これまで電子戦というテーマについていろいろと書いてきたが、比較的、一般には馴染みの薄い分野なので、なんとなくピンと来ない部分があるかも知れない。そこで趣向を変えて、現物の写真を蔵出ししてみようと思う。今回は、9月の横田基地一般公開の際に撮り集めてきた、航空機搭載用の電子戦関連デバイスをいろいろと

C-130輸送機

横田の主・第374空輸航空団に所属するC-130輸送機。輸送機といえども戦地で輸送任務に就くことはあり、そうなると地対空ミサイルが飛んでくる心配ぐらいはしなければならない。そこで、脅威の探知や対策を行うための機材がいろいろと取り付けられている。

C-130の尾部に取り付けられたセンサー群。小窓が付いているのがミサイル接近警報装置で、窓がないのはレーダー警報受信機 (RWR : Radar Warning Receiver) だろう

胴体側面に取り付けられたIRCM(Infrared Countermeasures)機材。ちょっと見づらいかも知れないが、レーザーで眼を痛めないように警告表示がなされている。つまり飛来するミサイルの赤外線シーカーにレーザーを浴びせて妨害する機材だ、という判断ができる

F-16戦闘機

三沢基地から飛来した、第35戦闘航空団所属のF-16C。この部隊は敵防空網制圧(SEAD : Suppression Enemy Air Defense)が任務の一つに挙げられているので、そのための機材が登場する。

空気取入口左側面に取り付けられた、AN/ASQ-213 HTS(HARM Targeting System)のポッド。敵のレーダー電波を受信・解析して、後述するHARMに目標を指示するための材料を得るための機材

AGM-88 HARM (High-speed Anti Radiation Missile) 対レーダーミサイル。レーダー電波の発信源に向けて飛んでいくミサイルで、敵はレーダーを作動させていればこれが飛来して破壊されるし、レーダーを停止させれば自軍のミサイルや対空砲の使用に差し支える、という二者択一を強いられる。攻撃側から見れば、どちらにしても防空網を黙らせる効果を期待できる

E-3空中警戒管制機

いわゆるAWACS(Airborne Warning And Control System)機。背中に背負ったレーダーが主役だが、追加の探知手段も持っている。

胴体側面に張り出したESM(Electronic Support Measures)装置・AN/AYR-1のアンテナ・フェアリング。敵が発したレーダーなどの電波を逆探知して、探知・識別の一助とする

エンジンを吊すパイロンの後部には、IRCM機材が取り付けられている。通常は高空を飛行しているが、離着陸などの際には低空に降りるので、やはり「ミサイル避け」の道具は必要だ

EA-6B電子戦機

電子戦といえばこれである。米海軍では後継のEA-18Gに置き換えられたが、海兵隊ではまだ現役だ。受信・解析用の機材は違うが、妨害に使う機材はEA-6BもEA-18Gも同系列のAN/ALQ-99である。さすがにEA-18Gについては、新型のNGJ(Next Generation Jammer)をレイセオン社が開発しているところだが。

垂直尾翼の頂部に大型のアンテナ・フェアリングを備えるほか、両側面にも2基ずつのアンテナ・フェアリングがある。これらは電波の受信・解析・識別に使用する

妨害に使用するAN/ALQ-99電子戦装置はポッド式で、このように胴体や主翼の下面に設けた兵装パイロンに懸吊する。上部に電子機器が収まっているため、両側面に放熱板がある。送信用のアンテナは下部の膨らんだ部分の中。前部に取り付けられたプロペラはRAT(Ram Air Turbine)といって、発電に使う

HH-60G救難ヘリ

救難ヘリといえども、コンバット・レスキュー、つまり敵地で撃墜された友軍機の搭乗員を救出しに行く場面があり得るので、身を護るための装備は充実している。ヘリは低空を飛行するので、赤外線誘導される携帯式地対空ミサイルの脅威は深刻だ。

というわけで、HH-60Gの両側面には4基ずつ、チャフ(これはレーダー向けに贋目標を作るのに使う)やフレア(これは赤外線誘導ミサイル向けに贋目標を作るのに使う)を散布するためのディスペンサーを備えている(右のディスペンサーには「CHAFF ONLY」との記述がある)。戦闘機と違い、速度が遅いヘリコプターでは外見を滑らかに整えることより手軽さを重視して、ボックスをいきなり外付けしている

設置場所の奪い合い

航空機の電子戦装置とは要するに、自機に向かって飛んでくる対空砲やミサイルを回避するためのものである。脅威はどちら側に存在するか分からないが、回避のときには脅威は後側に来るだろう(飛来するミサイルに向かってわざわざ接近していく物好きはいない)。

だから、「○○警報受信機」の類は機首や尾部の両側面、あるいは翼端にセンサーを取り付けて全周をカバーできるようにしているし、妨害装置は後ろ向きに取り付けるのが一般的だ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。