前回は飛行機の電子戦関連機材をいろいろ紹介したが、今回は艦艇である。「警報」と「妨害」の機材で成り立っているのは、前回に取り上げた航空機の場合と同じである。

海上自衛隊の巻

まず、海上自衛隊のフネから。艦艇の場合、基本的にECM(Electronic Countermeasures)とESM(Electronic Support Measures)の二本立てだが、海自の水上戦闘艦ではさらに、ESMアンテナを指向性と無指向性の二本立てにしている艦がある。

イージス護衛艦「きりしま」のマスト上部。リング状に四角いアンテナを並べているのが敵味方識別装置(IFF : Identification Friend or Foe)で、その上に突き出ているスプレー缶みたいな物体がESMの受信用アンテナ。IFFはレーダーのアンテナと一体化して、一緒にグルグル回すことが多いが、固定式のアンテナを使うイージス艦は事情が違う

イージス護衛艦「きりしま」の右舷艦橋ウィング。白いドームは衛星通信アンテナで、中央やや右手上方にある、四角い突出物がいくつも付いている多面体の箱がNOLQ-2電子戦装置

護衛艦「てるづき」のNOLQ-3D電子戦装置。NOLQ-2と同様にECMを担当する機材だが、外見には違いがある。海自の護衛艦はたいてい、艦橋上部の両側面に電子戦装置を載せている

米海軍の巻

海上自衛隊では国内開発の機材を多用しているが、米海軍は米海軍で自国製の機材を使っている。だから、相互運用性を重視する同盟国のフネ同士であっても、同じ用途に対して日米で使っている機材はだいぶ違う(もちろん、機能的には共通しているが)。

米海軍の水上戦闘艦で標準的に使われているAN/SLQ-32電子戦装置。ESM専用のモデルとESM/ECM兼用のモデルがあり、お値段が高いフネは後者を使う。現在、改良型を開発するSEWIP(Surface Electronic Warfare Improvement Program)なる計画が進行中

Mk.137チャフ発射機。チャフを入れたカートリッジを撃ち出す、一種の臼砲。発射機ひとつに6発のチャフ・カートリッジを装填でき、できるだけ広い範囲をカバーできるように、少しずつ向きを違えてある。海自でもアメリカから輸入して使っているが、搭載している発射機の数は米艦の方が多い傾向があるようだ。撃った後は手作業で砲口側から新しいカートリッジを装填する

イージス駆逐艦「マッキャンベル」のマスト。リング状のIFFアンテナを使っているところは海自のイージス艦と同じ… というと逆で、米艦をモデルにした海自の艦も右へならえをしたというべきか。その中にあるアンテナ・ドームはヘリコプター用データリンクのもので、海自みたいにESMを置いているわけではない。この辺に設計思想の違いが出ている

ヌルカの発射機。空中浮遊して対艦ミサイル用に贋目標を作り出す囮を、上方に向けて撃ち出す仕組み。BAEシステムズ・オーストラリア社が開発した製品で、アメリカ・カナダ・オーストラリアで使っている

設置場所の奪い合い

艦艇の場合、レーダーも電子戦装置も通信も、とにかくアンテナを使用するものはマストや上部構造物の上に設置して、ちゃんと開けた視界を確保しておく必要がある。

ところが、載せたいものは多いし、視界を広くとることを考えると、できるだけ高いところに設置したいのはいずれも同じ。しかも電波干渉が発生するようなことになっても困る。

そのため、場所の奪い合いは熾烈だ。その結果なのか何なのか、海自のヘリコプター護衛艦「いずも」では、電子戦装置の設置位置が左右で甲板一層分ずれている。普通は右舷・左舷とも同じ高さに設置するものなので、これは珍しい。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。