フェアを巡る騒動

国会内で安保法制のための乱闘騒ぎ、いえ、議論が行われていた最中、都内の大型書店が「民主主義を取り返せ」と題したフェアを開催しました。制定後もフェアは継続され、企画した書店員と思われる人物が「非公式」と掲げながらも、店名入りのアカウントで行ったつぶやきが「炎上」します。結果、アカウント削除に続き、フェアそのものが中止となります。この中止に対して言論弾圧だとか、ファッショ政治のはじまりだとかと、ネット内ではひと騒動。

炎上のもととなったつぶやきはこちら。

この先イベントやフェアを次々ぶちかまして行く予定なので。年明けからは、選挙キャンペーンをやります! 夏の参院選まではうちも闘うと決めましたので!

フェアで取りあげている書籍や雑誌は、思想的な「左傾斜」が目立ち、対する「右」はありません。つまり、ツイートにおける「戦う」とは、右陣営への宣戦布告と考えるのが自然でしょう。

右や左の旦那さま

ツイートに対して、いわゆる「ネトウヨ」が声を上げ、騒動は本部の知るところとなり、中止命令がくだります。すると収まらないのが「ブサヨ」陣営。公平を期すため、双方が相手を罵るときの侮蔑擁護を用いてみました。「ネトウヨ」とは、右翼的発言を繰り返すネットユーザーを指し、「ブサヨ」とは「ぶさいくな左翼」の略称のようで、左翼のすべてが不美人とは思いませんが、それぞれ侮蔑用語として用いています。実に興味深いのは、この単語を使い相手を侮蔑する人々は、それぞれがそれぞれの角度で「思考停止」しており、対立する相手の意見を一切受け入れようとはしません。

発案者は一店員でも、それを許可したのは店長か上長。つまりは「書店」です。そして書店の「偏り」とは、店の個性であり、左傾斜が過ぎたとしても、そういう方針の書店だということです。また、「民主主義」を健全に保つには「多様な意見」の存在が不可欠で、特定の思想に染まった選書をみるだけで、書店の掲げる「民主主義」に重大な誤りがあることは明らか。

だとしても、それは無知の露呈に過ぎず、無知の露呈も表現の自由の一部であることは、かつて一世を風靡した「おバカタレント」らが証明しています。それでは何が問題だったのでしょうか。

本が教えてくれないこと

本稿では何度も繰り返していることですが、ネットは公の空間です。

ましてや、今のネット空間、特にTwitter上では右と左による激しい応酬、壮絶な罵り合いが展開されており、米国のイージス艦が航行した南シナ海など比較にならないほどの緊張感に包まれた、いわば「紛争地」と化しています。

そこで、左傾斜を鮮明にしたまま「戦う」と宣言すれば、右陣営から攻撃されるのは自明です。国内法は私闘を禁じていますが、「憲法9条」とて言論戦は否定していません。いわゆる「ネトウヨ」にとってみれば、「売られた喧嘩」を買ったに過ぎません。

また、そもそも論で、ネット界隈における「企業」とは、格好の標的であり、その大型書店は"上場企業"という標的も標的、中心に位置する企業なのです。

ならば、左右の思想に限らず、ジェンダーやTPP、さらに「イヌ派」「ネコ派」でも、どちらかに汲みすれば「不平等だ」と、批判のやり玉に挙げられるのが、現代における日本のネット空間なのです。これを、書店員、さらに言えば店長も知らなかったことは「ネットリテラシー0.2」でしょう。秋の読書週間ながら、あえて言います。

「本ばかり読んでいないで、たまにはネットもしなさい」

と。

フェアの中止に収まらないのが左陣営で、「言論弾圧」なる批判へと繋がります。もっとも、その左陣営は別の書店で、極右的な活動家の書籍が紹介されると、激しい排斥運動を過去に展開しており、出版という言論活動への攻撃はお互い様。両者の行動は、左右反転しているだけの合わせ鏡のようです。

民主主義とは何か

安保法制に反対する若者主催とされる団体「SEALDs」が「民主主義って何だ? コレだ」と、でんでん太鼓のリズムに乗せ、抗議活動を自画自賛していましたが、これへの明確な答えを匿名掲示板で見つけましたので紹介しておきます。

おまえらのしていることは民主主義じゃない、一揆だ

大声を張り上げ、主張を飲ませようと迫る姿は、確かにその通りです。

民主主義の説明としてWikipediaに「国家や集団の権力者が構成員の全員であり、その意思決定は構成員の合意により行う体制・政体を指す」とありますが、合意のために意見交換と話し合いを経ても、決着がつかないときの手段として「多数決」が用意されていることは、日本人の大半が「学級会」で体験していることでしょう。

国政の仕組みも基本的には同じです。どうしても「本」で学びたいのであれば、中学校レベルの「公民」の教科書に載っています。

デモや集会も表現の一形態で否定はしませんし、政権批判も同じです。ただし、「多数決」による結論である「選挙結果」の否定とは、民主主義の否定そのものです。少なくとも私が落書きばかりしていた教科書にはそう書いてありました。

エンタープライズ1.0への箴言


ネットは左右どちらも紛争地帯

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」