解散前の国会で「うちわ」が話題となった、直後に起こった「オタク論争」をご存知でしょうか。海外に日本文化を知らしめ、輸出と観光客の誘致を狙う「クールジャパン政策」の一環として「Tokyo OtakuMode(東京オタクモード)」へ官民共同ファンド「クールジャパン機構」が15億円へ出資したことが野党に追及されました。

「東京オタクモード」が販売していた女性キャラクターの「フィギュア」が「半裸」だったからです。

これに三谷英弘衆院議員が反論します。彼は政界屈指のフィギュア好きとして知られ、「オタクビジネスにはこういった可能性があることを理解してほしい」と訴えます(「東スポWEB」より)。

確かにオタクとエロは隣接し境界は曖昧です。ちなみに選挙期間中、政治関連の記述は曖昧にするものですが「ネット選挙」も解禁になったことですので「実名」で記しております。

実はこの論争、「コンテンツとは何か」を考える上で、とても重要な議論です。そして多くの会社のホームページがつまらない=0.2な理由もここにあります。

新線開発によるマイナス

首都圏郊外の地元に根ざして40年の自動車修理工場K。自動車が移動手段の花形だったのは今は昔。少子化によるドライバー人口の減少に、マイカー離れときて、この夏のガソリン価格の高騰は、真綿で首を絞めるように経営を圧迫しています。その「地元」を南北に縦断する新線が開通したのは3年前。

まだまだ不便な片田舎。地元の人間の主要な「足」はマイカーですが、新線に伴う地域開発で、昔なじみのお客が引っ越していきます。安い地代から物流業の拠点が多く、自動車修理工場にとっては好立地でしたが、新駅効果で住宅需要が高まり、地価が底上げしたことで移転していったのです。

そしてWebサイトに活路を見いだす……と、追い込まれてからWebに取り組むこの発想が、そもそも0.2なのですが、今回ここは見逃します。

多くの企業が錯覚している

すでにWebサイトは開設していたので、正確にはリニューアル。内容を刷新して反転攻勢を目論みます。複数の業者から見積もりを取ったところ、最高値は300万円で、最安値は60万円でした。最高値の業者は、プロによる写真撮影が売りで、最安値はサイト全体の練り直しを提案します。5倍の価格差に頭を抱えながらも、出した結論は最高値でのリニューアルです。

果たして新しく取り直された写真は美しく、まるでグラビア誌のような仕上がりとなりました。アイコンは刷新され、スマホやタブレット端末にも対応した「レスポンシブル(Web)デザイン」。それでもお客は増えません。なぜなら「コンテンツ」が同じだからです。

写真はコンテンツを構成する要素のひとつですが、サイトを訪問するお客の求める「コンテンツ」とは「メリット」です。つまり、その自動車修理工場を利用する「メリット」が何かを伝えるのが「コンテンツ」であって、つなぎ姿の工員による作業風景など、刺身のつまより役立たずです。多くの企業が錯覚している「コンテンツ0.2」です。

旧サイトは「会社案内」に過ぎず、これを見ての来店が「偶然」の範囲を超えることはないでしょう。練り直しを提案した「最安値」の業者のほうが「コンテンツ」を理解していたといえます。一方「最高値」の業者は「ビジネス」が上手かったと言えます。素人が評価できるのは「見た目」と「数字(価格)」だからです。

エロモード問題

旧サイトを彩った素人写真と、最新のデジタル機材で撮影された画像の違いは、文字通り「一目瞭然」です。そして「価格」とは、それを受け入れた人にとっては「価値」そのもので、評価から価格に納得するのではなく、価格を社会的評価と錯覚するのです。高い、すなわち良いと。最高値の業者がもっとも得意としたのは「自社の売り込み」でした。

冒頭の「オタク」を巡る議論も構造は同じです。「東京オタクモード」は、日本のオタクカルチャーを海外に紹介し「Facebook」で集めた多くの「いいね!」で注目されるようになりました。この「数字」を、霞ヶ関のお役人が評価したのでしょう。しかし「いいね!」は「いいね!」に過ぎません。ビジネスの指標でもなければ、コンテンツの秀逸さを示すものでもありません。ましてや、「日本代表」の証明になどなりません。

「クールジャパン政策」とは日本の魅力を海外に発信することで、輸出を増やし、観光客を誘致することにあります。そもそも「オタク」がこれに値するかに疑問が残ります。オタクとは専門性を追究する人々で、それは「一般」からは遠く、「マス=大衆」を対象としなければ経済的メリットも期待できません。

さらに語弊を怖れずにいえば、世界中の「変わり者」を集める政策は是か非か。そもそも「美少女」や「萌え」と冠が付いていても、半裸のデザインを「エロ」と見るのがグローバルスタンダード。「オタク」の拡散により「エロ大国日本」という世界的評価を得ることは「国益」に適うのか。国会で問うべきはそこにあり、「うちわ」や「フィギュア」ではありません。

エンタープライズ1.0への箴言


評価に値しない「数値」がある

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」