前回は最後に、つみたてNISAとiDeCoの税制優遇の意味合いを比較しました。特に、誰でも「必ず得をする」とも言えるiDeCoの掛金全額所得控除は、つみたてNISAには無いメリットです。でも、誰もが皆、iDeCoを選ぶわけではありません。税制優遇の違いは制度選択の決め手にはならないのでしょうか? 今回は税制の比較をもう少し深掘りしてみます。

まずは前回のおさらいと今回ご説明したい内容も含めて表にまとめてみました。以下、ご覧ください。

■税制優遇比較/つみたてNISA vs iDeCo

つみたてNISA
積立時:(T)-
運用時:(E)運用益非課税
受取時:(E)-

iDeCo
積立時:(E)全額所得控除
運用時:(E) 運用益非課税
受取時:(T) 公的年金等控除、退職所得控除

TとかEとか、何のことか分からないかもしれませんが、税制の観点から分類すると、つみたてNISAは「TEE型」、iDeCoは「EET型」になります。TはTaxedの頭文字で課税という意味、EはExemptで非課税を表しています。

例えば、勤め先からの給料は所得税や住民税を差し引かれた後の金額を受け取ります。ですから、給料を生活費に充てるにせよ、貯蓄に回すにせよ、課税された後のお金になります。つみたてNISAで積み立てるお金も同じですから、積立時は課税のTになるのです。そして、運用益が非課税で売却したら丸々受け取れるので、運用時と受取時は非課税のE、あわせて「TEE型」というわけです。

一方、税額の計算では、所得からiDeCoで積み立てた金額を差し引いてから、税率をかけることになります。つまり、iDeCoでは課税される前、非課税でお金を積み立てることになるのでEなのです。そして、運用時も非課税でEですが、受取時は課税でTになります。公的年金等控除や退職所得控除は税負担を減らす仕組みですが、結果的に税額がゼロになることはあっても、常に非課税ではないからです。だから、iDeCoは「EET型」になるのです。

以上のように分類すると、iDeCoの税制優遇の本質とは、課税の繰り延べであることが分かるでしょう。今、「必ず得をする」代わりに将来、「課税される」ということです。つまり、「TEE型」でも「EET型」でも、所得はいずれかのタイミングで課税されることになりますので、生涯というスパンでは税負担はあまり変わらない、とも言えるのです。

もちろん、今と将来を天秤にかければ、「今でしょ!」と考える人もいるでしょうし、現状では退職所得となるiDeCo一時金の税制メリットが大きいのも事実です。でも後者は、その優遇措置にメスが入る可能性(※)も出てきましたので、少なくとも、税制優遇だけが制度選択の唯一の理由とは言えなさそうですね。次回は税制以外の観点で比較してみます。

※(参考)自由民衆党・公明党『令和3年度税制改正大綱』(令和2年12月10日)、P.17「……給付段階の課税について、給付が一時金払いか年金払いかによって税制上の取扱いが異なり、給付のあり方が中立でない……といった指摘がある。……給与・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスを踏まえた姿とする必要がある。」