自治体に忍び寄るブーム

お役所仕事というと「遅い」「融通が利かない」といったイメージがありますが、近頃のお役所は「ブーム」に何でも飛びつきます。

その最たるものは「ゆるキャラ」。

雨後の筍というより、防波堤のフナムシのように、多くの自治体で「ゆるキャラ」が量産されています。私が暮らす東京都足立区には、犬のダルメシアンを模した「エラビ→(エラビーと発音)」と呼ばれる"ゆるキャラ"がいます。

キャッチコピーは「すてないで!せんきょけん」とありましたが、今年の5月に実施された統一地方選挙の投票率は前回より下がっています。効果の検証もせずに量産される「ゆるキャラ」とは、作ることが目的化しているようでなりません。

そしていま、静かに自治体を席巻する「ブーム」が、スマホ向けの「アプリ」です。

多くの自治体で"開発"しているのが「ゴミ出しアプリ」。スマホのGPS機能を利用して、地域のゴミ出し日を教えてくれるアプリです。わざわざ「明日は可燃ゴミの日です」と通知をしてくれる機能まで搭載され、「親切」という評価もありますが、もっとも多い感想は「そんなアプリあるの?」という使い勝手以前の問題です。

そもそも論の矛盾

同じく量産されているのが「防災アプリ」。

臨海部を擁する東京都港区の「港区防災アプリ」は、津波浸水時のイメージ画像を見ることができるなど、地域の特性にあわせた工夫をしています。ただ、このアプリをわざわざインストールする人は、日頃から防災意識が高いわけで、アプリをインストールしない人への啓発こそ、自治体に求められる仕事の気がしてなりません。

先の「ゴミ出しアプリ」にしても、新しく転居してきた住民の利用が想定されいるものの、今時のマンションはそれぞれ敷地内に、日時を選ばないゴミ置き場を設置しています。また、数件単位の宅地分譲であっても居住者専用のゴミ出しスペースを確保するため、現状を考慮すると需要はあまり強くないように感じます。

ゴミや防災は自治体にとって重要な仕事ですから、まだ良しとします。ある果実で有名な自治体は、その果実を育てるアプリを提供しています。俗に「農ゲー(農業ゲーム)」と呼ばれるもので、特産品への理解と、自治体への観光誘致を狙っています。しかし、育てるのは特産品の果実だけ。刺激の少ない展開に「単調な繰り返し、飽きた」とはユーザーの声です。

ときめきの先に何もない

百歩譲って特産品も見逃しましょう。ただし、そのアプリがゲーム以外に提供するコンテンツは、観光地の動画や公式ブログなどの「ホームページ」で事足ります。しかしながら、わざわざアプリを開発したことで余計な税金を使っているとしても、私はその自治体の住民ではないので文句を言う筋合いはありません。

何より、「特産品の農ゲーなぞ遙かにマシ」と思わせてくれるのが、「ときめきGG(仮称)」という自治体の名前を冠した「恋愛シミュレーションゲーム」の存在です。少女漫画というかBL風の3人の「イケメン」と、観光地をデートしていくというストーリー仕立て。開いた口を閉じ、頭を冷やして見ると、税金を使ってゲームを提供するのはそもそも「民業圧迫」です。

それでもアプリが愛され、使われ続けているのなら、千歩譲って見逃すこともやぶさかではありません。しかし、その自治体の公式サイトトップページには、果実も恋愛も見つかりません。まるで「なかったこと」のようであり、これはこの2つの自治体に限ったことではありません。

Aだちんの末路

必要性や費用対効果、その後の検証作業などを一切無視して量産され続ける「アプリ」に見つけるのは「ゆるキャラ」の影です。

「ふなっしー」や「ねば~る君」の活躍に、明日の我が身を重ねるのか、「選挙だ」「祭りだ」とイベントが行われるたびに量産されます。

しかし、「くまモン」も含めた、彼らの背後には「プロ」がいて、それ故の成功だという分析の形跡を「エラビ→」からは見つけることが出来ません。

これはアプリも同じで、プロが鎬(しのぎ)を削るアプリの世界に、自治体職員の思いつきレベル「アプリ0.2」、すなわち「ゆるアプリ」を投入するのは税金の無駄遣いです。

我が町、足立区は「ゆるキャラ天国」。区は開き直って「あだちキャラクター人気投票」をWeb上で開催するも、約70万区民ながら、投票総数がわずか581件。

首位の176票と2位の99票はともかく、以下52票、42票、38票とはほぼ誤差の範囲で、「エラビ→」は22票で8位。選挙の度に、自治体発行の印刷物その他に刷り込まれながら、ここまでの低い人気は「キャラクター」というより「記号」です。

さすがの足立区も間違いに気がついたのか、この2月から「Aだちん(仮)」なるゆるキャラが「リストラ」されました。

足立区の新規事業の一環として採用され、区役所に連なる準公共団体の支援を受けて鳴り物入りで登場したものの、犬の「ちん」をモチーフにした造形は、足立区に縁もゆかりもなく、自治体の名前に「ん」をひっつけただけの駄洒落の産物。

リストラは夕刊ながら日経新聞の一面(2015年4月4日号)で報じられ、そこでは「地元人気は高いが」とありますが、このキャラに親しみを感じている区民に、私は出会ったことがありません。乱発される「ゆるアプリ」の未来を「Aだちん」に見つけます。

エンタープライズ1.0への箴言


「アプリ」なくとも情報提供はできる

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」