アシストスーツをご存知だろうか。アシストスーツ、パワーアシストスーツ、パワードスーツ、パワースーツなどと称されるが、ここではアシストスーツに統一したい。医療や介護の分野で、介護者を補助したり、物流や荷役業務において、重いものを持ち上げたりと、そのようなシーンで補助してくれるのがアシストスーツだ。

アシストスーツはどのようなシーンで使われているのか、今後アシストスーツ市場はどのようになっていくのか、そんな話題について紹介したいと思う。

日本で活躍するアシストスーツ企業とは?

アシストスーツとは、電動アクチュエーターや人工筋肉といった動力源を用いるスーツだ。大きく衣服のように着用するタイプや外骨格のように体に装着するタイプの2つの種類がある。 日本で活躍するアシストスーツ企業は、それほど多くはない。

例えば「マッスルスーツ Every」を開発する東京理科大学発のベンチャーのイノフィス、装着型サイボーグ「HAL」を開発する筑波大学 山海嘉之教授のCYBERDINE、パナソニックの社内ベンチャーからスピンアウトしたATOUN(アトウン)などが有名だろう。

各社がマッスルスーツ、装着型サイボーグ、パワードウェアなど様々な呼び方をしているのも特徴的だ。

  • ATOUN

    ATOUNのMODEL Y+kote(出典:ATOUN)

このアシストスーツを装着すると、どうなるのであろうか。ATOUNからこんなデータが公表されている。

被験者に12kgの段ボール箱を1回持ち上げるという作業を実施してもらう。その際、被験者の左右それぞれの上腕二頭筋、脊柱起立筋、腰方形筋の筋電位を測定。この作業時に、筋肉の部位ごとに 「ATOUN MODEL Y+ kote」の着用時と非着用時で筋電位を比較したという。その結果が下図だ。

  • 負荷の比較

    アシストスーツ着用時と非着用時での筋肉にかかる負荷の比較(出典:ATOUN)

この結果から、MODEL Y+ koteのアシストスーツ着用時に、最大で腰方形筋では23%、脊柱起立筋では21%、上腕二頭筋では65%の負担の減少が見られたという。

アシストスーツはどのようなシーンで利用されているのか?

アシストスーツは、どのようなシーンで利用されているのか。やはり、物流、工場、土木農業などでの利活用が多い印象だ。

例えば、物流や倉庫の現場において、船で運ばれてきた大きなコンテナから荷物を運び出し、積み替えをする作業。作業者一人が1日に運ぶ総重量は数トンに及ぶというから驚きだ。これは、体への負担、特に腰への負担などは想像を絶する。

  • 利用シーン

    物流・倉庫の現場でのアシストスーツの利用シーン(出典:ATOUN)

そのほか、医療・介護分野での利活用も盛んだ。CYBERDINEは、介護される側の自立支援や介護する側の介護支援での両側面のアシストスーツを開発している。介護される側の自立支援については、脳卒中、脊髄損傷といった後遺症の機能回復支援、高齢者のフレイル対策・予防などに用いられるという。

著名な冒険家の三浦雄一郎氏もCYBERDINEのHALを使ってリハビリをした人物の一人だ。頸髄(けいずい)硬膜外血腫を発症してほぼ寝たきり状態から、HALによるリハビリにより驚異的な回復を見せ、先日、富士山5合目で見事聖火ランナーを務めた。

また、介護する側の介護支援としての需要がコロナ禍では非常に増加しており、アシストスーツは、非常に活躍しているという。

アシストスーツの市場はどうなる?

今後、アシストスーツの市場はどうなっていくのだろうか。日本能率協会総合研究所(JMAR)から下図のような国内の市場予想が公表されている。

これによると2023年には8000台が販売されるようだ。この背景には、アシストスーツの市場が、近年までベンチャーを中心とした開発実証段階のフェーズから本格的な実用段階のフェーズへと移行すること、そしてアシストスーツの価格帯が低下していくことが理由として挙げられるだろう。 もう1つ、アシストスーツを利用するために、購入以外にも、レンタル、リース、サブスクのようなビジネスモデルも導入されていることも市場拡大の要因だろう。

  • 市場予測

    アシストスーツの市場予測。縦軸は台数を示す(出典:JMAR)

いかがだっただろうか。アシストスーツは、物流、工場、土木、農業をはじめとする重労働のシーンや医療・介護のシーンなど主にB2B向けがメインだ。しかし、介護される側の自立支援や家庭で足腰が悪い高齢者のかたやちょっとした大変な作業でもこのアシストスーツが当たり前に使われるようになる時代が来るのではないか、そんな気がしている。