ネットの核心とは

FacebookやTwitter、いまならLINEに注目集まると、ビジネス利用による成功例を喧伝する人があらわれ、ITジャーナリストやコンサルタントなど「有識者」がそれを持ち上げ、新規参入する企業が続々と現れます。しかし、大半の企業が、期待通りの結果を得られないまま、静かにフェードアウトしていきます。当然の話です。それはネットのビジネス利用における「核心」が疎かにされているからです。その「核心」を理解するのに役立つのが「ネット選挙」です。

2013年の参議院選挙より解禁された「ネット選挙」。ネット上で支持を公言し、個人的に投票を呼びかけることが可能となりました。これに合わせるかのように関連本が出版され、ネット界隈の有識者が様々な見識を開陳していましたが、いま、その影はありません。先日の福島知事選挙でも特段の活躍は伝わってきません。実はこれは「核心の不在」が理由です。

4位に潜り込んだ実力

ネット選挙の解禁に合わせて、ネットに詳しいと自称する「ネット議員」がフィーチャーされました。東京選挙区から民主党所属で出馬した鈴木寛氏もその一人。ネット選挙解禁の立役者とされ、応援演説には楽天の三木谷浩史氏、サイバーエージェントの藤田晋氏が駆けつけマイクを握りました。しかし、結果は5人枠の6番目で落選。山本太郎氏は自民党の武見敬三氏を抑えて4位当選します。民主党への逆風は、ネットの力を持ってしても跳ね返せなかった。だけではありません。ネットの使い方を間違えていたのです。「ネット選挙」において、山本太郎氏のほうが「上手」だったといえます。

表現の自由が遵守される我が国では、山本太郎氏が訴えるデマレベルの陰謀論や、根拠のないオカルト話とて、規制することなどできません。検証不能な一方的な主張だとしても、誰でも発信できるのがネットという媒体の特性です。昨今、世界を混乱させている「イスラム国」のネット利用も同じ構図です。賛否の否が多くとも、話題になればネット空間は「山本太郎」の文字で埋められます。俗に「炎上商法」と呼ばれるものでも、ネット空間において悪名は無名に勝ります。

日本人とはなにか

ネット選挙の鍵はデマの拡散…ではありません。選挙戦が始まる前から、山本太郎氏はネットで「話題」を提供し続けていたことです。極論すれば「話題」の中身は問いません。一笑に伏されるような内容でも、人目を憚らずに主張する堂々とした姿を、論理の正しさと混同してしまう人が一定数いるのが、民主主義社会の欠陥であり真実です。対して、その他の候補者は「選挙前のネット活動」を疎かにしていました。政治家がたびたび口にする「常在戦場」とは、ネットの選挙利用においても同じで、そのままビジネスにも通じます。

山本太郎氏が日頃から話題を提供し続けていたことは、内容はともかく、ネットの「ビジネス利用」における「核心」です。日々のネットにおける接点=接触時間がロイヤリティへと繋がります。核心とは「継続性」です。反対を考えれば分かることです。売りたいときだけ人を集めようとしても、都合良くお客が集まることはなく、選挙の時だけ握手を求める政治家が陰口を叩かれるのと同じです。「選挙に強い」と言われる議員は、日頃から有権者との接触を欠かさず、カレンダーやワインを配る「勇み足」はともかく、日頃からの地道な活動が票につながることを知っています。「ネット選挙」とはこうした活動の「ネット版」に過ぎません。

それではいまはどうか

ネット選挙の現状はどうなっているでしょうか。ある政党の都内の地域支部所属の議員を調べてみると、20人の所属議員のうち、Twitterアカウントをもっているのが6人、ツイートを継続しているのがそのうちの2人。Facebookのアカウントは、わずか1人だけとお寒いかぎりの0.2です。

ネット有識者の大半は「福島知事選挙」に参戦しませんでした。2013年の参院選挙、2014年の都知事選挙にはしゃぎ、大所高所から「ネット選挙とは」と自説を開陳し、時に政治にすり寄りましたが、選挙が終わると反省も検証もせず、別の「話題」に去って行きました。この1年ちょっとからの結論は「ネット有識者」と紹介される連中にとって、ネット選挙とは「消費するコンテンツ」に過ぎないということです。よく言えば「トレンドに敏感」で、正しくは「飽きっぽい」のです。つまりは継続性がありません。そんな彼らが語る「ビジネス論」が、役に立つはずがありません。ビジネスには「継続性」が求められ、それは「政治」とまったく同じです。

ところで先日、鈴木寛氏の名前を久しぶりに新聞で見つけました。文部科学省の「参与」に任命されていたのです。調べてみると昨年末に民主党を離党していたとのことで、自由で民主的で無節操な現政権らしい人事政策ですが、誘う方も誘う方なら、受ける方も受ける方です。あの政権交代の喧噪はなんだったのかと、しばしクビをひねります。

エンタープライズ1.0への箴言


「継続は力なり、とはネットでも同じ」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」