米国航空宇宙局(NASA)は1月5日(日本時間)、月・惑星探査計画「ディスカヴァリー計画」において、次に実施するミッションとして、木星トロヤ群小惑星を探査する「ルーシー」と、小惑星帯にある鉄やニッケルでできたM型小惑星「プシューケー」を探査する「サイキ」の2つを選定した、と発表した。

ルーシーは2021年10月に打ち上げ予定で、2027年に木星トロヤ群に到着。約6年かけて6つの小惑星に接近して探査する。一方のサイキは2023年10月に打ち上げ予定で、2030年にプシューケーに到着。周回軌道に入って探査を行う。

木星トロヤ群小惑星も、M型小惑星も、これまで地上や宇宙から望遠鏡で観測されたことしかなく、探査機が訪れて探査をするのは初めてとなる。この人類未踏の地に挑むのはどんな探査機なのか、またこれらの天体を探査する意義は何なのだろうか。

第1回では、木星トロヤ群小惑星を探査する「ルーシー」について紹介した。第2回では金属質の小惑星「プシューケー」の探査を目指す「サイキ」について紹介したい[注1]。

探査機「サイキ」の想像図 (C) NASA

プシューケーの想像図 (C) Peter Rubin/ASU

もうひとつの人類未踏の世界、金属質の小惑星

小惑星とは文字どおり「小さな惑星」で、今から46億年前に太陽系が誕生したころに、地球や火星といった大きな惑星になりきれなかったものや、あるいはいったん惑星サイズまで成長しそうだったものの、衝突などで破壊されて砕けた欠片が現在まで残り、太陽のまわりを回り続けているものと考えられている。たとえるなら惑星の原材料であり、また原材料のまま現代まで残る「太陽系の化石」でもある。

その最初のひとつは1801年に発見され、以来望遠鏡の進化とともに、現在までに約60万個もの小惑星が見つかっている。

これまでに見つかっている小惑星の多くは、火星と木星との間にある小惑星帯(メイン・ベルト)と呼ばれる部分に分布している。なぜここに小惑星帯があるのかははっきりしていないが、実は惑星になりそうだったものの、木星の強力な重力の影響などで乱され、惑星になれず小惑星のまま残っているからでは、という説がある。

小惑星にはほかにも、第1回で紹介した「ルーシー」が向かう木星トロヤ群小惑星のように、木星などの惑星の公転軌道に乗っているものや、何年かごとに地球に接近するような軌道に乗っているものもある。後者は「地球近傍小惑星」と呼ばれ、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が探査した「イトカワ」や、現在「はやぶさ2」が目指している「リュウグウ」といった小惑星などが、この地球近傍小惑星のひとつである。

また、小惑星はどういう物質で形作られているかによっても、さまざまな種類に分けられる。

たとえば「はやぶさ」が探査した小惑星「イトカワ」は、簡単に言えば岩石が飛んでいるようなものであることから、岩石質(Stony)、もしくはケイ素質(Silicaceous)の英語の頭文字を取って「S型小惑星」と呼ばれている。

一方、現在「はやぶさ2」が目指している「リュウグウ」は、岩石の中に有機物(炭素を含む化合物)や水を多く含む炭素質の小惑星と考えられており、炭素質を意味するCarbonaceousから、「C型小惑星」と呼ばれている。第1回で紹介した「ルーシー」が向かう木星トロヤ群には、このC型小惑星や、またC型よりさらに原始的な小惑星と考えられているD型やP型に分類されている小惑星がある。

小惑星探査機「はやぶさ」が探査した「イトカワ」は、岩石質、ケイ素質の「S型小惑星」 (C) JAXA

だが、サイキが目指す「プシューケー」はそのどれとも異なる、「M型」に分類される小惑星である。

Mとは金属質を意味するMetallicの頭文字から取られており、文字どおり鉄やニッケルといった金属でできていると考えられる。たとえば水星や地球、火星のど真ん中にある「中心核」(コア)は金属でできていると言われているが、M型小惑星はその原料になった、あるいはなりきれずに現在まで残っているものだと考えられる。

また、地球にはたびたび鉄の隕石、いわゆる「隕鉄」が落ち、かつては神聖視され日本刀に加工されるなどしているが、こうした隕鉄は、M型小惑星がほかの小さな天体などとぶつかり、飛び散った破片が地球に落ちてきたものなのでは、と考えられている。

M型小惑星は、現在の惑星のもとになった原始惑星の、金属中心核が残ったものと考えられている (C) ASU

プシューケーは原始惑星のコアがむき出しになっている?

しかし、プシューケーをはじめ、M型と考えられる小惑星はいくつか見つかっているものの、たとえば内部がどのようになっているのか、どんな金属がどのくらい含まれているのかといった詳しいことはわかっていない。

というのも、これまで地上や宇宙から望遠鏡やレーダーで観測されたのみで、探査機が直接訪れ、つぶさに探査したことがないためである。

厳密には、2010年に彗星探査機「ロゼッタ」が、M型小惑星のひとつである「ルテティア」の近くを通過した際に観測したことはある。しかし、このときの最接近距離は約3000kmも離れており、そこからカメラで観測しただけの、一度きりのものだった(もちろんそれでも十分貴重な観測だった)。一方、サイキはプシューケーの周囲を回りながら長期にわたって観測し続けるため、人類は初めて、M型小惑星の姿を、じっくりゆっくり、詳細に調べることができる。

また、ルテティアは一見するとC型のようにも見える小惑星で、金属質の表面ではなく、金属を含んだ岩石とおそらく内部に金属の中心核をもつM型小惑星だった。一方プシューケーは、地上からの観測では、表面に鉄やニッケルが露出し、太陽光を反射してギラギラしている、文字どおり金属質なM型小惑星であると考えられている。

2010年に彗星探査機「ロゼッタ」が観測したM型小惑星のひとつ「ルテティア」。その表面は金属質というよりは、岩石のように見える (C) ESA 2010 MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/RSSD/INTA/UPM/DASP/IDA

プシューケーは1852年にイタリアの天文学者アンニーバレ・デ・ガスパリスによって発見され、ギリシア神話に登場する女神プシューケーにちなんで命名された。直径は210kmほどと見積もられており、小惑星としては比較的大きなサイズであり、かつて惑星のもとになった原始惑星の、中心核がむき出しになって残っているものなのでは、と考えられている。

また最近の観測では、表面の90%が金属で、純度は高く、さらに表面に水、もしくは水酸化物イオンが存在することを示すデータもあり、過去に水をもったC型小惑星がぶつかるなどして届けられたのではと考えられているという。

プシューケーの想像図。表面の大部分が金属の小惑星だと考えられている (C) Peter Rubin/ASU

地球からの観測をもとに作成されたプシューケーのモデル (C) Astronomical Institute of the Charles University, Josef Durech, Vojtech Sidorin

サイキ

サイキの打ち上げは2023年10月の予定で、2024年に地球を、2025年には火星をスイング・バイして加速し、2030年にプシューケーに到着する。飛行距離はルーシーのほうが長いものの、ルーシーとは違い、サイキは航行に電気推進を使うことや、フライバイ観測ではなくプシューケーの周回軌道に入るため相対速度を合わせる必要があることなどから、到着までの時間は大して変わらない。

探査期間は1年の予定で、到着の100日前から、機器の調整もかねて観測を始め、プシューケーの自転の向きや周期などを調べる。到着後はまず高度700kmあたりの軌道に入り、40日ほどかけて形や色、磁場や重力の様子を調べる。続いて高度300kmほどの軌道に移り、50日をかけてより詳細に観測するとともに地形図を作成。続いて高度200kmほどの軌道に移って、100日かけてさらに詳細な観測を行い、クレーターの年代を求めたり、中性子を使って組成を調べたりする。

そして最後の70日間は高度75km前後の軌道に入り、ガンマ線と中性子分光計を使って表面がどのような物質で構成されているのかを詳しく調べ、また地表に近付くことから、高解像度の画像の撮影や、重力や磁場のより詳細な観測も行う。

サイキの主任研究員を務めるLindy Elkins-Tanton氏は、「これは岩でも氷でもない、金属でできた、新たなタイプの天体を探査する絶好の機会です。プシューケーは、これまでに発見された太陽系の小惑星のなかで唯一、金属質の表面をもっており、そして人類が惑星の中心核を訪れることのできる唯一の方法でもあります。私たちは宇宙(outer space)を訪れることで、惑星の内部(inner space)を学ぶことができるのです」と語る。

サイキの想像図 (C) NASA

サイキに搭載される予定のカメラ (C) NASA

【脚注】

注1: ちなみにサイキもプシューケーもラテン文字の綴りは「Psyche」で、小惑星Psycheに行く探査機Psycheという、少しややこしい状態になっている。同じカタカナ表記ではどちらのことを指しているのはわかりづらいため、本稿では探査機の名前は英語読みの「サイキ」、小惑星のことを指す場合はギリシア語読みの「プシューケー」と表記する。

【参考】

・NASA Selects Two Missions to Explore the Early Solar System | NASA
 https://www.nasa.gov/press-release/nasa-selects-two-missions-to-explore-the-early-solar-system
・ASU to lead NASA space exploration mission for 1st time | ASU Now: Access, Excellence, Impact
 https://asunow.asu.edu/20170104-discoveries-asu-lead-nasa-space-exploration-mission-1st-time
・Psyche: Journey to a Metal World | School of Earth and Space Exploration  https://sese.asu.edu/research/psyche
・Mission to a Metallic World: A Discovery Proposal to Fly to the Asteroid Psyche | The Planetary Society
 http://www.planetary.org/blogs/guest-blogs/van-kane/20140219-mission-to-a-metallic-world.html
・Lucy and Psyche Asteroid Missions | The Planetary Society
 http://www.planetary.org/blogs/guest-blogs/van-kane/20170109-lucy-and-psyche-asteroid-missions.html