春が近付いてくると、新社会人の話題やニュースをたくさん聞くようになりますが、佐々木さんが新人だった頃は何年前ですか?

佐々木 12年くらい前でしょうか。その頃ちょうど、Windows 98が話題になっていたような記憶がおぼろげにあります。

僕は博士号を取る前に、大学の職員として、学生指導から受験監督や掃除までこなしていた時期があるのですが、当時、急に書類が増えてその1つ1つに責任がついてきて、「プチ情報爆発」に困ったものです。そこで今日は新社会人、あるいは新たな気持ちで春を迎える人に贈るライフハックの基本というテーマでいきたいと思います。

佐々木 そうした「プチ情報爆発」で困った時、まず先にしなければいけないことは何でしょう?

本当かどうか知らないのですが、Googleに入社した人は初めてメールソフトを開いた瞬間に数千通のメールが待っているという逸話を聞いたことがあります。新人に対する情報の洗礼というやつですね(笑)。ということで、最初に慣れないといけないのは、情報量に負けないメール操作ではないでしょうか。

佐々木 確かに今の時代はメール操作能力が問われますよね。メール処理が少しでも速ければ、1ヵ月、1年の間に大きなアドバンテージとなると思います。速度だけでなく、いかにストレスなくメール運用ができるかということも、仕事を続けていく上で大事なスキルになるでしょう。

社内で使えるか使えないかは別として、Gmailの「忍者」になるためのヒント集が公開されていますので、こちらを見てメール術の達人を目指してください。次は何がありますか?

佐々木 個人的な話ですが、新入社員時代はあちらこちらの現地調査に行かなければならなかったので、あの頃にiPhoneを使えていたらさぞ重宝したと思います。非常に大きなサイズの地図を持って、右往左往していた記憶が鮮明にありますので。

普通の携帯電話でもいいのでしょうが、iPhoneやAndroid携帯みたいな情報端末からリアル近道だけでなく、「情報の近道」を作り出す訓練を4月から始められたら、確かに大きいですね。

佐々木 「情報の近道」として最も基本的なのは、やはりタスクと予定表の管理だと思います。学生時代はこれらを本格的には使わなかった人も多いでしょうが、iPhoneで管理すれば、効率的に問題なく使うことができますね。

そうですね。でもそうした情報端末をすぐに使いこなせなくても、最低限身につけてもらいたいのが「メモの習慣」じゃないでしょうか。例えば、情報カードを束にして持ち歩くだけのHipster PDAを作って、忘れる前にメモするだけでも、言われたことを頭で記憶している人に比べてすごく「できる」感が強いと思います。ゆくゆくはさらに成熟した手帳に移行するにしても、机、ポケット、カバンと、あらゆるところにメモを持ち歩くことから始めてもらいたいです。

佐々木 メモは非常に重要なので、今日の話のうち、ここだけを拾っていただいても、意義があると思います。あらゆるところにメモを置くあえて違うアプローチとして、モレスキンのような手帳にあらゆるメモを書き付けておくという方法もあります。新人時代は、捨てたメモのことで困ることが多いのです。私も経験があります。

付箋や紙片を使わず、モレスキンのような1冊の手帳を「メモ」としてそこに全部書いておくと、あとできっと救われることがあります。受動的にメモしていても、そういう経験が得られると思います。

最後に、これは万人向けではないと思うのですが、新人だからこそブログを書いてみるのはいかがでしょう? 実名でも、仮名でも、どちらでもいいのですが、とにかく自分なりの情報をアウトプットする場がある人は大きく成長する気がします。新たな環境や組織になじもうと必死かもしれませんが、1年後には「自分の言葉を持っている」人が最も注目されます。そうした訓練の場として、ブログは最適なのではないかと思うのです。

編集後記(堀 正岳)

1年近く続けてきた本対談ですが、今回でひとまず最終回となります。ライフハックというと「手軽なテクニック」ばかりかと思いきや、EvernoteからGoogle Waveの使い道を通した情報戦略、あるいは脳トレの話題から、習慣術などといった人生の改善方法まで、さまざまな深いテーマに触れることができたはずです。というのも、ライフハックは「人生」を「ハック」するものであって、便利さや人生の楽しみ方を求めている限り、次から次へと生まれてくるものだからです。今後も私たちのブログではこうしたテーマで記事を書いてゆく予定です。ぜひまたお会いしましょう。Happy Lifehacking!

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。ブログ「Lifehacking.jp」を主催