逮捕されるかも知れません

ttttttttataた、たたたたた……。失礼、逮捕されるかも知れないと恐怖に震えております。「t」の連打は、私の心の震えを表現したものです。無事故無違反、路上駐車もしなければ、愛犬の散歩にリードは欠かさず、「落とし物」は必ず拾うので、東京都の条例にも違反していませんが、「名誉毀損」で訴えると恫喝されています。

足立区の片隅で、ひっそりと駄文を書いては糊口をしのぐ物書きを、「名誉毀損」で告発準備をしているというのは政党助成金を受けとる公党の機関誌の幹部。

彼から電話がはいったのは1月末の金曜日。一方的に「名誉毀損、裁判だ、謝罪しろ」とまくし立てます。電話の主は、中東の邦人拉致事件の被害者親族が開いた会見を仕切った人物で、親族の発言を「戦略的」と「週刊新潮」に答えていました。

親族がネットで「マザーアース」と命名されたのは、助命嘆願よりも原子力を否定して環境保護を叫んでいたからであり、幹部が関与する公党の主張に重なります。そこで「政治活動」とブログで指摘したことが「名誉毀損」のようです。ちなみに記者会見の前々日には、その公党の副党首の女性が官邸前でダンスを踊り、政権批判していたわけですが。

新潮の記事については「デタラメだ」と言い放ち、執拗に謝罪を要求しますが、謝罪したら裁判をしないとは言いません。そもそも面識もなく突然の電話での謝罪要求は「オレオレ詐欺」ならぬ「オレオレ謝れ」です。

名誉毀損の適用案件

物書きをしていれば、抗議を受けることもありますが、この幹部ほど話し合う姿勢をみせなかった人物はいません。バカバカしい。しかし、「名誉毀損」はバカバカしいと放置することができないのが厄介です。仮にそれが事実であっても「名誉毀損」は成立してしまうからです。

「ネット選挙解禁」で懸念されていた点は、怪文書的な情報の拡散によるネガティブキャンペーンと、政治家による「名誉毀損」の濫訴(らんそ)です。

事実をもとにした候補者批判であっても、「名誉毀損」で提訴することは可能で、「訴える」と恫喝されれば、私のようにチキンハートな物書きの指先は震え、原稿が書けなくなります。

それは合法的な言論弾圧です。幸いにも現時点では杞憂でしたが、公党の機関誌の幹部とは、かなり政治に近い人物。民主主義が機能するためには、「自由な言論」が不可欠である。これは、私が繰り返すまでもないでしょう。

この幹部のツイッターに掲載されていた電話番号にかけてみると「内容証明を送るから待ってて」と告げられましたが、本稿執筆時点でいまだ届かず、郵便配達が乗る原付バイクの音で体が震えてしまうのは武者震いです。

SNSという証拠

「週刊新潮」に確認したところ、録音を元に記事を書いているので間違いないと、記事を書いた記者からもメールが届いております。

何より幹部はツイッターで政権批判を繰り返しており、彼の立場と前後の発言から、行動の真意を読み解くのはごく普通の言論活動で、なんら名誉を毀損するものではありません。そもそもこの幹部は「ジャーナリスト」を名乗っています。ならば「言論には言論」で戦うのが筋というものでしょう。

ほぼ同じ時期、テレビコメンテーターとして現在も大活躍の「ジャーナリスト」がツイッターでやらかしていました。朝日新聞の植村隆元記者が、朝日新聞による慰安婦報道を追究してきた西岡力教授に続き、櫻井よしこ氏を「名誉毀損」で訴えた件について、櫻井氏らの発言を「デマ」として、元記者に肩入れするツイートをしたのです。

これに「お前が言うな」と突っ込みをいれた一般のユーザーに対して、「どういう意味だ。具体的にいってみろ。ことと次第では名誉毀損だ(要約)」と「名誉毀損」をちらつかせていたのです。

やり取りの中で、住所の開示を迫るなど強圧的でしたが、その5時間後には別のユーザーが、この「ジャーナリスト」の過去の「デマ級」のツイートが「まとめ」て晒されると、ピタッと沈黙。さらにこんな発言も発掘されてしまいます。

表現の自由とは何か

「いやしくも言論人が、批判されたからといって、ただちに名誉毀損を匂わして威圧するのは問題外である」

その通りです。彼自身の言葉に沿うなら問題外の「ジャーナリスト0.2」ということです。それは先の幹部様にも当てはまります。

ちなみに政府や大企業が、報道や言論を沈黙させるために起こす訴訟を「スラップ訴訟」と呼びます。米国ではすでに半分の州で、これを禁じる「アンチ・スラップ法」が制定されているのは「言論の自由」を守るためです。

幹部が機関誌を手がける公党は、「特定秘密保護法」の施行を「言論弾圧」に直結させ、何かと言えば憲法を護れと騒いでいます。私の記憶が正しければ、日本国憲法には「言論の自由」や「表現の自由」があったはず。

「護憲」を掲げながら、他人の言論の自由を侵害するのは「憲法0.2」です。もっとも、現行憲法はかなり不完全なものですが。

エンタープライズ1.0への箴言


「言論には言論」の原則を守れないジャーナリストにはご注意を

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」