Evernoteについては以前も触れましたが、日本語対応の告知もあった影響でまた一段と注目が集まっていますね。

佐々木 そうですね。Evernoteは大変便利なツールですし、機能のブラッシュアップもどんどんされていますから、ずいぶん利用者が増えているのだと思います。堀さんは普段どのようにEvernoteをお使いですか?

僕はEvernoteを使って以来、ブックマークサービスを使うことがなくなりました。全部Evernoteでクリッピングしてあるからです。また、本業で利用するプログラムの断片から研究のネタ出しまで、すべてがEvernoteに入っていますので、これがなくては仕事になりません。それ以外にも、生後半年の娘の泣き声、飲んだワインの情報、ふと思いついたアイデア、いつか披露したいジョークまで、正に何でも入っていますね。

佐々木 分け隔てなく何でも入れてあるという点では私も似たようなものです。写真も入れられるし、音声ファイルも記録できるということで、メモしておきたいことをとっさに入れる先がEvernoteに限定されつつあります。Evernoteを使い始めて特に変わったのは、ローカルで大量の情報を軽快に扱えるので、「まとめて読み返す」という分類項目を作り出したところです。こういうことは、これまでの情報整理ツールではあまりやらなかったことでした。100個くらいの情報を全部ざっと読み返すという、ある意味では紙でしかやらなかったことを、Evernoteでは毎日のようにやっています。

情報をまとめるのにこれほど便利なツールはないですよね。でも、これは去年EvernoteのCEOのPhil Libin氏に教えてもらったのですが、Evernoteを使い始めたユーザーの半数は最初の1ヵ月で利用が止まってしまうのだそうです。

佐々木 それはとても意外な感じがします。ちょっと信じられませんね。

逆に、1ヵ月を超えて利用した人は「Evernoteの本質」をつかんでいつまでも利用するのだとも教えてくださいました。Evernoteは利用すれば利用するほど価値が増してゆくツールなんです。プレミアムに移行する人も、半年を境に急に増えるとも聞いています。

佐々木 いったん情報を集中させる先が決まると、そこに急速に情報を集めようとする、ということですね。自分自身がそうだったのでよくわかります。

そうです。そしてやってくる情報をすべて受け止め、整理を意識せずとも整理ができ、しかも画像の中まで強力に検索することができるというEvernoteの本質はこの1ヵ月のバリアを超えた辺りで初めて気づくものらしいですね。僕はもう1つのバリアがあると思っていて、Evernoteに最初の1,000個のノートを入れると大きな変化があると思ってます。

佐々木 1,000個というのはおそらく、人が当面意識している情報の総量といった意味ですね。もちろん個人差があるとは思いますが、当面意識している情報がすべてEvernoteに入れば、それに関連した情報をそこへ集中させなければならなくなるでしょう。その前ならまだ引き返せると(笑)。

この引き返せないポイントがEvernoteでは特に重要ですね。「頭で記憶すること」よりもEvernoteを信頼した瞬間、「すべてを忘れないためにはいったんEvernoteに手放さなくてはいけない」という悟りにも似た境地がやってきます。そこからは、記憶を保存して検索するという夢のような状態まで、すぐそこなんです。

Evernoteを使いこなすには、まず「何でも入れてみる」というハードルを越える必要がある。1,000個のノートを作る頃には、新しい情報整理の本質がつかめるはず

佐々木 一種のパラダイム・シフトを経験する必要があるわけですね。思い出すために記憶を想起しようとがんばるのではなく、思い出すためにEvernoteを検索するようになると。

さて、せっかくEvernoteが盛り上がってきていることですし、これから2、3回利用して「Evernoteの悟りを開く方法」というテーマでちょっとディープな話題に触れてみたいと思います。まだEvernoteを使っていないという方は、この連載とともに集中的に活用してみてください。Evernoteの世界が一気に広がりますよ!

編集後記(佐々木正悟)

Evernoteは一見したところ、「特別なツール」には見えないでしょう。メールクライアントにも似たよくあるタイプのインタフェースで、デジタルノートを分類するという、やはりよくあるソフトウェアです。このソフトを特別なものにしているのは、「ユーザーのあらゆる情報がここに集まってくる」ことを、最初から想定して作り込まれている点です。だから、大量の情報が集中してきても動作があまり重くなりませんし、ノートブック、タグ、キーワード検索という、あらゆるパターンで情報検索できるように、多種多様な機能が用意されているのです。情報を収集しやすく、検索しやすいという点で、このツールは水際立っています。

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。ブログ「Lifehacking.jp」を主催