先に、まず通信のほうが先行していた。

電気通信とアンテナ

第2次世界大戦の頃に活躍した戦闘機のプラモデルを作った経験がある方ならご存じかと思うが、この頃の戦闘機は大抵、操縦席の後ろ辺りから柱を立てて、垂直尾翼に張線をつないでいる。

プラモデルでこれを再現しようとすると、部品を取り付けてある枠(ランナー)をローソクか何かであぶって溶かして、柔らかくなったところで引っ張って細く引き伸ばす、いわゆる伸ばしランナーを使う。

これが何のためにあるかというと、無線機のアンテナにするためだ。真空管しかなかった時代の話だから、国によって性能の優劣が激しく、時には「ガアガアうるさいばかりでよく聞こえない」なんてこともあったらしい。

その代わり、ちゃんと会話ができる無線機ができれば、複数の戦闘機が相互に連絡をとり、支援し合いながら交戦できるので、単機で戦うよりも有利である。何かまずいことがあった時に助けを呼ぶこともできるし、敵機を発見したらいち早く知らせることもできる。

操縦席から尾翼まで、何メートルもある張線を引っ張ってアンテナにしていたということは、当時の無線機が使用する周波数帯は相応に低い、言い換えれば波長が長い電波だったのだろうと推察できる。無線機に限らずレーダーも同じで、マイクロ波を使うレーダーを実現できた事例は多くなかった。

CHレーダーと巨大な鉄塔

だから、第2次世界大戦の初期にイギリス軍がCH(Chain Home)という対空警戒レーダー網を構築した時は、使用した電波の周波数帯は22.7~29.7MHz(波長は10~13.6m)と低いものだった。当然、その長い波長に見合ったサイズのアンテナ(空中線)が必要になるので、高さ110m間隔55mの鉄塔を建てて、その間に線を張ってアンテナを構成した。

こんなデカブツが出現すれば目につかないはずはなく、実際、ドイツ軍はレーダー施設の破壊を試みたという。しかし、精密誘導兵器など存在しない御時世の話だから、鉄塔に爆弾を直撃させて完璧に破壊するのは難しく、壊してもすぐに再建されてしまったという。

面白いのは、「鉄塔はスカスカで隙間が多かったから、近くに着弾しても爆風がすり抜けてしまい、なかなか破壊できなかった」という話。言われてみれば確かにその通りだが、意外と気付かない話である。

参考 : The Radar Pages http://www.radarpages.co.uk/ (左側の項目一覧にある「RAF radar」をクリックすると、CHを含む、イギリス軍のレーダーに関する解説ページに移動する。そちらでも左側に項目一覧がある)

対するドイツ軍も、イギリス空軍の夜間都市爆撃に対抗するためにレーダー網を構築して対空警戒を実施していたほか、レーダーを搭載した夜間戦闘機を飛ばしていた。CHほどではないが(そんな大きなレーダーは飛行機に載らない!)、ドイツ軍の機上レーダーも相応に大がかりな品物で、機首にかんざしみたいな格好でレーダー・アンテナを取り付ける仕儀となった。当然、その分だけ空気抵抗が増えて速度が落ちるのだが、敵が見えなければ話にならないのだから仕方ない。

参考 : FuG202 (Wikipedia) https://ja.wikipedia.org/wiki/FuG202

また、英独双方に言えることだが、地上の管制官が無線で上空の戦闘機に対して敵情を知らせたり、向かうべき方位や場所を指示したりしていた。つまり、まともな無線機がなければ防空戦を展開できないわけで、それを実現するにはやはりアンテナが不可欠になる。

軍事作戦と通信の関わりについて取り上げ始めると、それだけで本が1冊できてしまうが、戦史における重要な事例ということで、英独の話を書いてみた。

では、現代の状況は?

ここまでは第2次世界大戦の話だったが、50年以上前でもそんな状況だったのだから、現代はさらにすごいことになっている。もちろん、電子技術が飛躍的に発展したおかげで電子機器は小型になり、性能が上がり、信頼性が向上した。

アンテナも同様だが、なにしろ用途も種類も多様化している。だから、今時の軍用機も艦艇も、とにかくアンテナだらけである。外部に突出したアンテナだけでなく、埋め込み式にした、わかりにくい形のアンテナもいろいろある(特にステルス性の要求が増したことで、その傾向が強まっている)。

艦艇でも航空機でもそうだが、さまざまなアンテナを併用しなければならなくなったため、干渉が生じないように配慮する必要が生じた。ことに艦艇の場合、レーダーのアンテナは捜索範囲を広くとるために、できるだけ高いところに設置したいという要求がある。また、衛星通信のアンテナは当然ながら、頭上が開けていなければ仕事にならない。

見晴らしのいい場所、高い場所の奪い合いが生じる一方で、それぞれが送信したり受信したりする電波が干渉しないようにしなければならないのだから、ことに艦艇のマストとアンテナ配置に関する設計は、かなり頭の痛い作業である。

海上自衛隊の護衛艦「てるづき」。平面型アンテナ、ドームに収められた衛星通信アンテナ、棒状のアンテナなど、まるでアンテナ展覧会のごとき様相を呈している

詳しい各論は次回以降に取り上げていくことにして、アンテナを使用するデバイスとしてどんなものがあるかを、簡単にまとめておこう。

通信機

最も古くからある用途。昔は地上波の通信だけだったが、近年では衛星通信のニーズが増えており、特に艦艇は上を向いた衛星通信用アンテナのドームが増える一方だ。衛星通信は電離層を突破できる、比較的高い周波数の電波を使用するから、アンテナはあまり大がかりにならない。

レーダー

通信機の次ぐらいに古くからある用途。初期のレーダーは送信用のアンテナと受信用のアンテナを別々に持っていたが、今は一体である。連続波ではなくパルス波を発信して、「送信-聞き耳-送信-聞き耳……」と繰り返せば、1つのアンテナで送信と受信を兼用できる。

電子戦(ESM : Electronic Support Measures)

レーダーが出現したことで必要になった用途。敵軍が使用するレーダー電波を受信・解析して、妨害のために必要な情報を得るために使用する。また、敵軍のレーダーの存在を嗅ぎつけることで警戒態勢をとったり、レーダー電波の飛来方向に基づいて敵軍の所在を知る一助にしたり、といった使い方もある。

電子戦(ECM : Electronic Countermeasures)

ESMによって得たデータに基づいて、敵軍のレーダーを妨害して、機能低下、あわよくば無力化にまで至らせようというもの。