ビットコインの正体とは

いま、話題の電子仮想通貨の「ビットコイン」。通貨単位はBTC(ビットコイン)で、本稿執筆時の相場は1BTC=5万円ちょっと。「相場」としたように、需給で価格が上下し、2013年の12月4日には過去最高値の1238ドルをつけました。当時のレートを1ドル=103円とすれば127,514円。値下がりしたいまは「お得」かといえば、2013年1月はわずか13ドルでした。

ビットコインは「取引所」を通して、日本円やドルと交換ができます。世界各地に取引所があり、わずかな手数料で各国に送金できるという利点はありますが、価値を裏打ちするものは何もなく、せいぜい通貨の発行上限が定められているので貨幣の希薄化=インフレがおこらないことぐらいしか保証されていません。ところがFRB(米連邦準備制度理事会)は注目していると発表し、ネット業界では、普及が進み第2の通貨として定着するという主張するものが後を絶ちません。

既に述べたように国内で利用できる店舗は限られ、関東で調べて見ても、わずか10店舗で、そのウチの半分が「中国語教室」でした。ビットコインは「通貨0.2」なのです。仮にビットコインが通貨の代わりとなれば、世界経済が大混乱に陥ることは、マクロ経済を少しでもかじっていればわかることです。

ビットコインの近未来

ビットコインは東地中海に浮かぶキプロスで実施された「預金封鎖」により注目されます。「預金封鎖」とはEU加盟国の風土病ともいえる財政危機を回避するために、銀行預金へ課税するための措置でした。しかし貯めたお金に税金が掛けられるとは、国民からすれば「盗まれる」も同義です。そこで国家権力の及ばない「ビットコイン」へと、キプロス国民が資産を移したことが大々的に報じられ、好事家のなぐさみものだった仮想通貨が、表舞台に躍り出ます。

近未来、ビットコインの普及が進み、代金の受け取りも、仕入れの支払いや家賃も、ビットコインで行えるようになったとします。すると消費税もビットコインで徴収されます。しかし、納税の段階で混乱が発生します。1BTC=1万円のサービスを提供したとき、4月からの税率である8%では800円です。ところが納税時にレートが半分に下落していれば400円です。あるいは倍に上がっていれば1600円。利益は「換金」のタイミングが支配する、一億総カジノ状態です。

日経平均株価が下がった理由

消費税など些細な問題。農産物や食肉の価格は需給に加えて天候にも左右されます。そこに「相場」というみっつめの要素が加わります。つまり、日替わりランチの値段が、今日は500円、あしたは1500円になることもあるということです。

普及が進み相場が安定すれば問題が無い…とは、市場を知らない人の発言です。年初から下落が続いた東京株式市場ですが、上場企業が発表する決算に「過去最高益」の文字が躍っていました。どれだけ「儲かった」と発表しても、株式が売られることもあるのが相場の世界なのです。

そもそも世界のすべてがビットコインになれば良い。と、いう発想が0.2。経済学からみれば「妄想」です。

日本国民全てがビットコインを利用するようになれば、先のレストランにみた混乱はありません。しかし、それは閉じられた世界でのみ通じる妄想で、エネルギーも食糧も自給自足にはほど遠く、日本経済はグローバル経済に組み込まれています。どこかでかならず「現金化=現地化」に晒されます。

ビットコインの実相は

それでは世界中のすべての国々がビットコインを使えば問題は起こらない。ことなどあり得ません。キプロスが預金封鎖に至った理由のひとつは、EU加盟国はそれぞれの判断で貨幣供給量をコントロールできないからです。極論を言えば1000兆円を越えた日本の借金は、一万円札を昼夜を問わずに印刷して、市中に供給すればすぐに解決します。ところがEU加盟各国は、ユーロ札を自国の都合で印刷することなどできません。そこでキプロスは預金への課税により財政再建を目指したのです。ビットコインによる通貨統合が実現した先に待つのは、経済基盤の弱い国家の連鎖的破綻です。

米国がビットコインに注目するのは、最強の基軸通貨である「ドル」とビットコインを置き換えても影響が少ないからだけでなく、エドワード・スノーデンが告発したように、世界最大の通信傍受国である米国にとって、ネット上に流通する情報=通貨の流れを把握できることは、計り知れない国益へと繋がるからです。

経済学的には論外のビットコインに注目が集まるのは「たまごっち」。1996年におこった最初のブームでは、定価1980円に対して数万円のプレミアム価格で取引されたように「物珍しい」ものが高値になっているだけのことです。そもそもビットコインとはネット上の仮想通貨で「電気」がなければ利用できません。すべての国と地域で、電気が安定供給されているというのは、原発反対の声を上げるデモの様子を、スマホで撮影しLINEにアップロードする、平和と電気の安定供給を当然とする傲慢な日本人だけに見ることの許された夢にすぎません。

エンタープライズ1.0への箴言


「仮想通貨に躍らされるな」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」