新聞購読を止めました

辿り着いたら産経新聞。これは交流のある同紙の記者から聞いた話です。新聞各紙にはそれぞれのカラー(論調)がありますが、日本の一般紙において「右」からの言論を求めると産経新聞に辿り着くというのです。かく言う私もそのひとり。左右のバランスを取るのに産経新聞は重宝していました。もっとも世界的な常識で計れば、せいぜい中道右派といった程度の偏りですが、その産経新聞の購読を9月末で止めました。

いわゆる「ネットがあれば新聞なんていらないぜ!」という幼稚な否定ではありません。一覧性と網羅性において新聞は圧倒的な存在感があり、興味の対象だけをクリックすることで、情報の蛸壺化に陥るネットニュースは足元にも及びません。だからいまでも数紙の購読を続けています。購読を止めた理由は産経新聞が0.2に堕したからです。

軽減税率の求めは論外

おとなりの韓国から「極右新聞」と呼ばれる産経新聞の2013年8月10日朝刊を飾ったのは、その韓国出身の男性アイドルグループ「東方神起」でした。「スカパー!」が出稿したラッピング広告で、新聞本紙を東方神起が包み込みます。ここ数カ月、週刊誌では「嫌韓」特集が組まれており、その理由を「月刊Will」編集長の花田紀凱氏は「売れるから」と2013年9月26日の産経新聞で告白します。産経新聞は報道機関として、安易に世論に迎合しないというのかもしれません。しかし、それは紙面ではなく別刷りの広告。つまり、広告費に迎合したのでしょう。これを0.2とはいいません。新聞も「商業出版」であり広告収入は重要。だから

「新聞に軽減税率の適用を」

という主張に首をひねります。金儲けのために税金を安くしろといっているのと同じだからです。

そんな産経新聞が一面コラムで「モテ期」「ジモト」と語ります。紙面に用いる「用語」を、各紙はそれぞれ定めております。SNSの「フェースブック」が「フェイスブック」に統一されたようにです。

幼児化という劣化

常に新しい言葉が生まれる日本語において、一般用語というコンセンサスを与えるのは新聞の社会的役割といっても良いでしょう。そして「モテ期」「ジモト」は老若男女すべてが解する一般用語ではありません。こうした「新語」を用いるときは説明を添えるものですが、欄外まで探してもわずかな説明すらありません。知人の編集者は早くから気がついており「ドヤ顔」「ツンデレ」「ポチャモテ」と例を挙げ、

「まるでネットのノリ」

と切り捨てます。

ユーザーが選択的に集うネット空間はサロンのような閉鎖性を持ち、独自の言語空間が形成されます。そこでは「ツンデレ」や「ポチャモテ」を知らなければ「ググれカス」と小馬鹿にされます。編集者が指摘するネットのノリとは、仲間内の符丁を一般用語のように振る舞う行為です。小さな世界の合意を、世界の常識のように錯覚するのが、ヘビーなネットユーザーの特徴で、ブロガーやネット発の有名人や著名人にも散見し、わたしはこれを幼稚園の砂場での戯れと重ねて「幼児化」と名付けています。そしてわたしにはお金を払ってまで「ネットのノリ」を楽しむ暇はありません。

最終的に購読中止の決断に至ったのは2013年9月14日一面コラムのこの一文です。

"ツイッターも「狼藉者に支配された荒れ地」になった、と嘆くのは上杉隆氏である"

これが0.2の証明です。

加害者による犯行解説

「上杉隆」氏といえば、ツイッター界隈では有名な「狼藉者」です。特に福島第一原発の事故以降の放射能問題については、誤報や虚報を繰り返したとされ、盗作疑惑まである「いわくつき」の人物。いわばツイッターを荒れ地にしたひとり。工場排水を垂れ流した会社の社長が環境汚染を嘆くようなもので、ひとことで言うならこう。

「おまえが言うな」

もちろん、上杉氏にも抗弁権はあります。だから彼の自己弁護は権利の範囲内ですが、しかし、報道機関がこの文脈における証言者として、上杉隆氏を採用することは論外です。上杉氏の名前を検索するだけでわかることで、つまりは「裏とり」をしていない証拠で、あえて言います、ググれカス。

もともと妻は産経新聞の購読に反対でした。論調ではなく拡張です。わたしの住むところでは「毎日新聞」が宅配していることから、新聞拡張員による契約時の「サービス」がほとんどありません。また、定期購読で損もします。駅売りで1部100円の産経新聞は月間契約で2,950円。宅配の新聞には毎月必ず休刊日があり、30日以下の月は50円割高となり、日数の少ない2月は250円損します。つまり定期購読する常連さんをないがしろにする料金設定…だけではありません。さらに「スマホ」ならば0円、無料で読めます。定期購読客を軽んじ、無料で読むネット読者の使う符丁におもねる産経新聞。そのくせ「ネットで検索」による裏とりすらしない。愛読紙だっただけに残念でなりません。

エンタープライズ1.0への箴言


「ネットのノリはネット界隈(業界)でしか通じない」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」