グループウェアの開発、販売、運用を手掛けるサイボウズは、2005年に28%だった離職率を、4~5%まで改善した経験を持つ。人事制度を常に改良し、多様性のある職場づくりを進め続けるサイボウズの思想の根底にあるものは何だろうか? 7月に移転したばかりの新オフィスにて、執行役員 事業支援本部長の中根弓佳氏にお話を伺った。

バーチャルとリアルを融合したオフィス

――新しいオフィスに移転されたばかりということで、お伺いするのを楽しみにしておりました。このフロアは、まるで「夏休み」の世界ですね。"森"から橋を渡って"空"へ、さらに"宇宙"へと拡がっていくような内装になっています。

単なる「受付」や「会議室」ではなく、さまざまな方が出会い、コミュニケーションが生まれ、来たい、楽しいと思うようにと、ペンギンがいたり、ハンモックがあったり、話が弾むような仕掛けをいろいろ施しています。執務エリアは別のフロアになっていまして、そこもメンバー間の壁を極力なくし、コミュニケーションや一体感が生まれるように工夫しています。

入口でPepperくんがお迎え。青野社長とのツーショット

受付に入ってすぐにある橋

大きな木も

木にはヘラクレスオオカブトか?

執務エリア内の休憩スペース

執務エリア内の風景

――どういった経緯で、このようなオフィスにされたのでしょうか。

人数が増えて手狭になったことがオフィス移転のきっかけではありますが、はじめからこの形を想定していたわけではありませんでした。私たちはこれまで、勤務時間と勤務場所を選択制にしたり、「子連れ出勤」を受け入れたり、退職してサイボウズ社外でのキャリア形成の道を選択した後、再入社できるようにしたりと、多様な働き方を受け入れてきました。そこで、「そもそもみんながひとつにオフィスに集まる必要はないんじゃないか?」と考えるようになりました。

ところが、この提案に対して主に若手メンバーから反対を受けました。「リアルなコミュニケーションをとりながら、一体感を持って働きたい」「先輩の仕事を横で見ることで自己成長につながる」と。確かに、リアルにコミュニケーションすることで得られる効用も大きいなと。そこで私たちは、リアルとバーチャルのそれぞれの良さを活かし、働きたいように働きながらチームワークの成果を実現できる新しい働き方を実現できるオフィスをつくろうと考えました。

例えば、新オフィスでは社内向けの全会議室にテレビ会議システムを組み込んだり、集音マイクにこだわってどの席にいても発言を拾えるようにしたり、スマホからどこからでも会議に参加できるようと、遠隔でつながるための仕組みを充実させました。今後どんどん増えていくサイボウズメンバーの多様化や分散化にも対応できるオフィスにすること、これは大きな理想のひとつとしました。

チームワークを生む工夫

――オフィス移転に合わせて、企業ロゴも刷新されましたね。

サイボウズ 執行役員 事業支援本部長 中根弓佳氏

前のロゴは1997年の創業から使っていましたから、18年目にしてのリニューアルです。「大きさや距離感の違うサークル(=チーム)が集まり、良い成果を出していこう」というコンセプトでロゴができあがりました。サークルは、どの角度から見ても変わらない「公明正大」という私たちが重視している文化も表現しています。

――「チームワーク溢れる社会を創る」という新たなコーポレート・メッセージは、人心地がありながら明確に目指すものが伝わってくる、とてもいい言葉だと感じました。

私たちはグループウェアを開発・販売しているのですが、グループウェアを使っているのに、「うまくコミュニケーションがとれない」「便利になっていない」「業績も上がっていない」ということではミッションは達成できていません。事業としてお客さまのチームワークを向上させ、成果を上げていただくことが、何よりの目的だと考えています。

――今回の取材テーマは「健康職場」なのですが、社内のチームワークづくりをしていく上では、どのようなことに取り組んでいますか?

私たち一人ひとりは、性別が違ったり、生まれた場所が違ったり、考え方が違ったり、得意分野が違ったりします。まずは、そういう集まりであると認め合うところからですね。多様なメンバーがチームで仕事をするときに必要なのは「信頼」で、信頼のベースとなるのは「公明正大」です。ですから、うそをついたり、隠し事を極力なくして、プライバシーやインサイダー取引、その他特別な情報以外は全て共有できるようにしています。グループウェア上の見える場所で議論が行われますし、稟議書も見えますので、誰がどんな出張でいくらのホテルに泊まった、ということも知ることができます。高いホテルに泊まったとしても、合理的な理由を説明できれば全く問題ありません。胸を張って正しいと言えることが「公明正大」ですから。

離職率を減らす決意

――サイボウズさんが、人づくりや環境づくりを意識しはじめたのはいつ頃からなのでしょうか?

2005年に離職率が約28%になった時に、「働き方を変えなくては」と明確に意識するようになりました。

――"離職率28%"を全社的な問題だと捉えたわけですね。しかし、ある意味それまではその状況を良しとしていたわけで、社風をがらりと変えるのは大変なことだと思いますが、その原動力になったのは何でしょうか?

一番大きいのは、経営陣がこのままではいけないと感じたことでしょうが、次々にやめていく人を見て、みんな「このままじゃいけないんじゃないか」と思ってはいたんです。新しい人を採用する人事も大変ですし、現場も仕事をまた教えなければなりません。この非効率から生じる「変わらなくては」という意識が、もう一つの原動力だったと思います。

――現在の離職率はどの程度なのでしょうか?

今は4~5%です。ここまで下げることができたのは、「働き方を多様化したからですね」とよく言われますが、それだけではなく、いろいろなことが関係していると思っています。働き方を選択できるようにはしましたが、結局、短時間勤務や在宅勤務を選ぶ人が多いかといったらそうではありません。ただ、選択肢があるなかで自分が選択できる、ということは大事だと思っています。

働き方の多様化だけでなく、その人の能力を見るように評価制度を変え、コミュニケーションを促進するような制度をたくさん構築し、「文句を言うのではなく、公明正大に質問しよう」という文化も創ってきました。クラウドサービスが比較的順調で、事業に対しての期待感もあるでしょう。いろいろな要素が積みあがった結果だと思います。

*  *  *

離職率を劇的に改善し「働きやすい職場」を作りあげたサイボウズは、いったいどのようなプロセスで人事制度を充実させていったのだろうか? 後編では、従業員から意見を集め、制度を構築し、さらに改善していく「サイボウズ流」の人事制度づくりについて、インタビューをお届けする。