投稿・アクセス数の伸びに広告がついていかない「YouTube」

前回まで、米国の新聞産業の苦境についてレポートしてきた。しかし、不況の波は、ネットビジネスやメディア複合産業体(メディア・コングロマリット)をも襲っている。

4月3日のSilicon Alley Insiderは以下のようなGoogleの売上高のチャートを掲載して、2009年3月期までは売り上げが鈍化するとの見通しを示している。

Googleの売上高伸び率推移(出典:Silicon Alley Insider)

気を付けなくてはいけないのは、下がっているのは「伸び率」であって、底と見られる2009年3月でも、前年比4.8%のプラスとみている点だ。とはいえ、前年比50~100%で伸び続けてきたインターネットビジネスに従来の勢いがなく、陰りが見えてきたことは事実。

しかしGoogleにとって、それ以上に頭の痛いのはYouTubeの不振かもしれない。正確には"不振"とは言えない。投稿数・アクセス数とも素晴らしい勢いで伸びているのだから。問題は、サイトの活況に比例して広告売上が伸びてゆかないことだ。

Multichannel.comによると、Credit Suisse(クレディ・スイス)は、YouTubeの2009年の赤字が4億7,000万ドルに達するとみている。

これを受け、4月6日の「メディア・パブ」は、こう伝えている。

YouTubeは、全米のビデオストリーム市場の41%を占めており、オンラインのビデオ配信サービスでは完全に独走している。さらに2009年に配信するビデオストリーム数が750億本と、前年比38%増の勢いで伸び続けてゆくという。ユニークビジター数も3億7,500万人に達する見込み。このような膨大なトラフィックをさばいていくとなると、経費もうなぎ上がりに増えていくはず。通信料・コンテンツのライセンス料・膨大なビデオを蓄えるためのストレージ経費・営業経費がかさみ、今年の総経費は7億1,100万ドル。これに対し売り上げは2億4,000万ドルである。前年比20%増だが結局、2009年は4億7,000万ドルの赤字を計上することになる

今春、Googleは創業以来初めて、従業員200人のレイオフを行うと発表した。

ディズニーやタイム・ワーナーにも「メディア不況」の波

一方、メディア・コングロマリットにも不況の波が押し寄せている。

2009年4月4日のロスアンゼルス・タイムズの経済面はディズニーの苦境を、こんな風に伝えている。

不況はテーマパークを直撃している。人々は(金のかかる)テーマパークから地域の公共パークへ移動してしまった

この結果、ディズニーランドは、フロリダ州とカリフォルニア州の二つの施設で働く従業員、8万人のうち2%に当たる1,900人をすでにレイオフ、さらに1,700人分のカットを検討しているという。

ディズニーランドは、フロリダ州とカリフォルニア州の二つの施設で働く従業員、8万人のうち2%に当たる1,900人をすでにレイオフした(出典:ロスアンゼルス・タイムズ)

メディア・コングロマリットの一つ、タイム・ワーナーは、すでにインターネット、ポータルサイトのAOLのスピンオフ(切り離し)の検討に入ったと伝えられている。

当コラムの第6回でも紹介したように、テレビ、映画製作、配給会社、有線ネットワーク、出版、テーマパーク――などさまざまなメディアとエンターテイメントビジネスを複合的に子会社化し、そのメディア・コンテンツを有機的に結び付け最大限のシナジー効果を得るところに、メディア・コングロマリットの強みがあった。この流れが反転し始めたのだろうか。

「ただ乗り論」の再燃と「Twitter」の躍進

新聞、テレビの伝統メディアの売り上げが下がり続け、ネットメディアにも元気がない。新旧メディアに流通ビジネスを複合したメディア・コングロマリットでは、子会社の選択的分離の動きが出始めた。ここから今、二つの議論が生まれている。

一つが、"改めて"と言うか、Googleなどインターネット情報プラットフォームが、伝統メディアの情報を、"ただで"使っていることへの批判。第二が、「Google」に代わる成長のツールはないのかというニュー・ビジネスモデルへの模索である。

第一の議論はニューズ・コーポレーションを率いるルパート・マードック氏が口火を切り、加盟社減に悩むAPが乗った。第二の流れは、短信メールサイトと言うべきか、「Twitter」の躍進である。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。