マイクロソフトが、いよいよ11月にDynamics CRM Onlineを国内投入する。クラウドコンピューティングで先行するセールスフォースドットコムの牙城に、いよいよマイクロソフトが挑むための製品がこれになる。この領域でマイクロソフトがどれだけの存在感を発揮できるかが、今後のクラウドコンピューティング事業の成長曲線の描き方を大きく左右することになるのは明らか。それだけにマイクロソフトもこの製品にかける意気込みは尋常ではない。

11月から国内で本格投入を開始するDynamics CRM Online

それはDynamics CRM Onlineに向けた入念な準備からも裏付けられる。

ひとつは、パートナー戦略を加速させている点だ。マイクロソフトは、9月上旬に450社のクラウド認定パートナーがあると発表していたが、9月末を待たずに、この数は500社に到達した模様だ。急ピッチでのパートナー拡大は、当面続くことになりそうで、マイクロソフトでは、これを年度内には1,000社、3年後には現在のマイクロソフトの全パートナーが対象となる7,000社へと拡大する考えを示している。

クラウド認定パートナーのなかには、マイクロソフト製品をこれまでに扱ったことがなかったパートナー企業が数多く含まれているのが特徴で、オンプレミス製品のしがらみがないこうしたパートナー企業が、先行してマイクロソフトのクラウド製品を扱っているのが現状だ。パートナーの数を増やすことが、そのままクラウドビジネスの成長につながる構造は、パブリッククラウドビジネスを推進する各社に共通したもの。パートナーを通じた販売が主軸のマイクロソフトも同様に、パートナー地盤がビジネス拡大に直結することになる。

そして、パートナーの地盤を築いた上で、マイクロソフトが提示しているのが、Dynamics CRM Onlineに関する戦略的な報酬体系だ。マイクロソフトはクラウドビジネスに関するパートナーへの報酬は、毎年支払われる年間6%の定期報酬と、初年度に支払われる12%の成約報酬の組み合わせとなっている。だが、Dynamics CRM Onlineでは、2011年6月までの販売に関しては、22%の販売手数料を上乗せし、実に40%の初年度販売手数料を提示しているのだ。

クラウドコンピューティングの課題は、オンプレミス型のビジネスに比べて、初期導入時の利益が薄い点にある。これは言い変えれば、ユーザーの導入の敷居を低くすることにもつながっているわけだが、オンプレミス中心型のビジネスモデルが主流である、多くのシステムインテグレータにとっては、むしろクラウド事業進出への大きな弊害となっていた。その点で、初年度40%の販売手数料は、パートナーを「売る気」にさせるには大きな意味を持つものといえる。

マイクロソフトにとっては、先行するセースフォースドットコムを猛追するには、中堅・中小企業に強いパイプを持つパートナー各社に、いかに本気になってDynamics CRM Onlineを売ってもらうかが鍵になるといえる。そのための大きな一手というわけだ。

マイクロソフトは、ここにDynamics CRM Onlineへのマーケティング投資を集中させた。一方で、パートナーに向けたクラウドコンピューティングの支援体制の強化は、それだけではない。

たとえば、5,000人のパートナー技術者を対象にした年100回の開催を予定しているAzureのハンズオンセミナー、パートナー企業の経営者など500人以上を対象にクラウドビジネスのメリットなどを訴求するWindows Azure Universityの開催などのほか、パートナー企業のセールスおよびマーケティング担当者が活用するための572種類にのぼる販売促進ツールの無償提供など、経営者、技術者、営業担当者を対象にしたAzure拡販に向けた各種施策を用意している。

また、BPOSのパートナー拡大に向けた準備にも余念がなく、これに関しても、今後の新バージョン投入に向けてパートナー支援策の展開も加速することになるだろう。

マイクロソフトのクラウドへの本気ぶりは、パートナー戦略への積極投資から浮き彫りにされるといえる。

Dynamics CRMの強みはOutlookなどMicrosot製品との相性の良さ。とくにビジネスユーザにはメリットが大きい

他製品と比較してもパートナー向けの支援にかなり力を入れている