最近、なにかと話題の「食い尽くし系」をご存じでしょうか? 「食い尽くし系」とは、家族や友人と分け合う前提のものや他者が取っておいたものまで勝手に食べてしまう人や、その行動を指します。特定の疾患や特性に直結するものではなく、もちろん正式な病名でもないのですが、SNSにも続々と「食い尽くし系」の事例が投稿され、広く知られるようになってきました。
そんな「食い尽くし系」がよく言うセリフに、「悪気はない」「気づかなかった」「そんなに怒ること?」などがあります。
あとで食べようと楽しみにしていたお菓子や家族のための作り置きがいつの間にか食べられてしまっている、ということが続けば、食べられてしまう側は、本当に悪気はないのか疑いたくなってしまっても無理はありません。
食い尽くし系に、本当に悪気はないのでしょうか。なぜ人の分まで食べてしまうのでしょうか。
実際の「食い尽くし系」体験をもとにした人気マンガ連載『身近な“食い尽くし系”生態記』(みつほし・画)をもとに、臨床心理士の視点から、このタイプの行動原理を読み解いていきます。
■食い尽くし行動とは何か?
食い尽くし系は、「食べることが好き」「食欲旺盛」「出されたものは残さず食べたい」というような食に関する意向とは異なります。
多くの人は、たとえすごくお腹がすいていても、大好きな料理を出されても、それがみんなで取り分けて食べるものなら、自分だけで食べてしまうようなことはしないものです。しかし、食い尽くし系の場合、どんな状況であれ、食べたければ食べてしまうのです。
■「食い尽くし系」の被害エピソード
子どもが「あとで食べよう!」と楽しみにしていた冷蔵庫のプリンを、夫が家族全員分を1人で完食。「パパが1人で食べちゃったの?」と涙目のわが子をよそに、当の本人は涼しい顔。挙句の果てに放った夫のひとことに、妻はつくづくあきれ果てる……(※『身近な食い尽くし系生態記13話より』)
✅この後、夫の言い分は? →→続きは漫画で読む
これは典型的な「食い尽くし系」夫のエピソードです。「食い尽くし系」とはつまり、「共有物」「自分の取り分と他者の取り分」といった文脈を考えず、「目の前にあるもの=自分が食べていいもの」と思い込み、他者への配慮ができなかったり後回しになったりする行動です。
それを周囲から指摘されても素直に受け入れず、自分の食い尽くし行動によって発生する問題を過小評価する傾向が見られるのも大きな特徴です。
このように食い尽くしは、単に「食い意地が張っている」というだけでは説明しきれないものなのです。
■食い尽くし行動の背景に「自他境界の問題」
食い尽くし行動の背景には、自分と他者、それぞれの取り分への意識の弱さがあり、それは自分と他人の境界線があいまい、とも言い換えられます。自他境界に問題がある人は、相手には相手の、自分とは異なる気持ちや考えがあることをあまり明確には理解できていない状態です。それが食べ物に向いたとき、食い尽くし系にとっては、そこにあるものを食べることは問題のない行動なので、相手にとっても問題ないはずだと考えます。他者の分も自分のものだと思い込んで疑わず、確認することなく食べてしまいます。
ここで、相手の反応を見て反省したり、次から気を付けたりすることができれば、食い尽くし系にはなりません。しかし食い尽くし系は、相手から指摘されてもなお他者の視点に立って考えることができず、「そんなに怒ることじゃない」など、相手の気持ちや困り感を勝手に矮小化してしまいます。ここでも、人の気持ちを自分基準で判断してしまうという自他境界の問題が見受けられます。
また、女性よりも男性の方がよく食べることを評価されがちな社会の傾向があるため、男性の食い尽くし行動には「子どもの頃からたくさん食べることがずっと良しとされてきたし、家族のおかずを好きなだけ分けてもらえてきたのに、なぜ今になって咎められるのか分からない、咎める方がおかしい」と考えてしまうケースもあります。
逆に貧困や虐待など何らかの事情で、満足に食事を摂れない、あるいは、食欲旺盛であることを「下品」「はしたない」など否定的に捉えられる家庭環境で育った場合など、大人になっても欠乏感や食への強い衝動が残ることが、食い尽くし行動の要因になることもあります。
どの要因も、育った家庭環境や親子関係の影響も少なくないと思われるため、食い尽くし系は心理・社会的な問題とも言えます。
■食い尽くし系の「悪気はない」は本当?
食い尽くし系がよく口にするセリフに「悪気はなかった」が挙げられるのは先述の通りです。相手を不快にさせてやろう、大事にとっておいたものをあえて食い尽くして嫌がらせをしてやろう、という意図を「悪気」と言うならば、確かに悪気はないケースの方がずっと多いと思われます。日々食い尽くしの被害に遭う側も、その行動自体に明確な悪気はないのだろうと感じる人が多いようです。
しかし、意地悪な意図がなくとも、繰り返し「食べないで」と言われているにもかかわらず食い尽くし行動をやめないならば、相手の言葉や気持ちを尊重しない無意識的な自己中心性があるのは確かであり、不適切な行動と言えます。
悪気はないとはいえども、そして、食い尽くされる側にも悪気のなさは理解できたとしても、その行動に変化がない限りは問題の解決にはならないのです。
■まとめ
食い尽くされる側は、食材を食べられてしまうという直接的な被害のみならず、何度言っても聞いてもらえず蔑ろにされている虚しさや、尊重されていない悲しみや怒りなど、様々なしんどさを抱えます。しかし、食い尽くし行動には悪気がないのも分かるため、こんなことで不快になる自分の方に問題があるのかもしれないと考えてモヤモヤし続けることも珍しくありません。
繰り返し改善を訴えているにもかかわらず食い尽くし行動が変わらなくて、これ以上どうしたらいいのか分からず途方に暮れる人も少なくないと思われます。食い尽くし行動の問題は、どうしたら伝わるのでしょうか。次回は、この辺りについて考えていきます。

\他人の食べ物まで食べ尽くす…/「 食い尽くし系」の実態とは!? ✅『身近な「食い尽くし系」生態記』全話を一気読み


