Cislunar Industriesをご存知だろうか。宇宙空間で金属材料を処理して提供することを計画している米国の企業だ。

では、なぜ彼らは、宇宙空間で金属材料を処理することを実施しようとしているのだろうか、今回は、そんな話題について紹介したいと思う。

なぜ宇宙空間で金属処理をするのか?

地球低軌道には、多くのスペースデブリが存在することはご存知だろうか?

JAXAによると、今現在地球から確認されているスペースデブリは、10cm以上で約2万個、1cm以上は50~70万個、1mm以上は1億個を超えるという※1

スペースデブリといっても物質はさまざまだろう。このスペースデブリを捕捉して、そのスペースデブリである金属を処理して再利用することを計画している企業が存在する。

それが米国のCislunar Industriesだ。スペースデブリからの金属を抽出し、再利用することで、未来の宇宙ステーションの建設、衛星の燃料などに活かすという。

この全体的な構想は次のとおりだ。まず、スペースデブリ除去衛星がスペースデブリを捕捉し、Debris Recycling & Salvage Platformにスペースデブリをドッキングさせる。

そのスペースデブリから金属を抽出し、MSF(Micro Space Foundry)にて、金属を処理し、処理後の金属を別のSpace Tugによって、建設中のスペースステーションや衛星の燃料などに利用するという。

  • イメージ

    スペースデブリから金属を抽出して利用するイメージ(出典:Cislunar Industries)

どのように宇宙で金属を処理するのか?

では、どのように宇宙で金属を処理するのだろうか。

米国のCislunar Industriesでは、まだ宇宙での実証はされていないが、現在、地球上でMSFのプロトタイプを開発しており、電磁誘導によりアルミニウムの細長い板をセラミック内で溶かし出し、ロッド状にすることに成功している。

  • 様子

    MSFによってアルミニウムを溶かしロッド状にしている様子(出典:Cislunar Industries)

アルミニウムのロッドが綺麗に溶けていく様子がわかる。

また、以下のように浮上炉にも成功している。浮上炉とは、金属をコイル中に浮上させながら、浮かせて、目的の形状にするもの。この浮上炉では、コイルの電流を制御することで磁場を制御する。この磁場によって金属を浮上させ、また溶解し、3次元の位置決めを精度良く実施し、金属を目的の形状にする。

  • 浮上炉

    浮上炉(出典:Cislunar Industries)

いかがだっただろうか。米国のCislunar Industriesは、上述した構想で2021年3月にNASAのSBIR(Small Business Innovation Research:中小企業技術革新研究プログラム)という将来有望な企業や研究に資金を援助するプログラムに選定されている。

Cislunar Industriesの構想は、複数の企業との連携で成立する。まず、スペースデブリの除去は、衛星を活用してアストロスケールなどが担当。そして、Debris Recycling & Salvage Platformでのデブリの保管や切断などはNanoracksなどが担当するのだろう。

保管、切断されたデブリからの金属は、Cislunar Industriesが溶解、成形する。この金属を燃料としたスラスターを開発しているのはNeumann Space。この金属ロッドは衛星の燃料として使用され、金属をイオン化することで、推力を生み出すという。彼らの紹介は別の機会に譲るとして、このようにスペースデブリのエコシステムが形成されつつある。

参考文献

※1https://www.kenkai.jaxa.jp/research/debris/deb-faq.html